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山田詠美にさわる

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メジャー誌デビュー作

 山田双葉(=山田詠美)のマンガを掲載した初出誌コレクションの中に,主婦の友社発行の『ギャルズコミックDX』1980年秋の号があります。

 一般の書店に流通していた立派な(?)少女マンガ雑誌で,大島弓子「ヒーヒズヒム」のような,今となっては超メジャー級の漫画家の作品も掲載されています。

 そもそも『ギャルズコミックDX』は月刊誌『ギャルズライフ』の増刊号として発行されていた季刊誌なのですが,新人の発掘に力を入れているところがあったようで,編集の随所に新人発掘のための工夫が見られます。

 目次にも「フレッシュ」「ニューウェイブ」などの文字が躍り,その筋の方々(?)ならきっと懐かしい!という感じになるであろう樹村みのりさべあのまなどの名前も並んでいます。

 そんな『ギャルズコミックDX』1980年秋の号の432〜454ページまで,「新人登場」というふれ込みで掲載されているのが,山田双葉の「フィール ソウ グッド」です。

 スタイリッシュな絵柄と行間を読ませるセリフ回しやリズム感のあるコマ割り,スクリーントーンの切れ端などを使った個性的な技法など,背景の描き方などにやや稚拙な感じに見えるところもあるのですが,なかなかの才気を感じさせる新人漫画家ではないかという印象です。

 直後の455ページからは柴門ふみ「桑田クンがんばって!!」が掲載されていて,事と次第によっては山田双葉もいっぱしの漫画家になっていた可能性があったのだなぁ…と思わせるものがあります。


「フィール ソウ グッド」の世界

 1970年代から80年代にかけて,高校生男子(あるいは大学生男子)の中には,『別冊マーガレット』(集英社,以下『別マ』)のような少女マンガ雑誌を好んで読む人種がけっこういました。

 月刊でしたし,読み切りを中心にしていたので,立ち読みなどの手段で拾い読みをするのに好都合であり,女の子の気持ちを理解するレッスンの一助になっていたというところがあったのではないかと思われます。

 もちろん少女マンガによって理解されるところの「女の子の気持ち」というのは,かなり怪しいところがあって,今風に言えば,ロマンチック・ラブ・イデオロギーを刷り込まれていたというところもあるのでしょう。

 しかし,どういうプロセスで恋愛が成就していくのかという物語に触れることは,高校生男子の精神衛生上かなり重要な問題であったわけで,私のまわりにも『別マ』に夢中になっている男子が少なからずいました。

 そのために(…人のせいにするわけではないですが^^;),いつの間にか影響を受けて私も『別マ』を読むようになり,やがては『花とゆめ』(白泉社)にも手を伸ばしました。

 そういう私の素朴な少女マンガ観から言うと,「出会い→葛藤→告白→ファーストキッス(=ハッピーエンド)」という流れが少女マンガの王道です。

 そして,少女マンガに近づいた高校生男子に対する偏見と,少女マンガそのものに対する一面的な見方に基づくものであることを承知で乱暴に断定してしまえば,一話完結でファーストキッスにたどり着くまでを見届けられるというところに,読み切り中心の『別マ』のような雑誌の大きな魅力がありました。

 山田双葉の「フィール ソウ グッド」は,そういう意味では少女マンガの王道を行っていて,シゲとヨーコが雨の中でキスをする場面をクライマックスとして物語は展開していきます。

 ただし,そこはさすがにエロ漫画家でもあった山田双葉だけあって,ヨーコの恋敵である寺島美沙という女優とシゲとの関係を,肉体関係を基調とする“オトナの関係”として描いています。

 直接的にベッドシーンを描くということはしていませんが,この時代のこの種の発表媒体としてはかなり踏み込んだ形で,性的な関係性を描いているのではないかという気がします。

 このあたりは,少女マンガの歴史に詳しい方からは,ただちにいくつもの反証をあげられて批判されてしまいかねないところですが,しょせんは1970年代後半の一時期,不純な動機で少女マンガに近づいた元・高校生男子の戯言としてお許し下さい。

