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侍達の夜明 のべるわんでいのお部屋
地道にコツコツと 先天下之憂而憂、後天下之楽而楽

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 (注意書)同名の同内容の記事が二つありますが、前回の記事はTB不良?のためどうしてもTBできず、新たにこちらで記事を作成しなおして、「ばっどさんのお部屋」にTBさせて頂きました(この記事はなぜかTBに成功しました。どちらもTB許可設定しているのに、よくわかりません。)。前回のは、ばっどさんと晴香さんからコメント頂きました。以後の記事はこちらになりますので、新たにコメント頂ける方はこちらにてお願い申し上げます

 
 「忘年会」
 
   年末に近い寒い頃、懐が寂しくなり、つい魔が差して会社から預かった忘年会費用を元手にパチンコで一儲けしようと考えた。古いアパートの近所に昔馴染みのパチンコ屋はまだあった。昔に比べ、ネオンは質を落として停まってる自転車の数は少なくなっていた。始めにいきなりフィーバーが出たから、調子付いて、出玉をすっかり注ぎ込んでしまうと、封筒から一万円札をカードに換えて、またカードに換えて、それを繰り返すうちに、とうとう中身は空になった。少しぐらい残しても良かったのだが、それは玉が出ない焦りの感情を上手く押さえる事ができない為の自分の無意識の責任にした。実家の親に送金してもらおうと電話を架けるか迷った。財布には、二千円しか残ってなかった。全ての貯金はサラ金に吸い上げられていた。親からの返事は年始に帰って来たときにお年玉で遣るという楽観な回答だった。東京に出て1年目の事である。サラ金にまで手を出しているとは親には言ってない。この時初めて、増田は会社から夜逃げして田舎に戻りたい気持ちになった。
明後日が忘年会である。金銭感覚にのんびりした性格を田舎育ちだからだと決め付ける自分が嫌になった。既に帰省する為の切符は実家から送ってきてある。奇跡的に残った二千円を見ていると、田舎の有難さが身に沁みた。自然と涙が出た。その日から、余計会社が空ろに感じた。一年の計を締め括る忘年会。費用を預けられた会社からの信用を失っている事は、まだ自分しか知っていない。30日の取引先関係への振込手続は全て済ましてある。経理の彼だけが、30日会社に出てこないといけなかった。金庫も彼が扱っていた。本社の経理部との年末の報告をしないといけない。それが済むと、彼の今年の仕事納めになった。営業課の課員らは、年末挨拶に忙しい。袋に詰めた来年のカレンダーを抱えて、出たり戻ってきたりした。彼の仕事は、今はもう暇だった。2千円ぐらいなら、31日迄持つ。然し、彼の頭の中は忘年会の事しかなかった。
皆が帰った後、金庫の中の現金を調べてみた。本社からは金庫のお金は五十万円以内に押さえるように通達されているので、それ以上は銀行に本店付替で送金している。今は、二十万円程あった。忘年会費用は、その半分で済む。彼は、ここで魔が差して、ちょっと借りて置こうかと考えた。その晩、夜遅くまで彼は会社に残った。
翌日、支店長に相談しようかどうか考えた。自分の使い込みを、会議費か交際費に当て込む事はできないか。しかし、それはできなかった。彼は、仕事中金庫の中のお金の事ばかり考えていた。ちょっと借りて、年始に実家の親に相談して、大目にもらって、それを金庫に戻す方法もあった。然し、それも実現が難しいと感じた。そのような妄想にまで至った自分が恥ずかしい事だと思った。
誰にも相談できない苦しみが、彼を苦しめた。三十日の朝、彼だけが会社に行った。夕方、予定の宴会場所に営業の課員らや支店長は集まる。自分だけ背広だが、彼らは私服に違いなかった。彼は夕方まで暇だった。ただ、金庫だけを眺めた。毒を食らわば皿までという考えが、彼に行動を起こさせた。そして入社1年目で支店の経理を任せる会社側の人の良さを、馬鹿な会社だと思うようになった。彼が幾ら大学出だからって、そんなに簡単に人を信用するもんじゃないよ。大学は関係ないはずなのに、つい自意識の高さから、それが仕事では上手いこと運んでいた。これまでは。本店からの親展で郵送で来た暗証番号のダイヤルを回した。暗証番号は彼だけが知っていた。いつものように、左に三回回して0に、右に二回で0に、それから「1234」と右に左に回して、レバーを引く。ガチャリと開いて、現金箱を取り出す。一万円札の束を凝っと見つめた。
