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その日はとてもよく晴れていました。
素敵な陽射しが真っ白な山や、大地や、ロッジの上に、さんさんと降り注いでいました。
ロッジの屋根に、ポツンと黒い点が見えます。
よく見ると、それは屋根の上に腰掛ける一人の若者でした。
黒い頭巾に、黒いファー付きジャケット、黒いパンツ、黒いブーツ。
黒ずくめです。
黒ずくめの若者は煙草を思いっ切り吸い込むと、
上を向いて、よく晴れた空に煙をふぃーと吹き上げました。
青空に白い煙が浮かびます。
それはまるでとても近い場所に浮かぶ雲のようでした。
やあ、今日はなんて気持ちのいい天気だろう。
彼は相棒のニッセに言いました。
「煙がまるで雲みたいだな」
ニッセとはサンタクロースのお手伝いをする妖精です。
サンタさん一人ひとりに相棒のニッセが居りますが、
彼の相棒は黒く光っておりました。
黒いニッセは小さな星型の体をふるふると振るわせて答えました。
これはつまり、
そうだね、
雲みたいだね
という返事です。
若者がふいーっと吐き出した雲に、
黒いニッセがふわりと乗っかりました。
雲に浮かぶ星のようです。
若者はニッコリと微笑みました。
「そんなに雲にあやかりたいかね」
煙草を吸うと、今度はニッセに向かってフー!と吹きつけました。
ニッセはくにゅっと体を曲げて、ケホケホと咳き込みました。
それを見て若者はあははと笑いました。
するとニッセは若者の頭に激しく体当たりをし、
若者は「いてっ」と言いました。
ニッセがぶつかった頭をさすりながら、
若者はまたニッコリと微笑みました。
自分とこいつ以外は誰も居ない屋根の上で、
いつもと同じ様な一日が、
いつもと同じ様に過ぎて行く。
この日も、若者はそう思っていました。
「おーい!」
下の方から声がします。
不審に思いましたが、自分が呼ばれるはずはありません。
若者は声を無視しました。
「おーい、黒サンター!」
若者はびっくりしました。
毎日屋根の上に居ますが、名前を呼ばれたことは一度も無かったからです。
何事かと思い、下の様子を窺おうと思いましたが、めんどくさいなあとも思いました。
「おーいってば!」
声はその大きさを増していきます。
黒サンタは、うるさいなあと思いました。
しょうがないので屋根の端っこへと向かいました。
相棒のニッセも付いて来ました。
首を伸ばして顔だけで下を覗くと、若いサンタクロースの姿がありました。
若いサンタは険しい顔でこちらを見ています。
そして手招きだけして、「降りて来い」と命令しました。
それを見た黒サンタは、やや間を置いて、「いやだ」と答えて、首を引っ込めました。
「ちょ、ちょっ、ちょっと待てって!社長がお前を呼んでるんだよ!」
黒サンタはまた首だけ屋根の上から覗かせました。
「社長? 誰、社長って」
「大サンタさんだ」
黒サンタはムツカシイ顔をしました。
そのまま固まったように動かなくなってしまいました。
なんで自分が呼ばれたんだろう。
今まで一度も呼ばれたことなんてなかったのに。
黒サンタは随分と長い間、その場に固まっていました。
ニッセが黒サンタの周りを心配そうにふわふわと回っていました。
下にはイライラした若いサンタクロースがソワソワと体を動かしておりました。
やがて、黒サンタは言いました。
「分かった、行くよ」
それを聞いた若いサンタクロースは喜ぶでもなく、フゥっと溜め息を吐きました。
毎日ロッジの屋根の上に居る黒サンタは、
ロッジの中に入ったことがありません。
黒いサンタは黒いニッセと顔を見合わせました。
「なんだろうな」
ニッセは小さな星型の体をふるふると振るわせました。
それはつまり、
なんだろうね、
こわいね。
でも、ちょっと嬉しいね。
という意味でした。
黒サンタはフフッと吹き出しました。
「そうだな」
黒サンタは立ち上がると、持っていた煙草を携帯灰皿に押し付けました。
続く。
かも。
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