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「グランド・フィナーレ」で2004年度下半期の芥川賞を受賞した阿部和重ですが,どうせなら「ニッポニアニッポン」(2001年8月・新潮社)で賞を与えるべきだったという声があります。
確かに,幼児ポルノの撮影を趣味とするロリコン男が登場し,奈良の女児誘拐殺害事件を想起させる「グランド・フィナーレ」よりも,三島由紀夫の「金閣寺」と大江健三郎の「セヴンティーン」という純文学同士を“交配”し,新たな“不純文学”の誕生を期したという「ニッポニアニッポン」の方が私は好きです。小説としてもすぐれていると思います。
それに,下世話な話ですが,インターネットからの引用を駆使した「ニッポニアニッポン」に2001年というタイミングで芥川賞を与えることには,大きな意味があったのではないか,などということも考えてしまいます。
しかもこの小説を読んだとき,私はかなり珍しい読書体験をさせてもらいました。このことだけでも,「ニッポニアニッポン」は評価に値します。個人的には…。
〜以下,ネタバレ注意!です〜
「ニッポニアニッポン」は,欺瞞に満ちた「人工増殖」計画によって絶滅の危機に瀕している国際保護鳥“トキ”を救済すべく,“解放”ないしは“密殺”をもくろむ引きこもり少年「鴇谷(とうや)春生」が主人公です。念のために言いそえておけば,“ニッポニアニッポン”とはトキの学名ですから,春生が成し遂げようとしていることは,たんなる悪戯ではなく,“革命”ないしは“テロ”に相当するような政治的な“行動”の代替物です。
綿密な計画を立て,周到な準備を進めた春生は,小説の最後でついに佐渡のトキ保護センターに侵入します。センサーで不審者の侵入に気づいてやって来た係員をスタンガンと催涙スプレーで撃退し,警報で駆けつけた警備員をサバイバルナイフで刺し殺した春生は,「ニッポニアニッポン問題の最終解決」としてトキを“解放”します。
そして,逃亡をはかろうとしてレンタカーに乗り込んだとき,カーラジオから「聴いたことのない洋楽の曲」が流れてきます。
「これは現実の出来事なのだろうか/それともただの幻覚なのだろうか」という意味のフレーズで始まり,「かあさん,たった今,人を殺してきたよ」という詩句を含む歌詞の内容は,春生の内面の声を代弁しているかのようです。
ただし,歌詞はすべて英語で記載されていますから,英語がよほど得意でない限り,意味をはっきり理解することはできないでしょう。私の場合も,どうやら知っている曲みたいだなと思いながら,漠然とアルファベットの文字を目で追いかけていました。
すると,第1連の後半にある“Anyway the wind blows”という文字を見たあたりから,私の頭の中で急にメロディーが流れ始めました。ただの文字を黙読しているうちにピアノの音が聞こえ始め,本の中からクイーンのフレディー・マーキュリーの類い希なる美声が立ち上がって来たのです。
春生がラジオで聴いたのは,アルバム「オペラ座の夜」(1975)に収められた名曲 “BOHEMIAN RHPSODY”(ボヘミアン・ラプソディ)でした。ちなみに,「ニッポニアニッポン」の装幀(左)は,「オペラ座の夜」のジャケット(右)のパロディーです。
「ニッポニアニッポン」の最後の場面に,「ボヘミアン・ラプソディ」が使われていることは,「安易なウケ狙い」ということで,かなり物議をかもしているようなのですが,少なくとも私の読書体験をスリリングなものにしてくれたことだけは間違いありません。
そこで,小説の中にヒット曲の固有名が出てくることの意味を,阿部和重だけではなく,現代文学全体の問題として考えてみたいと思います。(つづく)
【関連サイト】
クイーンの公式ホームページ http://www.toshiba-emi.co.jp/queen/
※この記事のつづきはこちら→ http://blogs.yahoo.co.jp/nonakajun/808747.html
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トラバありがとうございます。 「グランド・フィナーレ」読んでみたいです。
2005/3/23(水) 午後 5:32 [ tsubaki ]
トラックバックありがとうございます。私もニッポニアニッポン読みました。“Anyway the wind blows”は“どっちみち風が吹くのさ”という意味のはずですが、それはトキと春生の運命のことで、それをボヘミアンラプソディを使って伝えたかったのでは、と思っていました。
2005/3/23(水) 午後 8:59 [ znc*o ]
コメントありがとうございました。「ニッポニアニッポン」読んでみたくなりました。たまりつつある本をいくつか片付けたら読んでみたいと思います。
2005/3/24(木) 午前 1:57 [ re:sat ]
書店にて,<ああ芥川賞作家だ>と本書をペラペラめくってみた時にちょうど開いたのが「聴いたことの無い洋楽…」のくだりでした。しばらく歌詞が書かれていましたが,すぐに謎はとけました,と思ったら,(書店ではありがちな)緊急自然コールのため,本のカヴァーを見逃していました。なんと!