 体系的に読んだわけでもないのに少女マンガについて概括しながら語っているという乱暴なふるまいを棚にあげたままにまとめてしまえば,1980年代のアイドル歌手沖田浩之のデビュー曲「E気持ち」の歌詞にあるような,「A→B→C」という恋愛の発展段階が強く意識されていた時代にあって,前半部でC(性交渉)という少女マンガ的な世界からは排除されるべき場面を描いておきながら,後半部では少女マンガの基本パターンをなぞる形でA(キス)の成就によるハッピー・エンドで締めくくるという荒技を,山田双葉というマンガ家は見せつけてくれているわけです。

 自販機本でデビューしたエロ漫画家が,メジャー誌で少女マンガ家としてデビューし直すという状況にピッタリの構成になっているとも言えそうです。


あとがきページの自己紹介

 初出誌の「フィール ソウ グッド」には「あとがき」が付いていて,大きく余白を残したページの中央に,タバコをくゆらせている自画像と自己紹介が記されています。

 紙を染め分けてサングラスをかけルージュを引いた自画像は,いかにも山田詠美,いかにも80年代という感じなのですが,自己紹介の文面がまたなかなか面白いです。

  1959年2月8日生まれ。
  本籍地 東京都
  79年 エロジェニカ 11月号
      ラブ&ラブ 11月号にて
       デビュー
  現在、大亜出版「DUMP」にて連載中。
  全国自動販売機にて好評発売中。
  生活のテーマは、「フィール ソウ グッド」
  ポリシーなんて言葉は赤面しちゃう
  好きな言葉は、DRESS DOWN
  テエブルに足をのっけて、ボリス=ヴィアンを読む。
  ラーク吸いながら、お飲み物は、ドライシェリー
  と、くれば、BGMはクルセイダーズできまりじゃ。
  あ、感激、濡れてきた…あたし、感じやすいんです。。。
   (後略)
 「全国自動販売機で…」というあたりの自虐ネタがなかなかいい味を出していますが,注目したいのはクルセイダーズです。

 山田双葉のマンガの中にはさりげなく現代風俗が取り込まれている場合が多いのですが,その中でも目立つのは,のちに山田詠美という名前で発表することになる『ベッドタイムアイズ』(1985)や『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』(1987)の世界につながるようなアメリカの黒人文化(ブラック・カルチャー)です。

 1980年の日本人で「帰ってきたヨッパライ」のザ・フォーク・クルセイダーズを知っている人は多かったでしょうが,ジャズ・クルセイダーズやその後身のザ・クルセイダーズのことを知っている人は少なかったはずです。

 私も,山田双葉がBGMとして聴いていたということで,クルセイダーズってどんな曲を出しているんだろうと思い,youtubeに行って実際に曲を聴いてみて初めて「ああ,これか!」とわかったぐらいです。

 そういうマニアックな名前をさらりと出すあたりが,いかにも山田詠美らしいと思います。

 そして,クルセイダーズの曲の中で多少は日本人になじみがあると思われるものに,ランディ・クロフォードをフィーチャーした「ストリート・ライフ」があります。

 私がyoutubeで聴いて,「ああ,これか!」と思った曲でもあります。

 聴いている時に,英語耳が平均的な中学生並みの私にも,はっきりと聞こえた英語のフレーズがあって,それが私をビックリさせました。

 小説家・山田詠美のデビュー作「ベッドタイムアイズ」に登場する黒人男性が「スプーン」と呼ばれる由来となっている“silver spoon”というフレーズが使われているのです。

 近代文学的には“silver spoon”と言えば,中勘助『銀の匙(さじ)』なのですが,黒人文化的にはクルセイダーズの「ストリート・ライフ」かも知れないわけで,山田詠美という作家の来歴を考えた時には,とても興味深い偶然(?)だと思えるわけです。

(つづく)

