|
巻8−1642
安倍奥道(あへのおきみち) 冬雑歌 安倍朝臣奥道の雪の歌 たな霧らひ雪も降らぬか梅の花咲かぬが代(しろ)にそへてだに見む
一面に雪のほか見えないほど雪が降っているか。梅の花が咲かない代わりに、梅の花になぞらえてでも雪を見よう。
巻8−1643
若桜部君足(わかさくらべのきみたり) 冬雑歌 若櫻部君足の雪の歌 天霧らし雪も降らぬかいちしろくこのいつ柴に降らまくを見む
空一面雪が降らないものだろうか。はっきりとこの一面の柴に降るのを見たいものだ。
巻8−1644
三野石守(みののいそもり) 冬雑歌 三野連石守の梅の歌 引き攀ぢて折らば散るべみ梅の花袖に扱入(こきい)れつ染(し)まば染(し)むとも
引き寄せてよじり折れば、散ってしまうであろう梅の花を、袖の中にしごき入れて袖が花で染まってしまってもかまわない。
|
|
巻8−1639
大伴旅人(おおとものたびと) 冬雑歌 大宰帥大伴卿冬の日雪を見て京を憶ふ歌 沫雪がうっすらと降り敷けば、奈良の都を思い出させることです。
巻8−1640
大伴旅人(おおとものたびと) 冬雑歌 大宰帥大伴卿の梅の歌 我が岡に盛りに咲ける梅の花残れる雪をまがへつるかも
私の住む岡に真盛りに咲いている梅の花が。残雪をも梅の花と見間違えてしまったようだ。
巻8−1641
角廣辨(つののひろべ) 冬雑歌 角朝臣廣辨雪梅の歌 沫雪に降らえて咲ける梅の花君がり遣(や)らばよそへてむかも
沫雪に降られて咲いている梅の花を、君のもとに送ったなら男女の仲を噂されるだろう。
|
|
巻8−1636
舎人娘子(とねりのをとめ) 冬雑歌 舎人娘子の雪の歌 大口の真神の原に降る雪はいたくな降りそ家もあらなくに
真神の原に降る雪よ、そんなに降らないでおくれ。家人もいないのに。私ひとりなので大変ではないか。
元正天皇 冬雑歌 太上天皇御製歌 はだすすき尾花逆葺き黒木もち造れる室は万代までに
尾花を逆さに葺き、皮も付いた黒木で造った野趣溢れる室は、代々受け継がれるだろう。
巻8−1638
聖武天皇 冬雑歌 天皇御製歌 あをによし奈良の山なる黒木もち造れる室は座(ま)せど飽かぬかも
奈良の山の皮付きの黒木で造った室はいつまで居ても飽きるものではないようです。
|
|
巻8−1633
作者不詳(さくしゃふしょう) 秋相聞 或る人の尼に贈る歌 手もすまに植ゑし萩にやかへりては見れども飽かず心尽さむ
手間をかけて植えた萩なので、かえって逆に、見ていて飽きず、面倒見るにあれこれ心が痛みます。
巻8−1634
作者不詳(さくしゃふしょう) 秋相聞 或る人の尼に贈る歌 衣手に水渋(みしぶ)付くまで植ゑし田を引板(ひきいた)我が延(は)へまもれる苦し
衣の袖に田の水垢が付く程までにして植えた田を、鹿おどしのための引板引いて守るのも苦しいことです。
巻8−1635
大伴家持(おほとものやかもち) 秋相聞 尼頭句を作りて大伴家持尼につぎて末句等をこたえる歌 佐保川の水を堰(せ)き上げて植ゑし田を刈れる初飯(はついひ)はひとりなるべし
佐保川の水を堰き引いて植えた田を刈って出来た初めての白飯を、ひとりで食べるのですねえ。
|
|
巻8−1630
大伴家持(おほとものやかもち) 秋相聞 大伴宿祢家持が坂上大嬢に贈る歌 反歌 高円の野辺のかほ花面影に見えつつ妹は忘れかねつも
高円の野辺に咲くかほ花が、あなたの面影に見えることしきりで、あなたのことが忘れられないではないか。
巻8−1631
大伴家持(おほとものやかもち) 秋相聞 大伴宿祢家持が安倍女郎に贈る歌 今造営中の久迩の都に、秋の夜長にたった一人で寝るのは、苦しいことです。
巻8−1632
大伴家持(おほとものやかもち) 秋相聞 大伴宿祢家持が久邇京従り寧樂(なら)の宅(いへ)に留まる坂上大娘(おおおとめ)に贈る歌 あしひきの山辺に居りて秋風の日に異に吹けば妹をしぞ思ふ
山辺に一人居て、秋風が日に日に吹くと、あなたを益々恋しく思います。
|
|
巻8−1627
大伴家持(おほとものやかもち) 秋相聞 大伴宿祢家持が非時(ときじき)藤花を攀(よじり)并芽子黄葉二物を坂上大嬢に贈る歌 我が宿の時じき藤のめづらしく今も見てしか妹が笑まひを 家の庭に季節はずれの藤のように、愛しく今も見たいです。あなたの微笑を。
巻8−1628
大伴家持(おほとものやかもち) 秋相聞 大伴宿祢家持が非時(ときじき)藤花を攀(よじり)并芽子黄葉二物を坂上大嬢に贈る歌 我が宿の萩の下葉は秋風もいまだ吹かねばかくぞもみてる 庭の萩の下葉は秋風がまだ吹かないうちに、こんなにも色づいています。
