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実は深刻中国経済
三橋貴明
第3回 中国共産党政府の誤算
電力消費量公表を中止せよ!
2009年5月後半から6月にかけて、
中国の「発電量」の問題がクローズアップされ始めた。
発電量の問題とは、筆者がこれまでに何度か取り上げた、
電力消費量の件とほぼイコールである。
要するに、発電量や電力消費量が
対前年比で減少を続けているにも関わらず、
中国のGDPや工業生産がプラス成長になるのはおかしいという、
至極当たり前の疑問である
(※新聞記事などにおいて、発電量と電力消費量を混在させている
ケースを見かけるが、両者は異なる指標である。ただし、数値はほぼ同一になる)。
日本国内においても、『日経産業新聞』が5月27日に
「中国経済、発電量と物価で測れ」なるタイトルで、
中国の景気はむしろ発電量と物価により、
状況を判断すべきという主旨の記事を書いている。
行間に「中国の景気は経済成長率のみでは測れない」という主張が見え隠れし、
なかなか本質を突いた記事になっていた。
同記事において特に面白かったのは、以下の部分である。
「内陸部のインフラ投資に直結する分野では活況を呈しているとの報道も多い。
しかし、今年4月の中国の発電量は前年比2.4%減にとどまる。
内陸部の活況が沿海部まで波及していないことを示している」
中国は外需悪化が原因で急収縮する国内経済を、
4兆元(約57兆円)の政府支出により下支えしようとしている。
政府支出とは具体的に何かといえば、ずばり公共投資の拡大である。
今回の景気対策では、インフラ投資が遅れていた中国内陸部における、
公共事業拡大が目玉になっている。
結果的に、確かに内陸部のインフラ事業は、
それなりに活況を呈しているようである。
だが、沿海部の産業の中心であった製造業には、必ずしも波及していない。
特に、広東省など輸出が産業の中心だった地域の企業は、
現在も青息吐息の状況に喘いでいる。
ところで、中国の発電量は2008年以降、一貫して下落を続けている。
09年第1四半期における同国の発電量は、以下の通りである
(注:数字はすべて対前年比)。
☆☆☆2009年3月 マイナス1.3%☆☆☆
☆☆☆2009年4月 マイナス3.5%☆☆☆
☆☆☆2009年5月 マイナス3.5%☆☆☆
前回、米経済紙『ウォールストリート・ジャーナル』に、
国際エネルギー機関(IEA)が中国のGDP成長率と
エネルギー需要の食い違いについて、疑問視する記事が掲載されたと書いた。
このIEAの疑念に対し、
中国の国家統計局の責任者が、以下のように反論している。
「2009年第1四半期に、中国の産業構造が大きく変化した。
電力使用量の比較的少ない第三次産業の比重が高まり、
その第三次産業の成長率が高かった」
「電力消費の大きな産業の生産が減少し、
電力消費の小さなハイテク産業が大きく成長した」
思わず笑ってしまうほどに、苦しい弁明だ。
最初の「産業構造の変化」であるが、
確かに中国の第三次産業が成長していることに間違いはない。
しかし、工業生産のほうにしても、
「数字上は」充分なプラス成長になっているのである。
例えば、中国の国家統計局が6月12日に発表した5月の工業生産は、
対前年同月比で8.9%成長となっている。
発電量が対前年比で減少するなか、工業生産が9%近く成長しているわけである。
中国のエネルギー消費効率が突然高まったのでないかぎり、
真相は二つしかないわけだ。
すなわち、発電量が嘘なのか、工業生産が嘘なのかのどちらかである。
ついでに書くと、
国家の発電量に影響を与えるほどの大掛かりな構造変化が、
半年や一年という短期間で可能なはずがない。
二次産業から三次産業への構造変化は、
十年、二十年という歳月を費やして達成されるものだ。
参考までに、中国のGDPに製造業が占める割合をご紹介しておこう。
何と、2007年における工業(製造業)が占める割合は55%と、
中国のGDP全体の半分を超えているのである。
中国経済は、確かに「世界の工場」という呼び名に相応しく、
製造業に「依存しすぎ」ていることが如実に分かる。
同時に、世界的な外需縮小が原因で、
工業製品に対する需要が激減している現在の経済環境が、
同国にとってどれほど脅威であるかについても理解できるわけだ。
【図3-1 中国の産業別GDP構成 2007年】
今後の中国経済において、製造業の割合が縮小し、