「乙女の密告」という踏み絵

 第143回芥川賞を受賞した赤染晶子さんの「乙女の密告」を読んでいます。

 『文芸春秋』で読んだのでまずは選考委員の選評に目を通したのですが,いつも通りの「到着順」の掲載でトップになっていたのは,小川洋子の「人形とストップウォッチ」という文章でした。

 とにかく長い・・・。

 「乙女の密告」への絶賛のことばが延々と続き,他の候補作品への言及はごくわずかです。

 「ここまで褒めちゃって大丈夫か?」と不安になるぐらい,一生懸命に絶賛しています。

 池澤夏樹の選評も小川洋子に匹敵する長さで,「乙女の密告」の特質を詳しく解説した上で,「このような力のある知的な作家の誕生を喜びたい」としめくくっています。

 川上弘美は,他の候補作品についても丁寧に言及していて,そのぶん「乙女の密告」へのコメントは少なく,赤染晶子さんの「乙女」の描き方が浅いと注文をつけたりもしているのですが,最終的には「作者の力を評価するがゆえの願いです」と書いていて,好意的な選評になっています。

 一方で,なかば“お約束”のような感じでもありますが,村上龍と石原慎太郎の選評の厳しさが対照的です。

 「物語の核となる『ユダヤ人問題』の取り上げ方について違和感を持った」と述べている村上龍はまだしも,「技巧的人工的な作品でしかない…アクチュアルなものはどこにも無い」と書いている石原慎太郎の批判はかなり辛辣です。

 まだ全部読んだわけではないのですが,私の感想はやはりどちらかと言うと否定的で,その点では村上龍や石原慎太郎に近いところがあります。

 ただ,私が感じている否定的な印象にいちばん近いことを言っているのは,高樹のぶ子の選評です。

 受賞作に対する礼儀として一定の評価を下した上で、「女の園の出来事が趣味的遊戯的で、違和感がぬぐえなかった」と書いています。

 女性の選考委員の中で例外的に否定的な評価を下しているという点でも,高樹のぶ子の選評は注目されます。

 半分ほど読み終えた私が,私なりに高樹のぶ子の言葉を解釈すれば,「良くも悪くも少女マンガのようなテイストを持っている」ということではないかという気がします。

 ユーモアとして描かれるべきものが,ギャグに堕してしまっているのだと言ってもかまいません。

 ユーモアにはスベるリスクはありませんが,ギャグにはスベるリスクがあります。

 「乙女の告白」という小説に,スベるリスクを冒してまでマンガチックなギャグを織り込む必要があったのかどうか,途中まで読んだ限りでは合点がいかなかったということです。

 言いかえれば,マンガを読むときにはユーモアもギャグもウェルカムで,むしろギャグあってこそのマンガというところがありますが,アンネの日記をモチーフに描かれた小説を読むときにギャグは必要ないということです。

 誤解されかねない書き方になってしまいましたが,私は少女マンガそのものを否定しているわけではありません。あくまでも「乙女の密告」という小説のあり方に疑問を投げかけているのです。

 途中までしか読んでいないのにこんな風にケチを付けるのは乱暴かもしれませんが,基本的に与太話が中心のブログなのでご容赦下さい。

 最後まで読んで評価が変わったら,コメント欄などで謝罪致します。


   〜 注意:以下の記事は,誠に勝手ながらR-15指定と致します^^ 〜


『漫画大快楽』の山田詠美

 「良くも悪くも少女マンガのようなテイストを持っている」という私の評価が妥当だと仮定すると,選考委員の評価が分かれた理由は,マンガチックな世界に対する耐性の違いということになるのかもしれません。

 その証拠に,自分に都合のいい材料ばかりを集めたがるという「確証バイアス」がかかっていることを承知で言えば,かつてエロ漫画家として“一世を風靡”した山田詠美は,芥川賞選考委員として「乙女の告白」を絶賛しています。

