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回想編
7月のある日のこと、分校での夜の授業を終えてタクシーで本校に帰り、職員室でその日の整理と翌日の授業の準備をした。夕方に簡単な食事しかしなかったのでお腹が空いてきた。食事に出かけようと一階に下りたら玄関のシャッターが閉まっているではないか。「なんで閉めたの?まだ10前だよ!」と、留学生クラスの学生に聞くと「校長の指示です」と返事が返ってきた。「え!何で。門限は11時だろ。」と大きな声が出てしまった。「嘘だろ!」と言うと、ノートらしき物を見ながら「そうです、間違いありません。校長から9時半に閉めるように指示が出てます。」と言う。そんな馬鹿なこと!!と私は怒りが湧いてきた。私たちのことなど何にも考えていないのではないか?と疑問が湧いてきた。この学校は夜の授業が午後九時に終わる。分校での授業が終わって宿舎がある本校に帰ってくると9時半から遅い時には10時になる時もある。本校での授業が終わって即外に食事に出ても9時半には間に合わない。そうなると、一々ベルを鳴らしてシャッターを開けて貰うしか無いのである。なんで、そんなことしなければならないのか。
同僚の日本人教師の話だと、最近1階のロビーに新しくテレビを買い替えたり、テープを聞けるようにヘッドフオンが複数個設置されたので、盗難避けにシャッターを早く閉めるようにと校長の指示が出たとのことらしい。もう、開いた口がふさがらないという表現がぴったりの状況だ。
その一階のロビーが綺麗にされたのは最近である。その作業が始まる少し前に、ホーチミン市の日本領事館のトップが当学校を訪問するという案内が流れたのである。それから、急に学校内の清掃作業が始まった。特に、一階の玄関のロビーには古い椅子等があって、中にはスプリングが飛び出しそうな物もあったりでとても座れたものではないという状況であった。その椅子が撤去されて新しくなったので、良かったと思っていたが、同時にヘッドフオンが複数設置されて日本語のテープが聴けるようになったのである。その一連の作業は、 日本領事館のトップが当学校を訪問するのに間に合うように 、学校の事務方スタッフが総動員されて突貫作業で行われたのである。
ベトナム人は見栄を張ると聞いていたが、正しくそれは校長の見栄の為であった。その一連の状況を見ていて、昔、会社員だった頃を想いだした。本社から社長が支店に来るということになると、支店では急に慌てて清掃や片付けをしたりするのである。それは、少し前まで日本の多くの会社組織で見られた光景である。内心、日本人も似た様なもんかと思う。
しかし、その結果が、門限がいきなり11時から9時半になるとは!!何を考えているのか?「私は独裁者だと言われています。」と会議で言っていた校長の言葉を思いだした。鶴の一声で、いや神の声で門限が変わる、そこには宿舎に住んでいる私たち日本人教師の存在などないのだと理解した。
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