・第1章

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そこは寂しい部屋だった。


四方はコンクリートに囲まれ、光源はない。
嵌め殺しの小さな窓から漏れる月明かりだけが、部屋の中をおぼろげに照らしている。


影を落とす家具は、部屋の中央に置かれたパイプベッドのみ。
シーツにはしわひとつなく、青白い月光を反射して冷たさを感じさせる。


そのベッドの影の中にうずくまる黒い塊があった。
暗い部屋に完全に溶け込んでいて、いちど部屋を見回しただけではその存在には気づかないかもしれない。

よく目を凝らして(それに順ずる意識を働かせて)みると、それは膝をかかえてうずくまる黒髪の少女だった。


少女の黒い瞳は焦点が定まっておらず(そもそも焦点を当てるような対象がこの部屋にはない)、
表情からは凡そ感情というものが欠けている。

白磁のような肌と、無地の白いワンピースも、ベッドの影と同化してしまっていて、
その存在を主張することはない。



そう、彼女は存在が許されていないのだ。



「……私は、いる」


暗闇からか細い声が聞こえる。
その声は幻聴なのだろうか、

いや、耳を澄ますと(意識を聴覚に傾けると)確かに聞こえてくる。


「私は、いる」


存在しないはずの少女の口元が微かに震える。
確かに声はそこから発せられているようだ。

しかし、その音は余韻も何も残さず、ひどく集中しなければ意識に留めておくのも難しい。


「私は、いる。私は、いる」


存在を許されない少女は、ただそれだけを繰り返す。
その声は抑揚も力もなく、ただの音の羅列でしかない。

だが少女は存在を主張する。そこには存在しないものに向かって。


「私は、いる。私は、いる。私は、いる。私は、いる……」






――月明かりは応えない。








  ***




(いや……ドキドキとまらないよぉ)


伊丸岡美唯《いまるおか みゆ》の心臓は制限速度ぶっちぎりで暴走していた。
混雑するハイパートラムの車両の隅々まで、その鼓動が聞こえるんじゃないかと思うくらい。


(うう、悠介君に聞かれちゃう)


自分の体の音なんて、まず他人が気にすることなんてないのだが、
すぐ後ろにいる男子高校生のことを思うと美唯の心臓はますますアップテンポになるのだ。

美唯は目下片思い驀進中の高校3年生、
新学期初日から意中の男子と通学をともにできるという幸運に恵まれたが、
予想していたよりもその距離が近すぎて、緊張でカチコチになってしまっていた。


(新学期から悠介君と一緒なのはうれしいけど、うぅ……こんなに近すぎたら顔も見れないじゃない!)



美唯の片想いの相手、成迫悠介《なるさこ ゆうすけ》。

友達の詩織《しおり》に言わせれば「平均点はかろうじて守る凡人」という評価の顔立ちで(ひどい!)、
背格好もファッションセンスも(といっても学校では制服なので美唯は写真でしか見たことがない)ごく普通。
特に目立つわけでもなく、クラスも違うので、美唯も去年の夏休みまでは存在すら知らなかった。

だが夏休みに行われたヴィヴァットの校内トーナメントで活躍する悠介を見てから、
美唯のミーハーな恋心に火がついてしまったのだ。


(詩織もミーハーとかなんとか言って、私は真剣なんだから)


そういう美唯の携帯ホログラムデバイスは悠介のムービーやイメージでいっぱいだし、
いつも同じ車両で登校できるように、『あさめざ』占いのラッキーナンバーチェックは怠らない。

悠介は途中の駅から乗ってくるのがわかっていたが、乗り込む車両はいつも気まぐれ。
そこで美唯は登校時、必ず占いのラッキーナンバーと同じ車両に乗ることにしている。
すると不思議なことに一緒の車両になる確率がぐんと上がるのだ。

『あさめざ』の占いは、21世紀末の女子高生のバイブルになっている。
たかがワイドショーの占いとはいえ、ラプラス・システムがいち早く導入されており、
もはや予言ともいえる的中率を誇る。

そんな占いが「ラッキーナンバー7、ラッキーカラーは虹色、これで新学期もバッチリ決まる!」などと謳えばもうそれは絶対なのだ。

美唯と同じ星座の女子生徒は(あるいは男子生徒は)
みんなアクセサリーをこてこてのレインボーに統一してくるに違いない。

そんな美唯の左手の携ホロ・ブレスレットはもちろん7色に光っていた。



願掛けが功を奏してか、今日も美唯が乗っている車両に悠介は乗ってきたのだが、
あろうことか美唯のすぐ後ろに陣取ってしまったのだ。

いつもなら気づかれないように遠めに顔を眺めて悦に浸るのだが、距離が近すぎるとそれもできない。
ましてや会話などしたこともないので声なんか掛けられるはずもない。


(いや、でもこれは神様がくれたチャンス!? 振り返って『おはよう』って言ってみる? 
 で、でもそれってちょっと不自然じゃない? だって今までそんなことしたことないし……
 ううん新学期なんだからもしかしたらそれもアリ? クラス替えとかあるし、その話題をふれば
 『一緒のクラスになるかもしれませんね』とか……
 きゃーー!! 一緒のクラス!? ど、どうしよう!!)