 エロ漫画家という過去を持っていたがゆえに芥川賞を取り損なった(?)山田詠美が,直木賞作家となって面目をほどこし,近年は芥川賞選考委員となってリベンジを果たしたということを考えると,良くも悪くもマンガチックな小説に高い評価を与えるのは当然であるということになるのですが,果たしてそう言ってしまってよいものでしょうか。

 ちなみに,山田詠美が本名の山田双葉という名前でマンガを書いていたことは,ウィキペディアにも書いてあることですし,松田良一さんが『山田詠美 愛の世界』(東京書籍・1999)という本で詳しく論じているのですが,意外と知られていないようです。

 ブログ検索して調べてみたら,Yahoo!ブログで山田双葉に言及しているのは,woody-awareさんtet**2bokuさんのお二人だけでした。

 かつて山田双葉のマンガ単行本を入手したときに記事を書いたことがあるのですが,なかなかあなどりがたい作品を発表しています。

 せっかくですから,山田双葉がどのような漫画家であったのかを知って頂くために,彼女が発表の舞台としていた雑誌を紹介しておきます。

 明治大学の漫画研究会に所属していた山田双葉(本名)は,ひょんなことから『漫画エロジェニカ』で“メジャーデビュー”を果たし,『漫画ラブ&ラブ』や『漫画DUMP』などを舞台としてプロの漫画家としての活動を開始します。

 すぐさま現役女子大生のエロ漫画家として注目を集めはじめ,深夜テレビの人気番組11PMに出演するまでになります。

 漫画家としての山田双葉が当初活躍の舞台としていたのは,いわゆる「自販機本」と言われていたようなエロ漫画雑誌の類です。

 ディスプレーの内側に貼られた銀色のシートのせいで,昼間は何を売っているのかさっぱりわからないのに,夜になってあたりが暗くなると怪しげな雑誌が並んでいるのがはっきりわかるようになり,百円玉数枚を握りしめた男子中高生たちが深夜密かに購入しに訪れた自動販売機で売られていた,劣情を刺激するために作られた安物の雑誌です。

 ただし,実際に中身を見ていくと,劣情を刺激するということだけに拘泥しているわけではなく,日活ロマンポルノと同じようにアーティスティックな冒険に果敢に挑むクリエーターたちに出会うことができます。

 もちろん山田双葉もそういう漫画家の一人であると言っていいでしょう。

 そんな自販機本の雰囲気に触れて頂くために,山田双葉のマンガを掲載した初出誌コレクションの中から『漫画大快楽』1981年10月号の目次を紹介します。

 胸騒ぎの放課後(劇画・旭修一、原作・張井礼)
 濡れた淫絶幼女(野口正之)
  コーシンまげもの百科―幻想の明治(高信太郎)
 300メートルの男―もしくはB25(いつきたかし)
  おすめす専科(高井研一郎)
  ださーいオサムちゃん(すぎやまチヒロ)
  COMIC GALLERY(勝又進)
 夢見る兵士(西江ひろあき)
 裂けた陵辱(劇画・沢田竜治、原作・山名総一)
※バターミルク・ファッキン(山田双葉)
 異彊紀傳―妣―(飯田耕一郎)
  そこら中バカ(谷岡ヤスジ)

 目次の中で字下げしているものは,エロ漫画というカテゴリーには入らないもので,高信太郎谷岡ヤスジなど,著名な漫画家の作品も含まれています。

 また表紙には,自販機の中で目立つように,かなりクオリティーの高いイラストがあしらわれています。電通時代から優れたブックデザイナーとして知られ,1968年以降はフリーのイラストレーターとしてめざましい活躍を続けてきた辰巳四郎によるものです。
 
 
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 女性らしさの象徴とも言える長い髪や,女性の人間性を表象する上で重要な役割を果たすはずの目などは描かずに,女性の胴体だけを大胆にデフォルメして前景化している点が,いかにも発表媒体の特質に見合っていて強烈な印象を残します。