巻8−1629
大伴家持(おほとものやかもち) 秋相聞 大伴宿祢家持が坂上大嬢に贈る歌 ねもころに 物を思へば 言はむすべ 為むすべもなし 妹と我れと 手携さはりて 朝には 庭に出で立ち 夕には 床うち掃ひ 白栲の 袖さし交へて さ寝し夜や 常にありける あしひきの 山鳥こそば 峰向ひに 妻問ひすといへ うつせみの 人なる我れや 何すとか 一日一夜も 離り居て 嘆き恋ふらむ ここ思へば 胸こそ痛き そこ故に 心なぐやと 高円の 山にも野にも うち行きて 遊び歩けど 花のみ にほひてあれば 見るごとに まして偲はゆ いかにして 忘れむものぞ 恋といふものを 心から思い巡らせば言うこともすることもどうしようもない。あなたと私手を取り合って朝には一緒に庭に出て、夕べには寝床を潔め、白栲の袖を二人差し交へて一緒に枕を交わした夜は何度もなかった。山鳥でさえ峰を隔てて相手を呼び鳴くというのに、この世の人である私は何をしているというのか。一日一夜も離れて暮らして居て嘆き恋しむのだろうか。こう思うと胸も痛みその故に、心が慰むかと高円の山にも野にも出かけ、馬を乗り回し遊び歩くけれど花ばかり美しく咲いているだけで見るたびに余計にあなたを思い、どうしたら忘れられるのか、恋というものを。
|
|
巻8−1624
坂上大嬢(さかのうえのおおおとめ) 秋相聞 坂上大娘秋稲蘰(いなかづら)を大伴宿祢家持に贈る歌 私が農作業で早稲田の穂で作ったかずらです。見ながら私を偲んでください、あなた。
巻8−1625
大伴家持(おほとものやかもち) 秋相聞 大伴宿祢家持が報えて贈る歌 妻が仕事で作った秋の田の早稲の穂のかずらは、素晴らしく見ていて飽きないものだ。
巻8−1626
大伴家持(おほとものやかもち) 秋相聞 妻の身に著(け)る衣を脱ぎて贈るに又報える家持の歌 秋風が寒いこの頃、人に見えない肌に着ましょう。あなたの一部として大切にして、あなたを思います。
|
|
巻8−1621
巫部麻蘇娘子(かむなぎべのまそをとめ) 秋相聞 巫部麻蘇娘子の歌 我が宿の萩花咲けり見に来ませいま二日だみあらば散りなむ
私の家の萩の花が咲いています。見にいらっしゃい。あと二日ばかりで散ってしまうでしょうから。
巻8−1622
田村大嬢(たむらのおおおとめ) 秋相聞 大伴田村大嬢が妹の坂上大嬢に与える歌 我が宿の秋の萩咲く夕影に今も見てしか妹が姿を
私の家の秋萩が咲いているその夕景、光の中に今すぐにも見たいです、あなたの姿を。
巻8−1623
田村大嬢(たむらのおおおとめ) 秋相聞 大伴田村大嬢が妹の坂上大嬢に与える歌 我が宿にもみつ蝦手(かへるて)見るごとに妹を懸けつつ恋ひぬ日はなし
私の庭の色づく楓を見るたびに、妹のあなたのことを思いながら、恋しく思わない日はありません。
|
|
巻8−1618
湯原王(ゆはらのおほきみ) 秋相聞
湯原王が娘子に贈る歌 玉に貫き消たず賜らむ秋萩の末(うれ)わくらばに置ける白露
玉にして緒に通して、消えないまま頂きたいです。秋萩の枝先に咲き乱れるように置ける白露を。
巻8−1619
大伴家持(おほとものやかもち) 秋相聞 大伴家持姑(をば)坂上郎女の竹田庄に至りて作る歌 道は遠いけれど、可愛い方に互いに逢いたくて、やっと出て来た私です。
巻8−1620
大伴坂上郎女(おほとものさかのうえのいらつめ) 秋相聞 大伴坂上郎女の和える歌 あらたまの月立つまでに来まさねば夢にし見つつ思ひぞ我がせし
新月が立って月が改まるまでも、いらっしゃらないので、夢にまで見続けて恋しく思っていました。
|
|
巻8−1615
聖武天皇(しょうむてんのう) 秋相聞 天皇の報和(こたえ)賜ふ御歌 大の浦のその長浜に寄する波ゆたけき君を思ふこのころ
大の浦の長浜に寄せる波のように、ゆったりとしたあなたを思います、この頃は。
巻8−1616
笠郎女(かさのいらつめ) 秋相聞 笠女郎が大伴宿祢家持に贈る歌 朝ごとに我が見る宿のなでしこの花にも君はありこせぬかも
毎朝私が見る家の庭のなでしこの花。その花があなたであってくれれば良いのに。
巻8−1617
山口女王(やまぐちのおほきみ) 秋相聞 山口女王が大伴宿祢家持に贈る歌 秋萩に置きたる露の風吹きて落つる涙は留めかねつも
秋萩の上にある露が風に吹かれて落ちるように、私のあなたを思い流れる涙を留めることは出来ませんとも。
|
[ すべて表示 ]






