|
相手にレッドカードも出た母校の試合後。
フィジカルな友人A夫婦との食事は荒川区某所の焼肉店だった。
予約をしてくれたAが携帯に送ってくれた店の紹介文の香ばしいこと。
肉の旨さもさることながら、決して飛び込みで入るもののいないであろう店構え、オカアサンの接客の恐ろしさ・・・「焼肉を追い続けたものだけが辿り着く焼肉の終着駅」とある。
Aからのメールを表示するディスプレイは目前に走ってきた巨漢FWの如く威嚇してくる。
久しぶりの焼肉で超コアな店への入店は嬉しいプレッシャー。
しかし予約の6時になっても店は開かない。
看板に明かりも点らず、知らぬ人はとてもこの店が営業しているとは思えないだろう。
しかし店の前にはジャンキー達、中毒者どもが並び始める。
空腹を持て余すハングリー野郎グループも、俺こんな店知ってるんだカップルも、皆が虚心坦懐にただ肉を欲して列を成す。
開店時刻から遅れること30分、とてもやさしそうな男性が店を開ける。サッチーに対するカツノリに例えられる二代目の息子さんだ。
ドアの向こうで開かれる古びたカーテンが新鮮な昭和の空気をふりまく。
遅れた開店から更に遅れること数分。
名物オカアサンの登場に店内の緊張が高まる。静かな店内は静寂へと昇華した。
いきなり、座敷の客の靴の脱ぎ方、座り方に対する激しい叱責。
張り詰めた空間の中で、叱られる対象にならなかった幸運に感謝するテーブル席の連中達。
オカアサンのまだ冷めぬお怒り、背中越しの独り言は明快だ。
しかし、テーブル席の連中の幸運も長くは続かない。注文のやりとり、追加注文のことでお叱りを受けている。恐らくは店と客の一般的な関係が逆転した上での、いわれのない類のものに違いない。
オカアサンは何かを運ぶたびに「追加注文は禁止だよ!」「座布団は一人一枚だよ!」
タレ皿は飛んでくるほどの勢いで机上に配布され、火加減を勝手に変えることもご法度だ。
若者グループが命乞いでもするかのような表情、陽炎の如くか細い声でビールのお替りをたのめば
「飲み物は追加してもいいよ!」
オカアサンが何か言葉を発するたびに、各テーブル毎に皆がアイコンタクトを楽しむのは、人数だけは多勢な客側のささやかな特権である。
二代目曰く「恐怖政治のような接客」が存在しうることが面白かった・・・今まで見たことのないお店のヒト。しかし、客がひとたび食べ終えれば、オカアサンは一転して笑顔で「ホント、お待たせしてごめんねぇ、有難うございましたぁ」なのである。この最後の激しいギャップ、厳しいムチで腫れ上がった心へのアメに差し込まれたら、もうオカアサンの虜である、おまけに肉は絶品だ。
さすがの人気店も日曜日の夜には勝てない。明日を意識する客達は9時前には、生温かい笑顔で送り出された。賑々しく会話を楽しみながら、ゆっくりと肉を楽しんでいた我々はいつの間にか最後の客になっていた。
稀有なコミュニケーション能力を誇るAがオカアサン、そして途中から「仕事?」に来たオトウサンと会話を楽しみ始めた。オトウサンと並び、遅い食事をとり始めたオカアサンは優しい下街のオバサンに戻り始めた。
オカアサンは泰葉に苦言を呈し、骨折した腕の痛みを少なくない酒でいなしながら笑顔で会話に興じる優しいオカアサンだった。ギャップとアメに差し込まれていたに違いない私に、オカアサンがライスと漬物をサービスしてくれた頃、見るからに優しき二代目が厨房仕事を終えて出てきた。
棚上テレビで日本シリーズ最終戦見ながらスポーツ談義。
ダイエーファン、王監督ファン、そしてアンチ(巨人+西武)の二代目とまったりシリーズ最終戦を見ながら、何故か国際プロレスネタで盛り上がる。ラッシャーの健康を危惧し、AWAの帝王・バーンガニア、人間風車ビル・ロビンソンの話になった頃には、二代目と私以外(オトウサン、オカアサン、A夫妻)はかなりのアルコールドテンション。オトウサンは口からライスを飛ばして戦争について熱弁を振るう。
オカアサンに接客の激しさについてやんわりと話をふってみた・・・素面の私は玉砕覚悟。
「あたしもみんながガツガツ食べてお皿の肉がなくなるといやなの、こっちもあせっちゃってさぁ、だからゆっくり食べてほしいんだ、いつもあんなでごめんねぇ〜」
激しすぎる言動は、決してスマートではないプロ意識のひとつなのかもしれない。間違いなく見せない優しさがある。
帰り際、やはり我々のことも店の外まで見送りに。
クイーンの笑顔で「遠いから運転気をつけてねぇ!」
店の奥では私と素面同盟であった二代目が息子の顔に戻り片づけをしている。
Aのおかげで初めて入店の「焼肉の終着駅」は実に濃厚かつ美味な空間であった。
また、行くに違いない・・・オカアサンに会いに。。
|