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繰り返し観るとかお気に入りという感覚ではなく、自分の中心に「染み込む」と言った印象の作品です。
原作は自然主義文学の先駈けと言われた島崎藤村の同名小説。監督:市川崑、出演:市川雷蔵・長門裕之・
船越英二(二時間ドラマの帝王、船越英一郎のお父さん)・藤村志保(この映画がデビュー作)・三國蓮太郎・
岸田今日子・杉村春子など。
・・・実を言うと自分は「眠狂四郎」シリーズが苦手です。ですが「時代劇」ではちょっと強すぎる市川雷蔵の
演ずる影のある役どころというのが、炎上(原作:三島由紀夫の「金閣寺」)やこの破戒と言った文芸作品だと、
非常にストレートに表れており、すんなりと観ることができます。
この作品の一番印象深い箇所は、原作には描かれていない、脚本:和田夏十(市川監督の奥さん)が
書き加えたオリジナル部分にあります。
物語後半、雷蔵演ずる小学校教員・瀬川は「自分が部落民である」事を周囲に告白して郷里を離れる
決意をします。その決意に対し、岸田今日子演ずる猪子の妻(猪子とは自身の素性を明かした部落民
解放運動家。劇中に刺客に襲われ死亡する)はこのように諭します・・・
「・・・瀬川さん、なぜ学校を止されるのです。私には告白なさる必要さえなかったように思えるのですよ・・・。
(中略)・・・人間は皆平等だと憲法にもあるそうですね。主人も差別するのは間違っていると言っておりました。
それならなぜ間違った方の尺に合わせて生活するのです・・・。
(中略)・・・勿論敵対する人も多いでしょうが、社会に出れば誰しも同じ事じゃないでしょうか。(自分が)普通の
人間だとおっしゃるなら、辛いことも普通通りに受け取って頂きたいの。生きると言う事は、そりゃ苦しい事も多いと
観念して頂きたいの。部落出だからと言うせいにしないで・・・」。
・・・藤村の原作において瀬川はどちらかというと「逃げるように」郷里を後にするのですが(自然主義文学
としてはそうせざる得なかったのでしょう)、和田の脚本では明確に「部落差別」に対する一つの解釈を
示し、映画での瀬川はより力強く旅立つ事になります。当時20歳でこの作品を観た自分は、少なくとも和田版
「破戒」を観たお陰で、自分と異なることやマイノリティについて考えるきっかけとなりました。
特に若い人達に観てもらいたい作品です。
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