 じつは辰巳四郎は椎名林檎の叔父さんにあたるので,それだけでも「へえ〜っ!」という感じになるのですが,どっちが上か,にわかには甲乙付けがたいぐらいにスゴいイラストレーターです。

 椎名林檎の叔父さんであるという情報を忘れて,虚心に『漫画大快楽』のために描いた装幀画を眺めたとしても,ディスプレーの中から男子の心をいかにつかむのかという点において,ずば抜けた成果を上げていたであろうことがひしひしと伝わってきます。

 とにかく『漫画大快楽』の表紙は,深夜の自販機のディスプレーの中でひときわ目立っていました・・・いや,間違えました。目立っていたと思われます・・・^^;

 こういう発表媒体に掲載されていた山田双葉(=詠美)の漫画には,どのような特質があるのか,エロ漫画だけに下手に不真面目にやるとYahoo!ブログの規約に抵触してしまうかもしれませんから,きわめて大真面目に語ってみたいと思います。

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 デビュー20周年を記念して『文藝』秋季号に特集が組まれている山田詠美は,じつは小説家になる前に漫画家だったことがあります。本名でもある「山田双葉」名義で公表された漫画のうち,単行本として発行されたものとしては,『シュガー・バー』(1981)と,『ヨコスカフリーキー』(1986)の2冊があるようです。
 2冊のうち,『ヨコスカフリーキー』を入手したので,さっそく読んでみました。

 横須賀と言えば,浦賀に黒船で来航したペリーの記念館があり,日本海海戦で活躍した戦艦三笠があり,米兵が闊歩するドブ板通りがあり,原子力空母の母港がある基地の街です。しかも横須賀は,“05年体制”確立の立役者になろうとしている宰相・小泉純一郎を生んだ街でもあり,アメリカとの関係を軸にねじれをはらんだまま展開してきた近代日本の矛盾を象徴する都市であると言えるでしょう。

 『ヨコスカフリーキー』の主人公であるJBは,横須賀出身の混血児です。ヒロインのゆう子は,JBが働くガソリンスタンドの娘です。JBは,ささいな事件が原因でガソリンスタンドを解雇されてしまいますが,CMモデルとしてスカウトされ,やがて東京の芸能界でスターダムにのし上がっていきます。そして,混血児としての自分の身体的な魅力を武器に,近づいてくる女性たちをもてあそぶようになり,ついには大物アイドル大川エリを自分のものにしてしまいます。
 そんなJBが,それでもやはり愛しているのは,横須賀に残してきたゆう子です。
 差別と紙一重のところで多くの人々の羨望を集める混血のスターJBと,平凡な日本人の娘であるゆう子とのラブロマンスがこの物語の基本線なのです。

 JBというのは,もちろんジェームス・ブラウンの略称ではありません。漫画の冒頭付近で何度か「ジロー」と呼ばれていますから,Jは“Jiro”のイニシャルです。そして,JBは黒人米兵と日本人女性の間に生まれた混血児ですから,Bは父親の名字のイニシャルのはずです。
 ただし,“Brown”なのか“Beckham”なのか,あるいは “Bush”なのかはわかりません。

 黒人米兵である父親の名字はわからないのですが,自分の肌の黒さにコンプレックスを抱えているJBにとって,Bは“black”の頭文字なのだという言い方はできるでしょう。
 つまり,JBという主人公の名前の意味するところは,“ジロー・ブラック”であり,“ジャパニーズ・ブラック”なのです。

 山田詠美と同じように米軍基地をモチーフとした作品で登場した村上龍の「限りなく透明に近いブルー」には,主人公のリュウが乱交パーティの中で黒人米兵に犯されるという場面があります。リュウの生きざまには,アメリカとの関係を軸にねじれをはらんだまま展開してきた日本の現実が寓意されているような気がしますが,JBという少年の存在自体も何やら象徴的ではないでしょうか。

 コンプレックスを抱えた混血児のJBとは,もしかすると“ジャパニーズ・ボーイ” のことなのかも知れないな,という気がしました。

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