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日曜の夕方の話しだ。「300円しかないけど行っていい?」
ピー助社長の遠まわしの飯おごれコール!近くに出来た串カツ屋に行ってみたかったので、「奢るわ・・」と力なく返事。
途中以前二人で行った寿司屋「江戸銀」の前を通る。
「またここで食べたいね〜」ピー助は呟く。
「お前のバカラ3ベット減らせばここで食えるやん。」
「そうだよね。もうやらん!石原都知事に言って地下カジノ取り締まってもらおう!あると行っちゃうもん。」
と反省してるのかしてないのか、わからん結論で串カツ屋に着いた。
店名は伏せよう。味も悪くない。値段はまあまあ。しかし、
大将がとぼけ過ぎなのだ。
店は開いていたがまだ仕込みをやっていた。俺が「新世界の八重勝つ行ったことありまんねん。」とかますと、「うちのソースは八重勝つに近いです。」と自信満々。
「どっかで修行したんですか?」「いえ。」と素の大将。
素人料理である事をこんなに早くバラすとは・・
ガランとした店内。「まだ一回も広告打ってないんすわ!」
自慢気に大将。俺とピー助社長は心の中でつっこむ。
(それ自慢するとこちゃう!恥ずかしそうに言え!)
そしてここに娘がいた。多分人件費の関係で手伝わされてるんだろう。高校生か?今頃友達は援交という名の売春行為でお金を稼ぎ、ブランド品をショッピングしてるというのに・・
この娘は時給の出ない親父の手伝い。
俺は切なくなった。健気に働く姿に.ところが大将、娘に
「おいっ、これ具材いっぺんに衣に入れたらアカンやろ!」
と客の俺らの前で叱ってる。そしてそれをそのまま出した。
娘を叱るほどのことなら、やり直すべきだ。そのまま出せるぐらいの事なら、客の前で叱るな。俺はがっついて口の上をやけどしながらそう思った。
大将の独演会が始まる。ピー助が出身地の話を振ると、
「神戸ですねん、お兄さんはどこでっか?」と俺に飛び火。
「大阪ですわ。」「大阪のどこです?」「吹田ですわ。」
「へ〜知りませんわ。」そう言うと大将は素の顔で油を見てる。
ええ〜!ほったらかし!?おっさんから聞いて来てて。俺は寒空の下放置プレーされた気分。娘の方が(この空気まずい)とハラハラしてる。
テレビでくだらない笑いの点という番組をやっていた。
大将は関西こそ笑いが一番と思っているのか、
「人生こうろう知ってまっか?あんなボヤキ漫才もうないなあ、あ〜なたの〜噛んだ〜小指が〜痛い〜ってそら噛んだら痛いわー!って」一人で時代遅れのネタをやり、一人で笑って、
すぐ素の顔で油の中の玉ねぎを見た。
俺とピー助は唖然とした顔でカラリと揚がったカツを食べる。
この空気に娘は(どうしようもないんです、うちの父ちゃん、
許してあげてください。)そんな顔をしてた。
俺達のカツを揚げ終わると大将はドカッと厨房に座り煙草を吸い出した。(ありえない・・)八重勝つのおっちゃんが揚げ場で腰を下ろすだろうか・・
それよりも娘は立ったままだ。娘にまず感謝とねぎらいと休憩を与えるべきだ。俺とピー助は感じた。悲しいけど感じた。
(この店は潰れる・・・)
そこでより切なくなる。こんな父親を持ったこの娘が。いい娘過ぎる事が。脱出しなさい。逃げ出してしまえ!自分のやりたい事をやっていいんだよ。多分親父はダメだろう。君が支えるなよ。支えちゃダメだ。一緒に沈んでしまう。家族というだけで・・良識の美談派は無責任に「家族で支えなくちゃ。」と言うだろうけど。
会計を済まし店を出た。ピー助社長の週2回行ってる中国人パブの美声が何故か聞きたくなった。「カラオケでも行こか・・」
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