BUNGAKU@モダン日本

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 村上春樹が書いた「ある編集者の生と死―安原顯氏のこと」(『文藝春秋』四月号)を読みました。
 生原稿流出事件を告発する手記です。扱われている問題が問題だけに,読んで気分がよくなるような文章ではありません。何だか胸のあたりがもやもやして,暗い気持ちになります。
 胸のもやもやを少しでも晴らすために,感じたことを書き記しておきます。

 ヤスケンは極悪人…

 今回の手記でやり玉にあげられているのは,元中央公論社の編集者で文芸雑誌『海』や女性誌『マリ・クレール』の編集にたずさわっていたスーパーエディター・ヤスケンこと安原顯です。安原顯は,みずからも意欲的に執筆活動を展開していた名編集者ですが,3年前の2003年1月に肺ガンで亡くなりました。
 『文藝春秋』の手記によれば,村上春樹が安原顯を知ることになったのは,経営していたジャズ喫茶「ピーター・キャット」が国分寺から千駄ヶ谷へ移転したあとの1977年ごろのことのようです。村上春樹が「風の歌を聴け」で『群像』新人賞を取る前の話です。
 村上春樹が作家としてデビューした後も,2人の関係はしばらく良好だったようです。安原顯は,翻訳を中心とした村上春樹の原稿を積極的に担当していた雑誌に掲載し,折に触れて励まし続けたと書いてありました。
 そんな安原顯が生原稿を古書店に横流ししていたわけです。中央公論社の社員として受け取った原稿を私物化し,換金したわけですから,弁解の余地はありません。安原顯は有罪です。というか,メディアを通じて流されている情報から見る限り,ヤスケンは極悪人です。


 死人に口なし,それでもムチ打つ村上春樹…

 繰りかえしますが,ヤスケンは極悪人です。
 ヤスケンが行ったことは,まったくもってフェアではありません。

 しかしながら,ヤスケンが10ぐらいフェアでないと仮定すると,村上春樹も少なくとも2か3ぐらいはフェアでないという気がします。
 死して3年経ったヤスケンには,みずから反論する機会が永久に訪れないからです。マスメディアを通じて,影響力の大きな有名作家が一方的に故人を批判する形になってしまっているからです。

 手記の冒頭近くで村上春樹は,辛口で知られる安原顯が,けっして陰口をたたかない人間だったことを共感をこめて書いています。文芸関係者でそういう性向をもつ人物は少数派で,自分も「陰で他人の悪口を言うことはできるだけしないように心がけている」とも書いています。

 そういう村上春樹が,反論することのできない死者を,『文藝春秋』という有力雑誌を舞台に一方的に批判しているわけですから,尋常なことではありません。
 こういう方法をとるほかなかったということは,村上春樹の感情的なしこりがそれほど根深いものだったということなのかもしれません。
 そして,手記全体のトーンには,死者にムチ打つ行為であるという悪印象を感じさせない巧みさがあって,ヤスケンのアンフェアだけが浮き彫りになっていきます。

 でも,私は思うのです。何か他に方法はなかったんだろうか?と。


 あえてヤスケンを弁護する…

 胸を張ってハルキストであるとは言えませんが,私は村上春樹の愛読者です。
 そういう立場の者としては,この際あえて極悪人のヤスケンを弁護するべきなのではないか,という気がしています。

 どうしてなのかはうまく説明できませんが…。

 さて,ヤスケンをどうやって弁護したらいいでしょうか?(その2へ続く)

Photograph by NJ

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ヤフー版で「投稿に失敗」したので、goo版の記事をトラバさせていただきました。ヤフー版には改めて投稿しようと思っています。

2006/3/12(日) 午後 1:57 [ ara**_or*hik* ] 返信する

『今回の問題は村上氏のご指摘で把握し』と言う中央公論社の話も、絶対うそや〜ん!と思うかえでちゃんでした。

2006/3/12(日) 午後 2:17 かえで 返信する

さっそく、読んでみて自分の頭で考えたいデス。 ありがとうございます。

2006/3/12(日) 午後 10:06 モコモコ 返信する

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村上春樹と村上龍の対談本『ウォークドントラン』が6500円ですか?ぼったくりですね。100円は安すぎますけど…。コバチョウさんは買い物上手ですね。私はネットで1000円ぐらいで買いました。

2006/3/13(月) 午前 0:20 NONAJUN 返信する

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トラックバックしてもらった「とっくに知っていた自筆原稿流出事件」を読むと「絶対うそや〜ん」と思う“かえでちゃん”は正しいのだとわかります。

2006/3/13(月) 午前 0:20 NONAJUN 返信する

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モコモコさん,読んだら感想聞かせて下さいね。

2006/3/13(月) 午前 0:21 NONAJUN 返信する

ヤスケンは死の2,3年前から高価なオーディオ機器を何度も買い替えていましたが、やはりそれも…なんだかやり切れません。

2006/3/13(月) 午前 3:50 あっしー 返信する

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ヤスケンを擁護するために、肺ガン治療にかかる医療費を捻出する目的…なんてことを考えましたが、まあ彼の死の直前のことは不明なので、なんともいえませんね。

2006/3/13(月) 午前 10:44 [ ara**_or*hik* ] 返信する

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弁論1―100万円というのは,古書店の売値ですから,ヤスケンあるいはヤスケンの家族が手にした金額が「高価なオーディオ機器」を何度も買いかえられるほどのものかどうかはわかりません。

