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抗リン脂質抗体症候群および後天性血友病の概念と検査診断プロセス
山口大学大学院医学系研究科・生体情報検査学
野島 順三
 
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1.止血栓の形成
健常状態では,血液は血管内を固まることなく円滑に循環(circulation)する.この状態は,血管壁・血液成分・血流の3大要素の密接な相互作用により保たれている.その中でも血管内皮細胞は強力な抗血栓作用を示すことにより,血管内恒常性の維持に中心的役割を担っている.この血管内皮細胞が機械的あるいは機能的に傷害を受け出血をきたすと,損傷部位に効果的な生理的血栓(hemostasis)が速やかに形成され出血を止める.これを生体の止血機構といい,1)血管の攣縮,2)血小板血栓の形成,3)血液凝固反応によるフィブリン血栓の形成の3つの機構が有効的に働く.生理的血栓を超えて血流を障害(遮断)するような病的な血栓形成が起こると血栓症(thrombosis)となる.病的血栓の形成機序は基本的には生理的血栓と同じであるが,生理的血栓が損傷部位のみに特異的に形成されるのに対して,病的血栓は血管内腔に向かって暴走し,血管を閉塞するまでに至る.
血管の内壁表面を覆っている血管内皮細胞が正常な状態では,血小板は血管壁に粘着・凝集しない.しかし,血管内皮細胞が傷害を受け,血液が血管内皮下組織に接触することにより,損傷部位に露出した膠原繊維(コラーゲン)に血小板が粘着する.粘着した血小板は細胞表面に突起を生じ,アデノシン二リン酸(ADP)やアラキドン酸代謝産物であるトロンボキサンA2TXA2)などの血小板活性化因子を放出することにより周りの血小板の活性化を引き起こし血小板同士が凝集することにより血小板血栓を形成する(一次止血).血小板血栓は血管の損傷部位に栓をする形で止血するが可逆的な血栓であり,完全な止血のためには二次止血機構が必要である.
血管が損傷されると,血小板血栓による一次止血に並行して血液凝固系が活性化される.血液凝固因子は,血管外から侵入してきた組織因子(TF)との接触や血管内皮下組織との接触などを引き金として活性化され,血小板血栓上(血小板膜表面リン脂質)を反応の場として急速に凝固機構が展開する.この反応で生じたトロンビンは,血小板凝集塊に働いて強固な血小板血栓を形成すると共に,フィブリノゲンを限定分解し繊維状のフィブリン網を形成する.そのフィブリン血栓が血小板血栓を覆うように絡みつき,血球も巻き込んで不可逆的な血栓を形成する(二次止血).
 
 
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病的血栓形成の要因
1856年,ドイツの病理学者Rudolf C. Virchowは,動脈・静脈血栓症の原因となる病的血栓の形成には,①血管内皮の異常,②血液成分の異常,③血流の異常,が3要因「Virchow3要因」であると提唱した.この「Virchow3要因」は病的血栓形成の本質をついており,150年以上経った現在でも動脈・静脈血栓症の発症機序を解明する上で中心的概念となっている.
1.血管内皮の異常
血管内皮細胞は,強力な血栓制御機構を示す多機能細胞であり,血管内恒常性の維持に中心的役割を担っている.それ故に血管内皮細胞の障害は,残りの2要因(血液成分と血流)の異常も惹起させ,3要因は負のスパイラルとなって悪循環を繰り返し病的血栓形成に至る.特に動脈血管内壁は,加齢・高脂血症・高血圧症・糖尿病・喫煙・感染症・炎症・自己免疫疾患・酸化ストレスなど様々な要因が重なってアテローム性動脈硬化症をきたし,脳血管障害や虚血性心疾患の危険因子となる.
2.血液成分の異常
血液成分には,白血球・赤血球・血小板などの血球成分と凝固因子・凝固制御因子・線溶因子・線溶制御因子などの血漿成分とがある.血球成分では,血小板の活性化・凝集を中心に単球や好中球なども血管壁に作用して病的血栓形成に積極的に参加する.血漿成分では,凝固因子・凝固制御因子・線溶因子・線溶制御因子の4者が巧みにバランスをとり生理的均衡状態を維持しているが,凝固制御因子や線溶因子の欠乏は病的血栓形成の病因となる.
3.血流の異常
血管の分岐部近傍や狭窄部位に血栓が発症しやすいのは,これらの部位には乱流や逆流が起こりやすく,こうした異常な血流が血管内皮を障害し病的血栓形成の引き金となる.また,安静臥床時やギプス固定による血液の停滞や血管の圧迫も病的血栓形成の引き金となる.
このように血栓症発症機序には,血管内皮細胞の障害を中心に,血小板活性化の異常亢進,凝固機構の異常亢進,線維素溶解機構の破綻,血流の異常が重要な要因となる.
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