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いしだあきらのオカヤドカリなブログ

MR.アンラッキー 最終話

「まっつわ〜 まつ〜わ〜 いつまでも ま〜つ〜わ」

あみんが僕の脳裏で自主的なアンコールを繰り返している。本当にあみんが歌っていたとしたらそろそろ声が枯れ始めるころだろう。

宅配業者さんよ。

どういうつもりだい?来ないのかい?ピンポンするだけしといて来ないという手段をとったのかい?そんなのありなのかい?

僕の頭の中でB'zがLiar! Liar!を歌い始めた。

「You Liar Liar もう信じられないや

なんてすっぱいんだ大人のパラダイス」


すっぱいのは僕の汗の方だ。ダメだ。もう待っていられない。あみんごめんよ。

僕はシャワーを浴びることにした。本当はシャワーに集中したいが、もしかしたら宅配業者がくる可能性もある。僕はシャワーの扉を開けインターホンの音がかき消されないようシャワーを弱弱で浴びた。こんなスカッとしないシャワーがあるだろうか。

そんな僕の警戒を嘲笑うかのようにインターホンはならなかった。浴室から出て体を拭く。インターホンはならない。パンツを穿く。インターホンはならない。服を着る。インターホンはならない。

僕の頭に矢井田瞳が登場した。

「会いたいけど会えないの 今会ったらもっと怖い」

なぜ怖いかって?

ブチ切れてしまいそうだからだよ!僕だってこんなこと思いたくない!僕はドリカムの「来てくれてよかったー サンキュ」を歌いたいんだ。


おーっと!ダメだ!懐メロブームの筈だったのに微妙に自分世代の曲になってしまっている。まあいいか。所詮自分の中だけのブームだ。誰に迷惑をかけることもない。


僕はがむしゃらに仕事の準備をした。この「宅配業者ピンポンダッシュ行方不明事件」の事を忘れるかのように。

もう何も考えない。何も求めない。そして何も頭の中で歌わない。

そう、僕は無の心で家を出た。

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が、一瞬で無の心は崩壊され、我が頭にはCHAGE and ASKAが現れた。そしておもむろに歌い始めるYAH YAH YAH。

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なんと隣の家の前に届けられていたのです。こんなことってありですか?

僕の頭の中でかなり激しめのライブが始まった。

「今から一緒にこれから一緒に殴りに行こうかー」


終わり



ほいでは。

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MR.アンラッキー 第3話

血がじんわりとにじむ唇を気にしながら僕はランニングウェアーを手にとった。全部着てまたもや全部脱ぐ自信はない。

一体化したパンツスパッツ短パンから短パンだけを剥ぎ取り穿いた。別に悪いことをしている訳ではないのだが、少しだけ背徳感に襲われる。そして上はピッチピチの汗だっくだくのウェアーをもう1度袖を通す。肘がウェアーのあらゆるところで足止めを食らう。とてつもなく不快だ。暑いのに鳥肌が立つという「漏らしてるのにドヤ顔」的な不条理な状態が生まれてしまっている。

もう1度着てもらえるオーディションで落選した衣類を洗濯機に放り込み、タオルで頭を拭いた。拭いても拭いても流れてくる。「消しても消しても出てくるテトリス」状態に陥っている。

僕は「長い棒」待ちの様に宅配の男性を待った。しかし・・・

来ない。

来ない。

来ない。


全く来ない。


「来ると何度も匂わせながら全く来ないノストラダムスの大予言」かのようだ。みなさんもそろそろお気づきだろう。疲れからか謎の「しっくりこない例えブーム」が来てしまっている。


そんなことよりなんで来ないんだ!僕は我慢が出来なくなり、玄関のドアを開けエレベーターをみた。


そうだった。忘れていた。エレベーターは今点検の真っ最中だ。


では宅配の男性はかなりの重さの水を持って階段で上がってきているのか。それとも点検が終わるのを1階でただ呆然と待っているのか。それとも諦めて帰るという懐かしきピンポンダッシュシステムを採用したのだろうか。


僕は踵を返し部屋に戻った。


僕に残された手段は一つしかない。


「待つ」ことだけだ。


僕の脳裏にあみんの曲が流れている。どうやら謎の「懐メロ言いたいだけ」ブームが訪れそうだ。



つづく。


ほいでは。

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MR.アンラッキー 第2話

「笑い屋か!」

と突っ込みたくなるほどずっと爆笑している膝に、塩対応で階段を登っている。汗が目に入って痛い。こんなに塩分多めの汗だっただろうか。これが暴飲暴食による暴汗(ぼうかん)か。自業自得過ぎて意気消沈。笑止千万だ。ダメだ。疲れからか謎の四字熟語ブームが訪れている。

その四字熟語ブームが去り、「唇のちょっと皮めくれ始めてるところ歯で噛み噛み」ブームに差し掛かった頃、7階にたどり着いた。

とりあえずシャワーを浴びたい。

僕は最後の力を振り絞り、自分の部屋へと入った。嫁は病院に行っていていない。僕はシャワーを浴びるべくランニングウェアー一式を一瞬で脱ぐ。つもりだったがもともとランニングウェアーがピタッとしているのと汗ではりついてるのもあって全然脱げない。無理やり脱ごうとすると脚がつりそうになる。まったく終わらないすごろく状態だ。

やっとの思いで服を全部脱いだその時。


ピンポーン。


インターホンがなった。何故このタイミングなんだ。僕は今、汗だく全裸膝笑い屋状態なんだぞ。

インターホンを覗き見ると、宅配業者が大きな正方形の箱を台車に乗せているのが見えた。

そう言えば今日はウォーターサーバーの水が送られてくる日だった。はっとなり、部屋に置かれたウォーターサーバーを覗き見る。水が入っていない。これだけ汗をかいたのに水を飲めないのは危険だ。しかし僕は全裸だ。仕方あるまい。