2006/3/13(月) 午後 5:40 NONAJUN 返信する

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弁論2―中央公論をやめたヤスケンにとって,たしかに医療費を負担するのは大変だったと思います。だから死の前年の夏から,本を処分し始めたのでしょう。「ここらにあるものを全部持っていってくれ」という感じで。その中に生原稿が含まれていたことをどこまで意識していたのかについては,議論の余地がありそうな気がします。

2006/3/13(月) 午後 5:45 NONAJUN 返信する

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ヤスケンの死後、家族の方が古本屋を呼び、ここにあるもの一切値付けを依頼して処分したということも考えられますね。ヤスケンは持ち帰った生原稿を保管していただけで、処分については関知しなかったとも思えるのでは?まだ、文藝春秋を呼んでいないので何ともいえませんが。

2006/3/14(火) 午前 11:35 とらねこ 返信する

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古本屋がごっそり引き取るときは一つ一つに細かく値付けをするのではなく,十把一絡げで買いたたくのが基本なんだと思います。「このへんのやつは買値がつきませんけど,こちらで適当に処分しておきます。ゴミで出すのも大変でしょうから…」なんて言っておいて,引き取った「ゴミ」の中から高値で売れる物を見つけ出すなんていう場合もあるんじゃないかと想像するんですけど。実際はどうだったんでしょう?

2006/3/14(火) 午後 10:43 NONAJUN 返信する

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村上春樹の愛読者ですが、以前、村上氏になんの断りもなく全集を企画し作品を掲載した、という騒ぎが起きたことがありました。本は結局発売されなかったようですが、プランはかなりすすんでしまっていたため、損失を出した編集者は後に自殺してしまったということがあったそうです。今回ヤスケン氏を弁護するというのは面白いと思います。

2006/5/6(土) 午後 4:48 bre**conf*blog 返信する

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本当かどうか確かめていませんが,mixiでヤスケン弁護をしたら袋だたきにあったという話を聞きました。このシリーズ記事は今のところそういうことはなくて,ほっとしています。

2006/5/7(日) 午前 11:17 NONAJUN 返信する

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ヤスケンが書いた村上春樹の書評を,この記事を書いた後にいくつか読みました。たしかに罵倒しまくっているのですが,『神の子とどもたちはみな踊る』に関しては十数年ぶりの傑作などと言って,絶賛していました。ある時点で豹変して,あとはずっと罵倒しまくっていたと思っていただけに意外でした。

2006/5/7(日) 午前 11:21 NONAJUN 返信する

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歌人の枡野浩一さんのブログで,この記事のことが取り上げられていると,友人から教えてもらいました。http://masuno-tanka.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post.html
「その4」まで全部読んでくれたんでしょうか?うれしいですねぇ。

2007/9/3(月) 午後 0:18 NONAJUN 返信する

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ヤスケンさんは極悪人ではないでしょう。そんなこと(生原稿を売ってしまうようなこと、そのような駄目さ加減)は人生と世の中にあることだと思います。死んだ後の世話になった人物についてのエッセイにして発表するという反応が情けないというか、大げさというか、人の魂をすくえない人だと、村上さんの読者に思わしてしまいました。多分よほど安原さんに人生かきまわされたんでしょう、としか言いようがない。 削除

2009/10/28(水) 午後 10:37 [ rakuamari ] 返信する

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ヤスケン擁護の記事へのコメント,rakuamariさん,どうもありがとうございます。たしかにそうですね。エッセイやネット上での読者とのやりとり,スピーチなどを見ている限り,村上春樹って,きっちり“村上春樹”を演じている感じがするんですが,ヤスケン批判のときだけは,生身の村上春樹が露呈した感じで,そういう意味で興味深い事件だった気がします。

2009/10/29(木) 午前 4:32 NONAJUN 返信する

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こんばんは、履歴から参上してみましたが、たまたまこの文春記事読んでましたのでひと言。

この件について、ヤスケンは悪いのひと言でしょう。村上春樹以外にも被害者は
いるようです。
ただ、この一件とヤスケンの功績は別でしょう。私は特に文学に詳しいわけでは
ないので「海」や「マリ・クレール」でのヤスケンの大活躍はよく知りませんが、
「リテレール」のアンケート特集は面白く読みました(今でも何冊も持ってます♪)。

村松友視や宮田毬栄の本に出てくるヤスケンも「愛すべき小心者」だったし、
太宰や谷崎の方がどうみても「悪人」だと思います。

というわけでヤスケンの人格的欠陥は、彼の文学に対する功績を損なうものでは
ないと思うし、それを敢えて明らかにするのも村上春樹らしいな、と思いました。

2009/10/29(木) 午後 8:50 [ HRH The Princess Royal ] 返信する

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当時の報道が「ヤスケンが村上春樹の生原稿を古本屋に100万円で売った」というような間違ったイメージを結果的に流布したことに対して,この連続記事は書かれました。ですから,「ヤスケンは悪いのひと言」と言われてしまうと,ちょっとレスのつけようがなくなってしまいます^^;

「泥棒にも三分の理」と言いますが,そもそもヤスケンは「泥棒」なのかという部分にも疑問を感じてダラダラと連続記事を書き,村上春樹にメールも出したわけなので,そのあたりをくみ取って頂けると有り難いです。

2009/10/30(金) 午前 5:48 NONAJUN 返信する

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