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 いつもより帰りが遅くなり、けだるい体を引きずって自宅近くの寒駅の改札機を通り抜けると不意に肩を叩かれた。

 眉間のシワが印象的な、くたびれたサラリーマンが曖昧な笑顔をこちらに向けて立っていた。

 昔の呼び名が耳に懐かしく響き、くたびれたサラリーマンの瞳の光が記憶の淀みの奥底から慣れ親しんだ一つの顔を浮かび上がらせた。

 高校時代の同級生Kだった。

「ちょっと飲んで行くか」という話になったのだが、何でもガンで入院している奥さんを見舞った帰りだと言う。

 Kの奥さんはすでにステージ4の末期癌で、抗がん剤治療を続けながら、ここ数ヶ月は入退院を繰り返しているらしい。

 郊外の中高一貫校で教師をしているKは、奥さんが入院しているあいだは早めに仕事を切り上げて病院に通う毎日で、出口の見えない日々にさすがに疲労の色を隠せなかった。

 それでもビールで乾杯して簡単に近況を語り合うと、憑かれたように奥さんと自分のことを語り始めた。

 午後九時ごろから居酒屋が店じまいをし始めた午前一時すぎまで、おおよそ四時間にわたってKは自分と奥さんのことを語り続けた。

 事情が事情だけに簡単に切り上げる訳にもいかず、途中からは腹を据えて良い聞き手になることだけを考えていた。

 今のKに必要なのは誰かに自分の胸の内を洗いざらいぶちまけることなのだろうと感じたからだ。

 ただKの話は、私のそのようなカウンセリング・マインドなど不要なほど、話そのものからして既に興味をそそるものだった。

 Kにとっては、ここにこうして書き留められることが必ずしも望ましいこととは限らないだろうから、話の骨格を損なわない範囲で細部を改変し、語り直してみることにする。

 主として自己治癒のために。

〜つづく〜

閉じる コメント(2)

そうだったの。。。
聞いて欲しい人があなたでよかったですね。。。

2008/12/17(水) 午後 8:43 ば・ば

先週、昭和の日に、とうとう亡くなってしまいました。合掌。

2009/5/4(月) 午前 0:28 佐原ケイン


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