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数年前・・・うーん・・・7、8年前の夏だろうか。私は運河の見える高層階の一室にいた。
色気もへったくれもない、大学ラグビー部の同期の会社寮。これでもかと散らかった部屋と、窓の外のベイエリアの夜景のコントラストが、ヤツの天然ものキャラクター同様に可笑しかった。たしか、何かの飲み会の帰りに、帰宅するのが面倒だったゆえの成り行きだったはずだ。
部屋ではキャッチャーマスクみたいな防護網カバー?が外れた扇風機が裸の羽をまわしていた。
私は「桃の天然水」をガブ飲みし、ヤツは自らの城に戻って尚ビールをあおっていた。
独身寮ゆえに狭い部屋だったが、ヤツの整理整頓の拙さも手伝い、部屋の中の移動はやや面倒。
私がトイレに向かうべく悪路を跨ぎ、「お前さぁ・・・」の言葉が口をついて出そうになったその時!
私の膝が「裸の」扇風機の羽に当たった。
「ブルンッ!」 短く、そして鈍い音が響いたと思ったら、哀れ、扇風機の羽が1枚飛んでいた。
3枚羽が2枚羽になった・・・。では鳥のように飛ぶのか? 勿論飛ばない。
1枚の羽を失った扇風機は、捕り物最中の凶悪犯のごとく、2枚羽を凶器のように振り回して横転している。
「あぁ〜、扇風機・・・」
ぼやくようにヤツが2枚羽の友を起こしたとき、軌跡が起こった。負傷の扇風機は、ガチョウがケンケンでもするかのように歩き始めたのだ。カレーパンの空き袋や、脱ぎ捨てられたワイシャツの間を縫うように、見事に扇風機が進んでいく。これにはビールでアルコールを増量していたヤツは勿論、桃天で薄めていた私も大爆笑。その晩は、いい歳したサラリーマン二人が扇風機をペットのごとく可愛がりながら、興奮の一夜を過ごしたのだった。扇風機は羽が1枚なくなると、回転がブレて激しくstruggleする、そして進む・・・実社会ではおよそ役に立たないことを学んだあの日。
そんなヤツから昨晩電話があった。クラブラグビーへの情熱消えぬ熱血漢は、背後に都会の雑踏の気配を滲ませながら言った。
「オレさあ、スパイクのポイント取り替えるときにいつも思うんだよなぁ。ポイント替えるなんて数えるほどじゃん。最近、トレーニングもしてないし・・・いつも、このポイントが最後のポイントになるんじゃないかなぁって・・・。いつ何があるかわからないもんなぁ。怪我とかさぁ・・・。」
今は結婚して、快適な生活を送っているヤツだからこその、過剰な楕円自虐発言。
私は鼻で笑って
「お前に、それはないだろう・・・きっと赤パンツ、黄パンツまでやってるよ!」
電話を切った後、無性に可笑しくなった。
ヤツは、あの羽を折っても前進を続ける扇風機を誰よりも知っているはずなのだから!
「不惑ルール」なら真剣に紫まではやりそうな、ヤツも現在「青二才」。。
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