すると、自分の机の電話が鳴った。彼は慌てて金庫を閉じて、電話に出た。本社への報告は既に済ましてある。月末の当座振込も滞りなく済んだ。受取の手形郵送も済ましてある。銀行への挨拶も済ました。彼は受話器を取るのが怖かった。しかし勇気を出して受話器をとった。すると、それは営業の片山からだった。
「もう、仕事終わったか。こっちは皆集まってるぞ」
「はい、そろそろ出るところです」
「よろしく」と言って片山は切った。
彼は、金庫に鍵掛け玄関の鍵締め支店を出た。懐に二千円は残ったままだった。そして、それ以外にはお金は持っていなかった。増田は、金銭感覚にふしだらな自分を支店の面面に晒して、その激しい責めを宴会の始めに受ける。それから年始に退職する旨を支店長に告げるつもりでいた。
宴会場所は、支店の近くのビルの地下だ。中華料理店である。入口に立っている幾つかの会社名の札の中に自分の会社のもあった。彼は、急に雲隠れしたくなった。然し別に会社の金を流用した訳ではない。あくまで支店員等の私的なお金だ。それでも、かつて1年築いた信用は一度に失う。もう、自棄になり店の前に立った。増田は受付のボーイに誘われ個室に入った。そこに彼らは居た。案の定皆私服だ。既に飲んで赤ら顔だった。増田は空けられた末席に身を縮めると、責めを受けるために頭を真っ白にして立ち上がった。彼らは何気に振り返った。すると支店長が彼に呼びかけた。「おい増田、一年ごくろうさん」と言って、皆から集めたものだという慰労金を彼に手渡した。彼は驚いた。熨斗袋の宛先は増田で、結び切までしてある。耳根まで赤くなった。彼らは増田に拍手していた。たった一人で、支店の経理をし通した事への裏腹の無い感謝の気持ちだった。それから彼は熨斗袋の裏側を見た。「支店一同」と筆で書かれ、他に金一封「七萬円」とあった。この金額は、遣い込んだ宴会費用と同額だった。それでも彼は全てを白状した。気持ちが軽くなった。然し彼らは不意を突かれたようだ。顔は凍りつき拍手は止んだ。
 
 

  • 意外なオチが付いているのが面白いです。

    [ - ]

    2012/9/11(火) 午前 8:58

  • 顔アイコン

    晴香さん、こちらにもコメントありがとうございます。
    オチは書いている最中に、段段と見えて来る場合が多いのですが、今回は気楽な感じにまとめてしまいました。オチはほとんど好きじゃないんだけどね。。

    novel1day

    2012/9/11(火) 午後 9:58

  • 顔アイコン

    こちらにもTBしておきますね!

    ばっど

    2012/9/12(水) 午前 8:15

  • アバター

    魔が差して転落人生を歩むのかと思ったけれど、結局のところ、運がいいってことのようですね(笑)

    [ 藤中 ]

    2012/9/17(月) 午後 8:59

  • 顔アイコン

    ばっどさん、ありがとうございます〜
    TB今後はうまくやりたいですね。
    しかし一度失敗するとなぜ駄目になるのかな。

    novel1day

    2012/9/18(火) 午後 8:47

  • 顔アイコン

    藤中さん、まあ〜笑、どうなんでしょうね。
    オチつけなくてもよかったですね。
    最近オチ物は、好かんようになっています。

    novel1day

    2012/9/18(火) 午後 8:49

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