さくら通信/西岡昌紀

内科医のコラムです。気軽にお立ち寄り下さい。

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若者とお笑い番組






                             若者とお笑い番組




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     北朝鮮に拉致された横田めぐみさんのお母さまである横田早紀江さんの言葉に、忘れら
    れない言葉が有ります。それは、横田めぐみさんが失踪して間も無い頃、お母さまである
    横田早紀江さんが、つらくて堪らなかった物が、テレビのお笑い番組だったと言ふ言葉で
    す。記憶で書きますが、その言葉に依ると、自分の愛する娘が突然失踪し、その生死も分
    からないまま時間が流れる間、テレビから聞こえて来るお笑い番組の笑いが、辛くてたま
    らなかったと言ふのです。それはそうでしょう。自分の娘が生きて居るのか、死んで居る
    のかも分からない時、テレビから聞こえて来る馬鹿笑いが、母親の心にどう響いたかは、
    想像に難くありません。横田さんの回想の中で、とても印象に残って居る言葉の一つです。
    そんな事を言ふと、皆さんの中には、「そんな事を言ったって」と思ふ方も多いに違い有りません。
    確かに、人生とはそんな物です。誰かが不幸のどん底に在る時、別の誰かは人生を楽しんで
    居る。それが、人間の世界です。ですから、日本から一人の女の子が失踪したからと言って、
    他の圧倒的大部分の日本人が、私を含めて、それに関係無く、笑ったり楽しんだりする日常
    生活を送って居た事は、残酷ですが、もちろん、当たり前の事だったのです。
     しかしながら、その事自体は当たり前ですが、私は、横田さんのこの言葉が、どうにも
    心から消えないのです。その理由は、日本のテレビのドル箱であるお笑い番組に、私自身
    嫌悪感を持って居るからに他成りません。




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     最近、いじめによる自殺が多発して居ます。それらの悲劇の背景は様々で、一括りにし
    て論じてはいけないと思ひますが、報道される悲劇の経緯について読んで居て感じずに居
    られない事は、日本の子どもや若者の間に、モラルの低下が蔓延して居るのではないか?
    と言ふ思ひです。それは、私自身が、色々な場で子どもや若い人々に接して居て感じる事
    ですが、そうした若者のモラルの低下の原因の一つに、私は、テレビのお笑い番組の影響
    が、有るのではないか?と、真剣に思って居ます。私がそう思ふのは、日本の十代の人々、
    特に中学生などを見て居ると、彼らのちょっとした振る舞いや会話に、テレビのお笑い番
    組の影響を感じることが、非常に多いからなのです。彼らのちょっとした言葉使いや仕草
    にも、私はそれを感じます。そして、それを特に感じた事が有ったのは、少し前、テレビ
    の或る番組で、万引きをした少女達が店に犯行を発見されて店の奥の部屋で質問を受けて
    居る際、全く悪びれる様子も無く、ゲラゲラ笑って居るのを見た時でした。一体、何がそ
    んなにおかしいのだろう?と思ひましたが、彼女達のそうした感情の鈍磨に、私は、お笑
    ひ番組のギャラリーの笑い声が重なって見えて仕方が無かったのです。
     これは、もちろん、心理学や社会学の研究などではなく、私の直感でしたが、これが、
    当たって居るのではないかと思へたのは、最近の、九州の筑前町で起きたいじめ自殺の事
    例です。この事件では、自殺した中学生の担任教師が、彼(中学生)を皆の前で笑い者に
    した事が自殺を誘発した事が指摘されて居ますが、この教師のこうした行動には、お笑い
    番組の発想が影響を与えて居ると、私は、感じるのです。他の事例には、もちろん、他の
    事例での経過が有った筈ですが、想像を言ふなら、他の事例でも、何でもゲラゲラ笑ふ種
    にしようとするお笑い番組の感性が、子供達に、更には若い教師に影響を与えて居なかっ
    ただろうか?と、私は、考えてしまふのです。

     続発するいじめ自殺においては、実に様々な要因が、複雑に絡み合って居ると、私は、
    思ひます。少年法によって、恐喝や暴力行為を働く「少年」たちが罰さられない事や、教
    師、教育委員会の問題、それに家庭の問題など、実に色々な要因が絡み合って居ると思ひ
    ます。そして、私が以前指摘した様に、鬱状態に陥った子供を、周囲が、精神科的知識の
    不足から、励ますなどの、精神医学的に不適切な対応を取った可能性も有ります。本当に
    問題は複雑だと思ひますが、その要因の中には、テレビによって子供たちの感性、感情が、
    他人の感情を理解出来なかったり、悪い事をしても罪の意識を持てない物にされた事も、
    有ったのではないか?私は、そんな気がして居ます。

     私は、続発するいじめ自殺について、テレビが多くの時間を割いている事は良い事だと
    思って居ます。そして、現場のテレビマン達の真剣さを疑おうとは思ひません。しかし、
    テレビ局は、学校や教育委員会、文部科学省などの姿勢を批判するのと同時に、自分達の
    番組が、子供たちの感性、感情に影響を与える形で、いじめ自殺の共犯に成って居る可能
    性が無いかどうか、自省するべきではないか、と思ふのです。



 

    平成18年11月15日(水)

    横田めぐみさんが拉致された日に





                                           西岡昌紀(にしおかまさのり)

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