僕はインターホンの「応答」ボタンを押し「はーい」とだけ声を発してオートロックを解除した。

僕はランニングウェアーを睨んだ。脱皮したばかりの皮のようだ。

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僕の八重歯が唇のめくれている皮を捕らえ、プチッと音を立てた。

つづく。


ほいでは。

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MR.アンラッキー 第1話

体が重い。これは体が鈍っているというレベルの話ではない。単純な体重の増加による「体が重い」という感覚に陥っている。

昨年の12月。職場のパートナーの不手際により、急激にバタバタし始めた僕は日課であるランニングが出来なくなった。パートナーへのストレスで暴飲暴食も増え、しっかり体重が増えてしまっていた。

GARMINの時計を見る。まだ5キロしか走っていない。しかし、この脚の疲れはなんだ。昨年の僕なら5キロで疲れることなど有り得なかった。このままではやばい。今年の大阪マラソンで初のフルマラソンに挑戦する僕は焦った。今日は10キロ走ろうと思っていたのだが「え?余裕で無理っすよ?正気っすか?」と膝が鼻で笑っている。このまま膝の指示通り走り終わるのは癪なので、あと2キロだけ走った。この「強がり」という判断は完全にミスだった。自分のマンションの前に立った僕の膝が爆笑している。ゆっくりとエントランスへ入りエレベーターホールの前で僕の思考は停止した。

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なぜよりによって今日なんだ。

僕の部屋は7階だ。この膝で登れる自身はない。エレベーターが動き出すまで待つか。いや、こんなthe走る服装をしている奴がエレベーターを待ち続けるなんて矛盾している。ご近所さんに見られたら絶対にいじられるに違いない。なんてアンラッキーなんだ。

仕方ない。

僕は階段を睨んだ。


つづく


ほいでは。

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トイレの中の人にドライバーさんの思いは届かなかった。トイレに動きは全くない。

ドライバーさんはというとノック以降、興味あるとも思えない商品を手に取っては戻すという作業を繰り返している。タクシーから見るにそこの棚は女性物のヘアゴムなどが置かれている棚だ。しかしそんなこと関係ない。商品を手に取っては戻し続ける。恐らく商品などまったく目に入っていない。今ドライバーさんは腸と肛門に全意識を集中させているに違いない。

それからどれくらいの商品がキャッチ・アンド・リリースされた頃だろう。トイレのドアが開いた。僕は最悪なケースが頭を過ぎった。腸と肛門に全意識を集中しているドライバーさんが、トイレが開いたことに気が付かないというエンドレスバッドストーリー。頼む。ドライバーさん気がついてくれ。

僕はドライバーさんを見くびっていたようだ。ドライバーさんが全意識を集中していたのは腸でも肛門でもなかった。ずっとトイレの中の動きに集中していたのだ。トイレットペーパーの音やズボンを上げる音など、彼は一つも聴き逃していなかったのだろう。

トイレのドアが開いた瞬間、ドライバーさんは反転しドアノブを握った。まるで忍者屋敷で壁から忍者が出てくるかのような動き。殺気を感じさせない静かな顔。トイレの中の人が出た瞬間、するりとトイレの中に入ったドライバーさん。

む、む、無駄がない。


僕は思った。この人の前世は忍者に違いない。

そしてトイレに入ったかと思うと本当に用を済ませたのかと疑う程一瞬で出てきた。これが限界を超えたトイレなのか。

そのスピードにも驚かされたが、それ以上に驚いたのは表情だ。

大学の合格発表以上の達成感、初孫を見た時以上の幸福感、倒産しそうになった会社を自分だけの力で乗り切った時以上の自信に満ち溢れている。タクシーの中でなければ僕はスタンディング・オベーションしていただろう。

いいものを見せて頂いた。ドライバーさん、ありがとう。ではそろそろ戻ってきてくれないか。もう僕の遅刻は決定しているのだから。なんでそんなとこで立ち止まっているんだ。何を見ているのだ。

はっ!その位置は!まさか!

この男!アイスを見てやがる!

何を考えいるんだ。やっと試練を乗り越えたばかりの腸と肛門に、何故さらなる試練を与えるのだ!これがドMという存在なのか。


レジを済ませたドライバーさんが読み取れない表情で戻ってくる。怖い。ドライバーさんはタクシーに乗り込み後ろを振り返りこう言った。

「本当にすみませんでした。なんとかことなくを得ました。お詫びと言ってはなんですがこちらを」

お、お詫び。あ、あ、ありがとうございます。さらに遅刻はしましたが・・・。

僕はかなりの努力で仏の顔を作りアイスを受けとった。そしてドライバーさんは努力ゼロの仏の顔でアクセルを踏んだ。なんて優しいアクセルなんだ。

「優良ドライバーさんおかえりなさい」

正直もう少し急いで欲しいのだが・・・。



僕はアイスを食べながら「何故アイスのだろう」かを考えた。まさかとは思うが「僕にもトイレを行かせて、自分のトイレをチャラにさせるつもりでは」と考えたのではないだろうか。そう言われるとアイスの中でもかなり大きいサイズのアイスだ。僕の腸を痛めつけるには申し分のないサイズだ。

いやいくらなんでも考えすぎた。

僕はルームミラー越しにドライバーさんを見た。ドライバーさんの片方の口角が上がったように見えた。嘘であってくれ。

僕の腸と肛門が武者震いをした。



〜END〜


ほいでは。

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