読み継がれる名作絵本
絵本というのはすごく寿命が長い書物で,初版発行以来,ほとんど同じ装幀で版を重ねているものがたくさんあります。
たとえば, 「しろいうさぎとくろいうさぎ」や 「三びきやぎのがらがらどん」の初版は1965年。 「おおきなかぶ」は1966年。 「おおかみと七ひきのこやぎ」は1967年に出版されています。
私の家にあるものは,それぞれ第90刷,第71刷,第68刷,第59刷です。以上の3冊はいずれも福音館書店の絵本ですが,40年にわたって読み継がれているわけですから,すごいことだと思います。
絵本は子どものためのものですが,読み聞かせる大人にとっても味わい深いものでなければ,これだけのロングセラーにはならないでしょう。
大人たちは,これらの絵本に何をいったい見ているのでしょうか?
The Giving Tree
シェル・シルヴァスタインの 「おおきな木」は,上記の3冊には及びませんが,原著が1964年に書かれ,日本版が出版されたのが1976年のことです。初版から30年後の今年,重版されて書店に並んでいます。シェル・シルヴァスタインというと,倉橋由美子訳で講談社から出版されている 「ぼくを探しに」を書いた作家としても知られています。
「おおきな木」は赤と緑の表紙もきれいで,シルヴァスタインらしく,シンプルな話の中に,いろいろな解釈の余地が残されていて,子どもよりもむしろ大人にとって味わい深い絵本かもしれません。
最初の24ページ(見開き12シーン)は,リンゴの木とちびっことの楽しい日々が,シンプルな線で描かれています。
1つのページに記されていることばは,「むかし りんごのきが あって…」とか「かわいい ちびっこと なかよし」とか「まいにち ちびっこは やってきて」といった具合で,それぞれがとても短く,おだやかに時間が流れている感じがします。
しかしちびっこは少年になり,やがて青年になり,そして大人になります。
すると,31ページで画面の雰囲気が一変します。文字が極端に増えるのです。ちびっこが大人になってしまったことによって,木との関係が決定的に損なわれてしまったことが,一挙に増えた文字によって強く印象づけられています。
大人になったちびっこは,お金を手に入れるために木から果実をとりつくし,家を建てるために枝を切り払い,船を造るために幹を切り倒して持ち去っていきます。
「おおきな木」の原題は,“The Giving Tree”というのですが,すべてを与え尽くした木は,最後に切り株だけになってしまうのです。
物語は,老人になった「ちびっこ」が,すべてを与えて切り株になった「おおきな木」の上に,静かに腰かける場面で終わっています。
さまざまな解釈
「おおきな木」は,シンプルな話だけにいろいろな解釈が可能です。いろいろな解釈を許すところに,時代を超えて読み継がれる理由があるのでしょう。
おおきな木が国家で,ちびっこが国民だとすれば,「国家があなたに何をしてくれるのかを問うのではなく、あなたが国家のために何ができるかを問うて欲しい」というケネディ大統領が1961年に就任演説で語った有名なことばを寓話にしたものと言えなくもありません。国家から何かをしてもらうだけでは,いずれ国家は滅びてしまうという教訓話だということです。
あるいは,人間が自然のめぐみを一方的に享受し続けることによって致命的な環境破壊が起きるという寓話として読むこともできます。
第三世界から収奪を続ける,アメリカを代表とする先進国の身勝手さを寓話化したものと考えてもよいでしょう。
それから,翻訳者の本田錦一郎さんのように,切り株になった木は「ただひたすら喜びだけ」を感じていて,「愛は第一に与えることであって,奪うことではない」という思想を読みとっている人もいます。
木の葉の使われ方やりんごを食べる場面の描かれ方などに,聖書に描かれている人間の原罪を読みとることもできそうです。
ラストシーンに私が見たもの
最後の場面で切り株にすわる老人の姿に私が見たものは,かなり風変わりな読み方かもしれませんが, 熟年離婚された孤独な男の後ろ姿です。
仕事第一で家庭をかえりみず,妻からの愛を当然の報酬として受けとり続け,最も身近な他者をないがしろにし続けた男。
「たろう」という名の男は「はなこ」という名の女性と結ばれたはずですが,おそらく「たろう」にとっての「はなこ」も, “The Giving Tree”だったのではないでしょうか。
ささやかな家庭の幸せを願う私に,そんな切ないことを考えさせてしまうあたりにも,「おおきな木」という絵本の魅力があるのだろうと思います。
Special Thanks
「おおきな木」のことは,絵本についての記事が充実しているブログ「 Cheers ♫」のTommyさんに教えてもらいました。
