BUNGAKU@モダン日本

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藤井貞和先生のタコ入りレジュメ

 東京大学名誉教授という肩書きだけでふつうは十分なのですが,数々の賞を受賞した源氏物語の研究者でもあり,さらにはこれまた数々の賞を受賞した現代詩人でもあるという藤井貞和先生の講演レジュメにまぎれこんでいたタコです。

 およそ30年ぶりに藤井貞和先生のお話を拝聴しました。

 「正確な日本語―詩と文法」というタイトルの講演でした。

 藤井貞和先生は私が大学院生だった1986年の冬,関東を襲った大雪の中を締切を過ぎたレポート入りの茶封筒を持って鎌倉のご自宅を訪ね,ポストにこっそり入れて逃げ去るという愚挙を犯したにもかかわらず,それを不問に付し,単位を認定して下さった恩師です。

 そんな恩師のご講演ですから,取るものもとりあえずいそいそと出かけました。

 会場では2種類のレジュメが配布されていました。

 ひとつは紙とハサミで切り貼りした資料に手書きの文字を付したB4片面印刷のもの。

 もうひとつはワープロで打ち込まれたA4両面印刷3枚組のものです。

 前者は縦書きで後者は横書き。

 手書き文字の入ったアナログ感のある前者に対して,すべての文字が同じフォントのワープロ文字で表示されたデジタル感のある後者。

 国内規格のBサイズの前者に対して,国際規格のAサイズの後者。

 意図的なものだと考えざるを得ないほど,見事なまでに対照的な2種類のレジュメでした。

 紙とハサミで切り貼りした原稿に手書きで文字を書き入れるというレジュメ作成法は,私が東大よりも芸があり芸大よりも学があると言われていた都内の大学に入った1980年代はじめにはごく一般的な手法でした。

 藤井先生の講義を拝聴していた院生時代に初めて非常勤で高等学校の教壇に立った時にも,定期試験などを作る際に同じ手法を取っていたことを思い出します。

 その懐かしさについて,ここで語りたい気持ちもあるのですが,興味深い問題として特に今回考えてみたいのは,ワープロで打ち込まれた後者のレジュメが象徴する日本語の未来についてです。

横書きで引用された古典文学

A4両面印刷のレジュメは,「☆詩と日本語」「☆数(すう、かず)」「☆文法的性(ジェンダー)?」「☆古典詩、現代詩」「☆機能語、掛け詞」「☆論理上の文法と深層の文法」という6つのパートから構成されていました。

 そのほとんどは資料の引用で,若松英輔苦海浄土論から始まり,石牟礼道子文月悠光石原吉郎白石和子などの現代詩や,万葉集方丈記拾遺集などの古典まで14の作品が紹介されていました。

ただし,なぜかすべて横書きでした。

現代詩の中にはインターネットで発表したものをそのまま横組で詩集に収録するケースもあるようなので,暁方ミセイ一方井亜稀の詩ならまだわかる気がします。

 でも,鴨長明平兼盛が平然と横書きで引用されているという事実には唖然せざるを得ませんでした。
 しかも「方丈記」の一節をワープロで打ち込んで引用するにあたって,読点や句点を打った場所で巧みに改行してレイアウトしていた藤井貞和先生は,レジュメの引用を音読しつつ「現代詩ふうに並べてみました」などとおっしゃっるのです。

 たしかにリズミカルに改行をほどこされ,横書きでレイアウトされた「方丈記」は,暁方ミセイの詩と並べられていることもあってまるで現代詩,あるいはJポップの歌詞のようにも見えました。

 講演後に横書きレジュメについてうかがってみると,「逆らっても仕方がない」というような言葉づかいで釈明なさっていました。

 「詩客 自由詩時評」というブログを書き続けている先生にとって現代詩や古典を横書きで引用するというスタイルは,もはや詩を論じるため制約として拒絶することのできない基本条件になってしまっているのかもしれません。

 いや,よく見ると,縦書きの文献コピーを貼り付けたB4のレジュメへの手書き文字での書き込みは,藤井先生ご自身のサインを含め横書きでした!
*   *   *
国語嫌いの子どもたちが増えているという話をよく聞きます。

 何が理由でそこまで嫌われなくてはならないのか,文学好きの私にとってはちょっと理解しがたいのですが,最近,もしかしたら,と思うことがあります。

 それは,国語の教科書が縦書きで作られているからなのではないか,ということです。

気がつくと子どもたちが縦書きの日本語に触れるのは,ほぼ国語の授業の時に限られます。

 新聞購読をする家庭が減り,読書離れが進み,子どもたちが縦書きの文書を読む機会は激減しています(たぶん)。

 文字を読むとすれば,親や友人とのメールやLINEでのやりとりする時も社会や理科の教科書・参考書などで勉強する時もインターネットで調べ学習をする時も,基本的にすべてのテキストは横書きです。

 通常とは逆に,下から上,あるいは右から左に文字が配列されている文章を読むのは苦痛です(たぶん)。

 でも物心ついた時からそういう順番の文章を読み続けていれば,反対にいま私たちが読んでいるような上から下とか左から右の文章に読みにくさを感じるでしょう(たぶん)。

 同じように,物心ついてからほぼ横書きしか読んでいない世代の子どもたちが出現しているとしたら,なぜか“ふつう”とは違う配列でレイアウトされた国語の教科書ほど読みにくいテキストはありません(たぶん)。

 10年近く前に水村美苗」が『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』を出したときには「そんなバカな!」と思ったものですが,少なくも「タテガキ日本語が亡びるとき」は現実味を帯びてきている気がします。

 それが100年後なのか10年後なのかは定かではありませんが…。

こういう話をすると,いやいやそんなはずはない,という反応を受けることがあります。

 でも,縦書きでノートを書くことを子どもたちに強いている国語教師の多くは,じつは教材研究を横書きのノートでやっています。

 また,ご存じないかもしれませんが,文学愛好者の中には,10年以上にわたって横書きで日本文学についてブログで語っている手合いもいるのです。

 閑話休題。。。

 さて,くだんの藤井貞和先生のレジュメがなにゆえタコなのか,ということを詳しく知りたい方は,ちくま新書から刊行された近著『日本文法体系』をお読み下さい。



              未

閉じる コメント(6)

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横書きキライ(笑)

2017/2/14(火) 午前 11:37 [ 不思議な泡 ]

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私もで〜す^_^

2017/2/14(火) 午後 4:16 NONAJUN

最近、老眼になったのか、眼鏡が合わないのか、本を読むと疲れやすくなりました。

2017/2/15(水) 午後 8:02 にこにこくん

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> にこにこくんさん
数ヶ月前に老眼鏡を買いました。ときどき使っています。でもメガネをかけてもかけなくても,昔ほどガンガン本を読めないですね(T_T)

2017/2/16(木) 午前 8:37 NONAJUN

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源氏物語の資料は、必ず縦書きにしますが、Wordの感覚がつかみにくいです。

2017/3/4(土) 午前 11:20 ちゃい

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Wordはそもそも横書きの欧文のために作られたものですし,なんだか余計なことをたくさんやらかしてくれますし,使いにくいですよね。

2017/3/4(土) 午後 4:49 NONAJUN


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