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紀行文(3)
木の真ん中が枯れているようだが、どうなってんだろう。看板が出ているが、字が消えていて読めない。が、ダンディが判じ物のような文を解読していた。なんだらかんだら書いてあったらしく、ご本人は「フムフム」なんて言って納得している。何だ何だ、教えてもらいたいものだ。
「カゴノキ」とは「鹿子の木」と書き、樹皮が丸い薄片になってはがれ落ち、その跡が白い鹿の子模様になることから「鹿子の木」と言う名前がある。クスノキ科の樹木だ。昨年1月、山の会で登った沼津アルプスという名前の山の尾根で見て始め名前がわからなかったが、後で「カゴノキ」と判明した。小石川植物園にもあって、ようやく自分の中では市民権を得た植物だが、あまり見かけない。古道マニアの旦那は地元で見かけたとは言っていたが。
ぞろぞろ団体が登ってきた。トップの男はこっちをじろりと見て、値踏みをしていたが、どうも日影から歩いてきたらしい。さっきバスの中から姿を見た。寺の奥へと消えて行ったと思ったら、案の定、我々と同じ、トイレ休憩をしに寄ったみたいだ。こちらもしばし休む。寺にしては、というより寺の檀家のために、きれいな後架のようだ。ここから見る「カゴノキ」はさっき下から見上げるのと違って間近に生えている。どうしてかって?それはトイレが坂の上にあるからだ。若女将が「ねえ、カゴノキの葉っぱってどんなのかしら」なんて言って確めに木に近づいた。クスノキの仲間だから三行脈の葉脈なんだけど、葉っぱは細くて当然常緑だ。
休んでいると、携帯が鳴った。桃太郎だ。今寺の前にいると言う。じゃあー、もう会える。と思ったら巨体が姿を現した。これで全員揃った。19人の大所帯だ。
寺の入り口に出ると、別の集団は外へ出て小仏峠方面の道へ歩きだしていた。
こっちは坂を登って少し進むと宝生の滝への階段を下りる。奥の方に滝が見えるが、ドクトルが先にずんずん進む。昨日来たときはそこまで行かなかったのに、彼は靴が濡れるのを恐れず、どんどんと奥へ入って行った。わたしも中を覗くと滝の水流が激しく流れていた。別名「不動の滝」というのだそうだ。昨日はまさかここが宝生の滝だとは思わなかったので(つまりあまりに貧弱だったので)、もっと奥の山道に入って行ったら、きこりの作業員が「こんにちは」と遠くから声をかけてきた。「あのう、宝生の滝って何処ですかあ」って聞くと。「知りませんねえ」って言う。「上に何かありますか」って問うと「なにもありませんよ。上で木を伐採してますから気をつけて行ってください」と言われてしまった。木に張り紙がしてあって「この付近は猪が出没するので、罠が仕掛けてありますから近づかないでください」と書いてあったので引きかえすことにした。結局「不動の滝」すなわち「宝生の滝」ってことだ。後で道を歩いていたおじさんに聞いたら「今は不動の滝って言うんだよ」と言われてしまった。
滝から道に戻り坂道を登る。駐車場の脇にある樹木を説明をするために案内したのだ。「フサザクラ」だ。ダンディが電子辞書で調べてくれたら「総桜」と書くのだそうだ。もっとも図鑑で見たら「房桜」とも称する。フサザクラ科だ。花の展開する前に開花する。花には花弁や萼がなく、垂れ下がった雄しべがよく目立つ。枝を折ってみんなに見せようとしたが、木が生えているところは急な坂になっていてコンクリートの段の下は土が出ている。滑ると下の渓流に落ちてしまう。「隊長、危ないよ」と言ってくれるが、何としても枝を折りたいと思う。寺の境内ではないから、ポキリ枝を採っても罰が当たらんだろう。が、イトハンが手を出して呉れた。手を握っていいものか躊躇する。おいらのエンガチョの手で美しいイトハンのお手々を触っていいものかどうか、男たちの嫉妬がおっそろしい。で、思い切って腕を掴ませてもらうことにして、早速下に降り枝をゲットした。
「ほら、花びらがないでしょう?先が尖っているのも特徴です」