そんな妄想を膨らませているうちに、ますます動悸は激しくなり顔は真っ赤になっていく。
とても声などかけられる状態ではない。

結局、背中に悠介の気配を感じながら俯くほかなかった。



(……え?)



ふと、その背中に温かいものが触れた。


(手……当たってる?)


確かに後ろには大きな気配を感じている。
これが悠介のものであるということは、長いこと彼を追いかけてきた美唯には見なくてもわかる。

だがそれだけではなく背中に突如現れた物理的な感触とその熱。


(え、いやちょっと悠介くん!?)


ハイパートラムの車内は関東学園都市に向かう学生やサラリーマンでそこそこに混雑していたが、
それでも旧交通システムの通勤ラッシュに比べたら微々たる物と言える。
人と人が密着するような状況にはならない。

それでも背中に人の体温を感じる。それは偶然触れてしまってるというには不自然だ。


(ひゃっ!!)


突然つつつと背中の感触が背筋を伝って腰の方へ移動する。
あまりの出来事に固まってしまって動けない。


(え、ちょっと何してるの悠介くん!)


そしてその感触はもっと下のほうへ、スカートのを膨らませている部分へと伸びる。


(い、いやあ……だ、だめだよう)


スカートの上から膨らみを撫で付けられる。
それは決して強引ではなくやさしさを感じられるものではあるが、美唯の戸惑いは増すばかりだ。


(そ、そんな私たちまだ一緒に話したこともないのに……)


突然始められた愛撫に美唯は息が荒くなるのを感じる。
だがそれ以前に動揺が抑えきれず、目を瞑ってされるがままになってしまう。
しかし余計に感覚が集中してしまい、苦しさや切なさで胸がはちきれそうになる、これ以上続けられたら……。


(あ、あ、そんな……)


「それ」は美唯の膨らみを十分堪能したのか、新しい動きを始める。
さらに下へ、腿をつたいスカートの裾のあたりへ。


(い、いや……そんな、まだ全然準備なんて出来てないよ……)


そんな美唯の心の声を知ってか知らずか、「それ」はじっとりと吸い付くように美唯のスカートをまさぐる。
そしてついにその布に覆われた暗闇へと侵入する!



「だ、だめええええぇぇぇぇぇ!!!!!」



ついに耐え切れなくなって、禁断の領域に侵入しようとするそれを手で払い振り返る。


「そ、その、だめだよ! まだ私たちそんな関係じゃ……」




と、そこで固まる。

目に入ってきたものは悠介とは似ても似つかない姿だったからだ。



美唯は一瞬、UMAという単語が思い浮かんだ。



背の丈は美唯の胸元くらい、ギトギトした黒い頭髪は女性のように長く垂れ下がり何だか気持ち悪い。

長い髪とは対照的にその額は禿げ上がり、脂汗が浮かんでテカテカ照明を反射してやっぱり気持ち悪い。

ハの字形の眉毛と、開いているのかわからない目には生気が感じられなく不気味で本当に気持ち悪い。

長く伸びた鼻の下は剃り残しの髭が青々としていて、血色の悪い肌と相まってもう生理的に気持ち悪い。

唇は腐ったリンゴみたいな色をしており、ヌラヌラと湿っていて舌なめずりしやがったゲェ気持ち悪い。

来ている黄土色のスーツはよれよれで、センスとかそういうものをすでに超越しており気持ち悪い。

そいつの右手が所在なさげにふらふらしていて、それが何をしてたのか想像するだけで気持ち悪い……。


「ぐっどもーにんぐ、かわいこちゃん」


そのだみ声を聞いて美唯は確信した。



完璧だ、



非の打ち所のない変態だ。



美唯は次にすべきことのために深呼吸をする(本当は息をするのも嫌だったが)。

準備は整った、さあごいっしょに……。




「痴、痴カーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!」




ハイパートラムの車内に美唯の絶叫がこだました。




                                       つづく


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銅八先生を小説にすると公言してしまってから早半年……。

もはや永久に始まらないんじゃないかというプロジェクトをついにスタートさせてしまいました。

しかも卒論提出が来月に迫ったこの時期にw

一応卒論執筆の傍らでやっていこうと思っていたのですが、

いざパソコンに向かうと小説の方が執筆時間が長かったりする始末。

本当に大丈夫なのか? と思いますが、どちらもやる気になってしまったので仕方ありません;;




とはいえ、小説の方も書いては消し書いては消しの繰り返しで、

全然思うように進んでくれません……。

もうひどい出来になるのは覚悟しています。

ですが、自分のアイデアを形にするというプロジェクト、

どうにか続けていきたいと思います。

初心者なりに最善を尽くしていきますので、お付き合いいただけたら本当にうれしいです;;




それからにほんブログ村のランキング、カテゴリーを変更して再開したいと思います。

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よろしくお願いいたします☆


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