2005/3/24(木) 午前 1:59
「(書店ではありがちな)緊急自然コール」wwwwwあるんですよねー。たしか何とかの法則とかって日本人の名前を使った名称があったと思います。知っている人いませんか?
2005/3/24(木) 午前 7:45
ブログ開設以来はじめてトラックバックをしていただきました。嬉しいです。ありがとうございます。他の記事も夢中で読ませていただきました。「グランド・フィナーレ」読了後、阿部和重さんの小説から遠ざかりかけましたがこの記事を読み、やはり他のものも読んでみたいと言う思いが強まりました。
2005/4/3(日) 午前 1:26 [ とみたろう ]
TBありがとうございましたm(_ _)m阿部和重さんの本、他のも読んでみたいと思います☆
2005/4/9(土) 午後 10:36
阿部和重の書く登場人物がくだらないものに対して変態的に「萌え」るように、私は阿部和重に「萌え」てしまいます。私はキムタクのドラマ主題歌で復活したクイーン世代ですが、阿部和重のこういう読者に対して挑戦的でサービス精神旺盛なところも魅力のひとつだと思います♪
2005/11/23(水) 午後 4:18
昔の記事にコメントがつくと,とってもうれしいものですね。しかもトラックバックまで。カエデさん,ど〜もデス。
2005/11/24(木) 午前 6:02
Queenは大好きで、中学の頃から聴いてます。ボヘミア・ラプソディの詩を読んでいたら、春生の気持ちを考えてちょっと泣きそうになってしまった。(笑)でも泣いてないですよ!象徴としてのトキ、とても面白く読めました。僕は『グランド・フィナーレ』で阿部さんをはじめて読んだけれど、『ニッポニア・ニッポン』での受賞だったら彼に対するイメージは全然もっと他のものになっていたと思います。
2005/12/3(土) 午前 9:58
昔の記事にコメントをもらえると,めちゃめちゃうれしいものです。元気が出ます。コメント1つで100万馬力!って感じです。それはそうと,フラッシュメモリタイプのウォークマンにクイーンのベスト盤を入れてときどき聞いています。フレディの声はほんとうに最高です。何度聴いても鳥肌ものです。
2005/12/3(土) 午前 11:33
「グランドフィナーレ」は読みましたが、「ニッポニアニッポン」は未読です。今某賞に出している小説にボヘミアンラプソディ、使ってしまった・・・。(知ってたら使わなかった)ところで、「ニッポニアニッポン」の春生は、グランドフィナーレに出てくる小六の女の子のお兄さんなのでしょうか?
2006/6/7(水) 午前 7:14 [ ヴァシィ章絵 ]
ニッポニアニッポン、読んでみたいです。純文学どうしの交配・・そそられます。
2008/3/13(木) 午前 8:33 [ カール(カヲル32) ]
私が読んだ阿部和重の小説の中では,いちばん読みやすくて,いろんな人が楽しめそうな感じです。文庫になってますから,ぜひ!
2008/3/16(日) 午後 2:44
ひとことメッセージを読まずに本文を読みまして、NONAJUNさん、以前このネタお書きなってましたよ〜お忘れになった?ヤバイ?と勝手に心配になりました。注意不足の私の方がよっぽどヤバイということがわかりまして反省しきりです.....(;__)/| ずぅぅぅぅん。
2008/9/26(金) 午後 5:45
昔の記事を覚えていて下さる方がいるというのは,すごぉ〜くうれしいことです!(^^)!
モクレンさん,ありがとうございます!
2008/9/26(金) 午後 6:19
「25万ヒット→5周年」記念カキコNo.20です(=^エ^=)。
いちおうネタバレ注意を加筆しました。装幀で布石を打っているわけで,阿部和重,なかなかやるなぁ〜と改めて思います。
2010/1/22(金) 午前 0:29