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死亡フラグって何なの?死ぬの?
少し離れたところから、鳥のさえずりが聞こえてくる。敵国の領土内にある小さな村を俺たちは占領し、そこに前線基地を構築していた。敵と睨み合う戦争の最前線にいるにも関わらず、平和なもんだここは。戦争とはまるで無縁な気がしてきた。
俺はまだ20代前半で、階級も下っ端。その上、実戦…本物の戦闘に出るのは、今回が初めてだった。正直、敵が憎くて軍に入ったとかそういう訳ではなかった。ただ、軍人ってなにかと待遇いいしお金もくれるし、しかも女の子にモテるんですよ、これが。だから、もしこの戦闘で生き延びたら、取り敢えず首都に戻って女の子をナンパするんだ――
パーン!
…俺のささやかな願望がこもった昼下がりの妄想を、一発の銃弾が元気よく粉砕してくれた。遠くで響く銃撃の音、ほぼ同時に響く着弾の音。俺たちが占領した村にある家の壁の一部に、弾痕が穿たれていた。
「ててて敵襲ーッ!総員戦闘配置、戦闘配置だお前達ぃぃぃ!気ぃ引き締めろぉ訓練じゃねぇぞ戦争だぞぉぉぉぉぉぅぃ!」
大隊長が叫ぶ。ぎゃー!とかうわーい!とか叫びながら、兵営を駆け回っていく。うるさい。
続けて、また銃声が響く。1発、2発…それはすぐに、激しい撃ち合いに変わった。こちらからも向こうからも、殺意のこもった鉛弾が吐き出されていく。「何もないように思えた昼下がり」が「交戦状態」に突入するまで、30秒とかからなかった。
俺は実戦経験もなく、新兵教育課程をクリアしたばかりのド新米。不用意に前のほうに出て銃を撃ったところで、所詮は命中らない訳だし。むしろ、ちょこまか動き回るのはただ味方の邪魔なだけ。そんな理由で、俺はいつも小隊長のとなりにいるよう命令されていた。
小隊長は、敵がいるであろう方向をじっと見つめていた。未だになんか叫んでる落ち着きの無い大隊長とは裏腹に、小隊長は常に冷静だ。アサルトライフルの安全装置を静かに外し、引き金に指をかけて敵の方をうかがっている。…ん?俺は空気扱いですか小隊長。
と、そのとき。後ろから足音がして振り向けば、軍服の前を全開にしたセクシースタイル、アサルトライフルを片手で構えた兵士が、ウザったい長髪をいじくり回しながら歩いてきた。自己顕示欲が強いと言うか、割とナルシストな奴なんだこいつは。その上、小隊長に気に入られようと頑張っている。なんかウザいから、俺はそいつに「ナル兵」という渾名をつけている。
「小隊長」
片手を腰に当ててポーズを決めながら、ナル兵は小野○輔みたいな爽やかボイスで言った。
「小隊長が出るまでもありません。あんな雑魚共、俺がちょっと蹴散らしてきますよ」
――【○○様が出るまでもありませんよ。ここは私が…】類型?!俺は咄嗟にナル兵の方を振り返った。ナル兵は不敵な笑みを浮かべ、アサルトライフルを手にずかずか歩いていってしまう。
あぁ、今のって死亡フラグだよなぁ…そんなことを思っていると、一際大きな銃声がどこからか響いた。それと同時に、ナル兵がその場に崩れ落ちる。
どこかで「メディーック!」という叫び声があがり、数人の兵士がナル兵に駆け寄って安全な場所まで引き摺っていく。すぐさま衛生兵がナル兵の容態を確認し……首を横に振った。
「…死亡フラグ、だ」
俺は思わず呟いた。死亡フラグ、立ってしまうとほぼ100%の確率で死に至ってしまう破滅へのプレリュード…!まさか本当に死んじゃうなんて!
偶然ではない、と頭の片隅で思う。これは偶然ではない、偶然なんかでは決してない!
俺が目の前で起ったことに恐怖しガタガタ震えていると、ぽんと誰かに肩を叩かれた。恐る恐る振り返れば、そこに1人の兵士がしゃがみ込んでいた。
この兵士が誰かと楽しそうに談笑しているところを、俺は見た事がなかった。兵営の中はもちろん、移動するトラックの中でも、塹壕の中でも、常に寡黙なキャラクター。数日前に、初めて小隊長の指示に「了解」と短く答えたのを聞いたことがある。それ以外、誰かと喋っている瞬間も独り言を言っている瞬間も見たことが無い…そんな兵士だった。
「…大丈夫か?」
その寡黙な兵士が、声を掛けてきた。な、なんて股を濡らす低音ヴォイス!喩えるなら中田譲○といったところだろうか。ただ単に低いだけでなく、深みのある優しさと安心感と胡散臭さを兼ね備えた声だった。取り敢えず頷いておくと、寡黙な兵士は俺の肩から手を退けた。
「…俺も初めて実戦に出た時は、恐かった。銃声と爆音にいちいち身を竦ませ、トラックの中でずっと震えていた。だが、じきに慣れるから心配ない…小隊長のとなりでおとなしくしていろ」
――【寡黙な人が身の上話をする】類型?!俺はなにも言えずに呆然とその寡黙な兵士を見つめていた。寡黙な兵士はすくっと立ち上がると、一度小隊長と顔を見合わせてから、幾人かの兵士とともにどこかへ走っていった。ざしざしざし、と走っていって…上から降ってきた迫撃砲弾に押し潰され、爆音と共にゲシュタルト崩壊。黒煙と一緒に、寡黙な兵士の被っていたヘルメットが上空高く放りあがる。
俺がビビッて小隊長の隣で小さくなって震えていたばっかりに…っていうか、さっき小隊長が寡黙な兵士を引き止めてくれていれば!寡黙な兵士が文字通り散った場所をみつめながら、俺はそんな事を思った。もう、マジで死亡フラグとかやめてくれよ!