サービス業が拡大していくことは確実だろう。
しかし、それは決して一年やそこらの短期間で達成されるものではないのだ。
また、
二つ目の「電力消費の小さなハイテク産業が大きく成長した」であるが、
こちらは明確に嘘である。
中国の5月の工業生産に関するデータを見ると、
高い伸びを見せているのは
交通運輸設備(対前年比12.8%増)やセメント(同13.5%)、
それに自動車(同29%増)なのである。
これらの産業が「電力消費の大きな産業」に該当しないとは、とても思えない。
また、コンピュータ・電子設備(同4.3%増)の数値を見るかぎり、
ハイテク産業が目立って成長しているという事実もない。
むしろ、インフラ投資や自動車と比べ、
低い成長率しか達成できていないのが現実なのだ。
さらにいえば、中国の製造業全体において、
ハイテク産業のシェアは元々それほど大きくはない。
例えば、中国の輸出統計における工業製品について品目別に見てみると、
何と75%以上が機械・輸送設備及び雑製品の二種で占められているのである。
シェアが小さいハイテク産業の電力消費が全体に与える影響など、
微々たるものだ。
前回も書いたように、中国の09年第1四半期の電力消費量は、
中国電力企業連合会の調査によると、前年同期比マイナス4%であった。
だが、工業生産の電力消費量に絞ると、前年同期比マイナス8.38%と、
全体を上回る落ち込みを見せていたのである。
4月11日に中国の温家宝首相は、
同四半期の鉱工業生産の伸び率は5%を上回ったと語った。
工業生産における電力消費量がマイナス8.38%に落ち込む中、
鉱工業生産が5%を超す成長を遂げたといわれてしまっては、
疑問をもつなというほうが無理であろう。
2009年春以降、筆者のみならず、
世界中の専門家たちが中国の発電量・電力消費と、
経済成長率の関係について疑問視するようになった。
発電量や電力消費量が対前年比でマイナスに落ち込むなか、
成長率が高まっているといわれても、
そのまま信じるほうがおかしいのである。
最後には、中国国内においても、
さすがに電力消費量と工業生産増加率の乖離が
問題視されるようになってしまった。
結果、中国がどのように対応したか、ご想像がつくだろうか。
何と、これまで毎月定期的に中国全土の電力消費量を
発表していた中国電力企業聯合会が、
唐突にデータの公表を取り止めてしまったのである。
その驚くべき報道に接し、筆者も慌てて調べてみたのだが、
確かに2009年4月以降の電力消費量については、
現在に至ってもいまだに発表されていない
(09年3月以前は、前月の電力消費量を、各月の中旬に公表していた)。
しかし、電力消費量と工業生産の乖離を
世界中から疑問視されているからといって、
いきなり公表取り止めという過激な手段に出るとは思ってもみなかった。
これでは、逆に統計情報を疑ってくれといっているようなものである。
一応、発電量については、いまのところ発表が継続されている。
しかし、このままでは、同指標の公表が取り止めになるのも、
時間の問題のような気がしないでもない。
7月4日。中国の国家電網は、6月の同国発電量について、
上旬が前年同期比マイナス1.7%、中旬が3.8%増、
下旬は7%増になったと発表した。
いきなり「上旬」「中旬」「下旬」に
細分化して発電量の発表を始めたのには、かなり唐突感があった。
結局、一カ月間を通すと、6月の発電量は前年同月比で
3.6%のプラス成長になったという。
6月中旬から発電量がいきなり上向きになった事実について、
中国の電力会社幹部が、同国の気温が急上昇し、
エアコン向けの需要が伸びたためであり、
「製造業の回復が本物か、注意深く観察する必要がある」
と、何だかよく分からない説明をしていた。
中国人のエアコン需要だけで、これほどまでに発電量が増減するならば、
ここ数四半期の電力消費量と工業生産増加率の乖離についても、いっそ、
「工業生産は増加していたものの、中国人民が突然エコと省エネに目覚め、
エアコンの利用が激減したために、電力消費量が減少していたのである」
とか何とか説明したほうが、逆に説得力をもつと思うのだが、いかがだろうか。
むろん、冗談である。
http://voiceplus-php.jp/web_serialization/china_economy/003/index.html
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