隣の黄色い芽がでている木、古道マニアの旦那がしきりに「何だろう、この木」なんて言っている。わからん。で、旦那に聞いてみる。「古道さん、これ何ですか」って。「いやわからないんですよ」と旦那も不審顔。後で枝が見て取れるところで冬芽をかんさつして「クロモジ」とわかった。樹木全体を見て木の名前がわからないのは修行不足だ。肝に銘ずる。「木を見て森を見ない」の喩の通り、わたしの知識は不完全だと認識する。しかし、クロモジの多いのにはびっくりだ。クロモジの冬芽は両側が丸い花芽、真ん中は細長い葉芽で花芽より長いのが特徴だ。また枝をこすってみると、いい香りがする。それが楊枝になる由縁だ。似ているアブラチャンの冬芽は両側の丸い花芽の方が真ん中の葉芽より大きいので直ぐわかる。枝の香りはない。ただし、若い果実は割ると柑橘系のさわやかな香りがする。
車道を戻ることにする。道の左側に「アオイスミレ」が咲いていた。数人が先に行こうとするのを呼びとめてこの花を観察する。葉っぱが葵の御紋のようにまん丸いが、新葉はくるりと巻くのが特徴だ。また雌しべの柱頭が折れ曲がっているのも識別の決め手である。とろとろ30分歩いて日影に着いた。
沢の中に降りることにする。道が濡れていて、滑りやすく、また岩が出ていて転んで頭を打ったりすると大変なので、女性群には「世間話をせずにしっかり歩いて平なところまで降りてください」と忠告する。板敷きの橋は濡れていて極めて滑りやすい。「ほんと、ほんと、スリップしやすいわねえ」と若女将が心配する。さて川べりに降りることにする。「ハナネコノメ」の赤い雄しべが美しい。が、何せ花が小さくて腰を曲げないとよく見られない。みなさん、花を撮るのに夢中だ。サンゴみたいな花が5,6本の赤いスジが出ている「コチャルメルソウ」、花が汚れて見える「ヨゴレネコノメソウ」などを説明していると、ドラエモンが、自分の持ってきた図鑑を開き、崖の下に生えている花を見て、勝ち誇ったように大笑いのコンコンチキで「アツ!これミヤマネコノメソウ(イワボタン)だあ」と叫ぶ。ヨゴレネコノメそっくりだ。ヨゴレと説明したおいらのメンツはどうなるんだ、むっとする。古道マニア夫人も「これは絶対ミヤマネコノメソウね」とドラエモン支持派だ。後でS市植物友の会のSさん(この間来たときにはSさんもヨゴレテネコノメだと説明していたが)も「ミヤマネコノメソウ」だと認めた。
しゃーない、これはドラえモンの方が合っていた。間違いは間違い。知らないことは知ることという哲学を貫いているおいらのこと、そこはそこ、納得することにしよう。
閑話休題、しかし、どうもそうでもないようだ。ヨゴレネコノメソウと、ミヤマネコノメソウは両方あったみたいだ。ヨゴレは葯が赤、ミヤマは葯が黄色で、おいらの写真を見ると、葯は赤かったので、こっちはヨゴレ。ドラエモンが見た方はミヤマだったのだ。一渡り見ていると、ダンディが「隊長、みんなおなかすいてるって」とほざく。寺、お墓、歴史、その他もろもろに強い人物ではあるが、自然があんまり好きではないらしい彼はほんとは自分が「腹は北山」なのだ。誰彼のせいにして腹減ったことを訴える戦略を取るとは。わかってはいるが、「ハイ、ハ―イ」と返事する。「みなさーん、上へ上がりましょう」
車道に出てこれから「ウッディハウス」(愛林)に向かう。「あれれ、これ、わかりますか。クスサンという蛾の繭です。触ってみてください。網のようになっていて結構堅いんです。いっぱい落っこっているでしょう。あの枝にも、この枝にもぶる下がっています」。車道の横の崖には「アズマイチゲ」が咲いている。もっといっぱい咲いてるところに行く予定だったが、緊急連絡が入って弁当時間になっているし、ここでアズマイチゲにお目にかかれたから、ま、いっか。さてさて、弁当求めて三千里だ。ウッディハウスは土曜日なので空いていた。本来は4月から11月までしか開いていないのだ。ここはテント場で何張りものテントが張られ(15張りくらいか)、ベンチが使えない。しゃーないからあっちゃこっちゃに別れてランチとする。ハウスの入り口に座って食事をする。ハウスは見学のためには入室できるが、弁当などは使えない。
1時半出発のところ,チイさんが「もう行きましょうよ、寒くなってきたから」と腕をさすっている。
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