どうせゲームや映画の中だけの話だろうと思っていた死亡フラグと言う現象が、今正に目の前で発動したのだ。2人の兵士が死んだのだ。もし口を滑らせて自分が死亡フラグを立ててしまったら……あぁ、恐ろしい!
っていうか死亡フラグとか考えた奴誰だよ!と俺が発狂しそうになっていると、隣にいた小隊長が小さな溜め息をついた。
「はぁ…このままでは、敵に押し切られてしまうかもな…」
「……死なないでくださいよ?」
「…何?」
「死亡フラグとかもうマジ勘弁です。せめて小隊長は死なないで下さい、もういっそ押し切られて敗走しちゃいましょうよ」
敗走すれば戦闘は続かなくなるから、これ以上の犠牲は増えない!死亡フラグ発動の機会が失われるから!やべぇ俺天才!
そう思って安心したのも束の間だった。小隊長は小さく笑って口を開いた。
「怖じ気づいたか?新米が。まだ俺は死ぬつもりなんか無いさ。家に帰れば、妻と可愛い娘が俺のためにビーフストロガノフを作って待っているのだからな」
――【家に帰れば、妻と可愛い娘が私のためにシチューを作って待っているんだ】類型派生型?!っていうかなんでビーフストロガノフなの?この人ロシア出身?
思わずビーフストロガノフに意識が向いてしまい、小隊長の咄嗟の行動に反応できなかった。その場に勢いよく立ち上がった小隊長は、アサルトライフルの安全装置をフルバーストモードに変更、怒濤の勢いで銃を乱射しはじめたのだ。そして、叫ぶ。
「ここは俺に任せて、お前は先に行け!」…これこそ言わずと知れた死亡フラグの王道のひとつである。
あぁぁ、もう駄目だ……俺は小隊長を止めることも、自分一人逃げることも出来ずに頭を抱えた。もうこの部隊、全滅するんじゃねーか…?
そう思ったとき、右腕に鋭い痛みを感じた。そのまま勢いよく仰向けに倒れ、後頭部を強打する。視界に花火が弾け、右腕に真っ赤な薔薇が咲き誇る。
「……ッ?!」
何が起こったのか分からなかった。視界いっぱいに広がる青空がぐにゃりと歪み、脳裏に走馬灯が浮かび上がる。
小学5年のとき、ひらひら飛んでたアゲハチョウに似た蛾を追っかけて車に轢かれかけたなぁ…中2の時、好きな人に告ってフられたなぁ…校庭で、公衆の面前で、そりゃもう全力で頬をぶん殴られて…ガチホモの野郎に掘られかけたのは高3の夏だったっけ…そうだ、助けを呼んでも誰も助けてくれなくて、ガチで掘られかけて…それがトラウマになって、俺は強くなろうと思った、そして軍に入隊…今日が初めての実戦で……
あぁ、そうか。俺は薄れ逝く意識の中で、あることを思い出していた。
この戦闘が始まる一瞬前まで、自分は何を考えていたか。
「もしこの戦闘で生き延びたら、取り敢えず首都に戻って女の子をナンパするんだ――」
終☆焉
はいっ、という訳でこんばんわ。
もういくつ寝るとお正月だよ本当。年末でいろいろとお忙しい方も多いとは思いますが、みなさん如何お過ごしでしょうか?みんなのアイドル、のすけ。です。
昨年の文芸部誌に投稿させてもらった、「死亡フラグって何なの?死ぬの?」という小説を無駄に掲載してみたり。
「文芸部誌用に小説書いてくれ!」→「おk!戦争モノでもいい?」→「いいぜ!あ、でもコメディー要素も欲しい!」→「戦争コメディー…だと…」→「そ れ だ」という流れで書き上げた駄文でございます。
ネタに走りすぎて逆にまとまりが無くなっちゃったよメルツェル。
今年も文芸部誌に小説を載せてもらえることになりました。「AID」という軽いヤンデレ小説です。
そいつもまた気が向いたら掲載しますね。
今宵はこのあたりで。
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フルバースト直ってねえのかよwww
2009/12/31(木) 午前 3:02 [ Kaninoと羅理子 ]