Photograph by NJ
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おおきなかぶが食べたいです。ライブドアもおおきなかぶでしたね。
2006/6/15(木) 午後 0:22
ちびっこの頃を描いたページに葉っぱを集めてかんむりを作り,それをかぶって“王様きどり”になる場面があります。無邪気な場面に見えますが,その後のちびっこの生きざまを考えると,とっても意味深です。
2006/6/15(木) 午後 9:42
ひまわりさんの言う怪しげな雰囲気というのは,わかる気がします。私にとっては,「三びきやぎのがらがらどん」がその代表選手です。あの絵の怪しさは,子どもの心にも強い印象を残すのではないかと思います。
2006/6/15(木) 午後 9:45
『だいくとおにろく』が1962年ですか。昭和37年ですね。う〜む。
2006/6/15(木) 午後 9:46
ちいさなカブはサリーちゃんの弟です。…というか,人間界では弟ということになっていました。
2006/6/15(木) 午後 9:49
子供の頃に絵本を読んだ記憶が、なぜかありません。この話もここで初めて知りました。図書館で借りてきます。「めっきらもっきらどおんどん」に娘と一緒にはまってしまいました。
2006/6/15(木) 午後 11:35 [ - ]
だいくとおにろく・・・よ、読んだぞ・・・・もしかしてリアルタイムで読んでたかも・・・・
2006/6/16(金) 午前 2:51
絵本は大人になってから読むとぐっとくるものがありますね。
2006/6/17(土) 午後 9:14
「めっきらもっきらどおんどん」は私も好きです。「もけらもけら」とか「もじゃもじゃ」とか,オノマトペ系のタイトルの絵本は面白いものが多い気がします。>SMARTさん
2006/6/17(土) 午後 10:01
「だいくとおにろく」・・・リアルタイム・・・えっ?むにゅさんって・・・
2006/6/17(土) 午後 10:02
絵本って,読み聞かせをしている親の方がいやされる感じなんですよね。>HARUKAさん
2006/6/17(土) 午後 10:05
『おおきな木』は友人に薦められて、本屋で読んでその場で泣いてしまいましたヨ。 はずかし。 新約聖書的な愛を感じます。
2006/6/20(火) 午前 5:27
本当に良い内容の絵本は、大人でも子どもでもそれぞれ幅の広い解釈を許す絵本なのでしょうね。いろんな個人に置き換えられる絵本は、飽きません。娘に読むときも、私が飽きずに興味をもって読める絵本でなければ、繰り返しては読めないのですよね。絵本には、子どもが喜ぶ本、大人向けの絵本、子どもも大人も楽しめる本があって、本当の名作絵本は両方が楽しめるだと思います。
2006/6/26(月) 午後 5:34
絵本に大人が何を求めているのか,根強い人気の名作絵本を読んでいると,いろいろ考えさせられます。うるっときちゃう本も多いですし,読みながら自分の生き死にのことを改めて振り返ってみたりして…。
2006/6/26(月) 午後 11:02
絵本って、言葉もさることながら、絵からもいろんなことが読み取れますね。それを読み聞かせてあげる大人が、どこまで気付くことができるか。。。気付かないことでも、案外純粋な子供のほうがわかっちゃたりするものなのかもしれないですね。
2006/7/28(金) 午後 6:13
いろんな解釈があり、考えさせられます。私こういう本大好き!!熟年離婚ですか。。。わかる気します(笑)男はどうしても母親を求めるのでしょうね。。。
2006/9/30(土) 午後 3:56 [ - ]
「大きな木」とか「葉っぱのフレディー」とか,シンプルでも味わい深い絵本っていいですよね。「熟年離婚」を連想する人って、あんまり多くないんでしょうね。ちなみに私はまだ「熟年離婚」の年齢には達していません。ぜんぜん達していません。断じて達していません!
2006/9/30(土) 午後 4:49
きゃははははは(笑)!!!わかっとるわ!!コホン。。。私もですが・・・^^
2006/10/1(日) 午前 1:52 [ - ]
ホッ!わかって頂けて,安心しました。だいたい30歳前後とお考え頂ければよろしいかと思います。まあ,「前後」というのがどれぐらいの範囲を指すのかが問題なんですが…。ちなみにミイナさんは二十歳前後とお見受け致しました^^。
2006/10/1(日) 午前 10:45
ひゃはははは!!30歳前後は微妙微妙ですね。。。20前後!!!確かにその通り!!「後」に上限ないですもんね^^・・・????ん??
2006/10/4(水) 午前 5:02 [ - ]