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〔けやきグランド杮落とし〕
快晴の12月20日。
世の大学ラグビーが大学選手権1回戦に沸くこの日、我が成蹊大学では「けやきグランド」が杮落としとなった。甲南大学との定期戦である。
冬の穏やかな日差しが緑の絨毯を優しく照らす。
まるでグランドを清めるかのように、朝早くから部員達が落葉を拾った新グランド。
人工芝の緑と、それを囲むトラックの茶のコントラストが鮮やかだ。
メイン側の赴き深い石段は、綺麗なブルーのスタンドになった。中央には放送席に貴賓席、そして上には屋根つきのスタンドまである。
バック側には移動式の電光掲示板。
土のグランドに汗を流した先輩諸氏も、新しいグランドを笑顔で確かめる。
まめまめしく働く部員に声をかけながら、不惑の巨漢LOが機知に富んだジョークを呟いた。
「この人工芝の下に、俺のコンタクトレンズが何枚眠っているのだろう」
氏のコンタクトレンズとともに、沢山の先輩の汗も血も眠っている。
高名な肉料理の肉汁よろしく、新たなグランドに封じ込められるべき成蹊の伝統と価値。
それはグランドこそ「人工」になっても、学生がひたむきにプレーする「生身」のラグビーの継承である。
この日、新グランドの歴史は、将来の楽しみな中学生の試合に始まり、大学の定期戦へと繋がった。「けやきグランド」は、まだ最初の1ページ。しかしあまたの歴史を連ねてきた後の新たな1ページだからこそ、先に馳せる思いは熱くなる。
歴史と思いは永遠に繋がっていく。
これからも現役、OB、関係者は、けやきグランドを前に同じ方向を見つめていくのだ。
〔甲南大学定期戦〕
今季、ジプシーを強いられたチームにようやく、グランドが帰ってきた。
芝は人工芝に変わっていた。
長きにわたり神戸・岡本と武蔵野・吉祥寺を結んできたこの定期戦。
1年に1度、必ずワインカラーのジャージに遭遇してお互いの力をぶつけ合う。
お互い持ち回りで、神戸、吉祥寺に招く友との交流。
ラグビーとは絆だ。
だからこそ、新グランドの最初の相手が甲南大学なのは必然かもしれない。
この記念すべき杮落としにして、2009年度の4年生の最終戦。
いきなり先制トライを奪ったのは成蹊。
記念すべき最初のトライは4年生SO・堀江だ。
ふわりとキックオフを蹴った男は、その5分後、自ら東側のインゴールポスト下に飛び込んでいた。4年生SO・堀江。本人は表情を崩さないのに、周囲が笑顔を隠せないのは、皆が堀江の努力を知っているからだ。
「ヨネ、ナイス!」
きっと出身校系(米子東高校)のニックネーム。朴訥としているようで、ひたむきな強さを持つ山陰の司令塔。大学ラグビー部の「けやきグランドの初トライ」は、鳥取の男がスコアした。来春、就職で郷里に戻る男は、大きくて確かな足跡を東側インゴールに刻んだ。
三雲のGも決まる。試合の入りとしては最高だ。
その後、甲南のディフェンスを崩せずに追加点を奪えない成蹊。
前半15分。自陣からのパントをキャッチした相手めがけて、槍の如きビッグタックル。
WTBの高橋隼だ。こぼれ球はLO永井に渡り、大きくゲイン。
PR福嶋はいつもの様にスクラムのみならず「きかん坊」みたいな顔で強引な突進を見せる。
WTB浦野、FB三雲はボールを持てば必ず鋭い突破を見せる。
まるで申し合わせたように、前半から4年生がゲームを引っ張っていた。
19分、下級生も4年生に負けじと、左隅のモールからFLのルーキー三浦豪がサイドをこじ開けてトライ。三浦豪はその後もタイミングの良いフォローで敵陣を走り回る。
前半20分、福島をフォローしたPR新井が阿修羅のごとき突進でゴールに迫る。
あと2m! しかし甲南の激しいディフェンスにインゴールには届かず。
新井はこのプレーで無念の負傷退場・・・
26分新井に変わってPR斉藤が入った5mスクラムを押し込む。
最後はNO8小林がしっかりインゴールに抑えてトライ。三雲G成功。
39分、中盤でパスを受けたWTB高橋が左右に幻惑。右タッチ際を走る。
相手FBをこれでもかと引き付けてラストパスを放れば、三浦嶺の前には誰もいなかった。
右ライン際を20メートル快走した三浦は、前半最後のトライを右隅に決めた。
後半も5分に「弾丸」永井がゴール真下に駆け込むと、成蹊は流れを摑んで離さない。
12分には敵陣ゴールまであと10mの右ラインアウトを小林がキャッチ。
しっかりと組んだモールを押し込み、最後は三浦嶺がこの日3つ目のトライ。ルーキーの見事なハットトリックだ。
そして19分、中盤での永井の豪快な突進から左展開。SO堀江とクロスしたCTB貝渕がディフェンスをかき分けるようにしぶとく前進、綺麗に球を出す。
この好球を捌くべき男は、自ら球を活かした。
後半からSHに入った中村だ。
密集サイドを素早く抜けると一気にインゴールへ! ボールはインゴール「SEIKEI」の「S」の字あたりにそっとグラウンディングされた。
主務・中村のトライに沸く成蹊。
そして31分。大森からパスを受けた和田がハーフウェイから一気に左ライン際を駆ける。最後は、相手ディフェンスを直角のステップで軽快に抜けると中央に回り込んだ。これこそは、主務と副務の緻密な連携のごとき「連弾」となるトライであった。
メンバーも部員たちも一気に盛り上がる。
後半は右WTBに入った主将も黙ってはいない。
35分、普段とは違った位置からチームを纏めていたCap池田。
10m付近から22m付近まで好走したルーキー尾上の、「ソフトで優しい」ラストパスを受けて、ゴール中央まで走り込んだ。それでも、笑顔ひとつ見せない主将の表情は、最後まで「闘将」のそれであった。
クライマックスはロスタイムに入った41分。
ハーフウェイ左のモールを押すFWは猛獣の様に力強かった。後半からLOに入った二井が遮二無二密集を押している。そしてSH中村がボールを持った。
息を潜めていた猛獣使いは、右に展開すると見せかけるや、一気にタテに出た。密集サイドで加速すると、ゴールへ一直線。相手くれば鋭角にかわし、学生最後の中村のランをけやきグランドにいた全ての成蹊関係者の声援が後押しした。
インゴールは見えた! あと1m・・・甲南の切れないカバーディフェンスが、容赦なく襲い掛かった。
中村は一度は転倒しながらも、ワンアクションで見事にグラウンディング。
まるでフォローしていたかのような、水色のジャージの桜岡レフリーの右手が真っ直ぐに上がった。
中村この日2本目のトライだ! フォローしていた太田、和田が笑顔で駆けつける。
「バルサン! ナイス!」
スタンドから多くの声が飛んだ。
事実は知らない。しかし、バルサン・・・きっとバルさん、バルタン星人だ。
今年度、主務の激務をこなし、練習に、試合に奮闘した中村は、まさに増殖するバルタン星人の様に、一人で何人分もの役割を全うしていた。
2009年度の最後のトライを中村が刻んだとき、このチームの良さを改めて痛感させられた思いであった。ゴールを狙う和田。
今季のスクラムを支えたひとりである、負傷者のPR阿部(4年)がまめまめしく働いていた。ドリンクボトルとキックティを持った彼が、ゴール裏で私に呟いた。
「4日前の練習で膝の靭帯を負傷しまして・・・でも、今はオレ以外の4年生、全員が出てますよ」
グランドでは4年生が「最後の成蹊ラグビー」をエンジョイしていた。
西日に照らされる記念撮影が眩しい。直射日光に対座する笑顔も本当に眩しい。
カメラマンの指示で交互に整列する様はまさに「ノーサイド」
よほど眩しいか、笑顔が余計に崩れる両校の仲間たち。
これで2009年度は幕を閉じる。
薄暮のけやきグランド。
4年生の最後の試合という感傷も手伝って、私の体内時計は狂っていたか。
もう午後5時は過ぎているかと思えば、まだ3時過ぎだった。
友と語る時間はたっぷり残っている。寒空の下、アフターマッチファンクションに向かう選手も、OBも皆が嬉々として明るい。
今年も1ページ増えた定期戦の歴史。
岡本〜吉祥寺、直線距離にして550kmを超えた楕円(縁)の絆。
甲南大学は、西の永遠のライバルであり友である。
甲南大学に感謝しよう。全ての成蹊関係者に感謝しよう。
来年も甲南にとって、成蹊にとって・・・そして「全てのラグビー」にとって良い年でありますように。
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