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始発列車がホームから離れていくのを眺めている。
これではいけないと思い、
自動改札を飛び越えて、また商店街へと戻っていく。
後方では、駅員もまだいない改札機のアラームが鳴り続けている。
早朝の商店街には、まばらだが様々な人種が彷徨い歩いている。
そんななか、男は1つの場所を目指す。
「できることなら君を抱きしめ、連れ出したい」
途方にくれた女は何も言えず、ただただ泣いている。
それでも男は話し続ける。
「ちゃんと話せなくてごめんね」
女は泣きながらそう応える。
男が「手紙」を渡す。自分の気持ちを一通り伝えた後に。
「寝過ごさないように気をつけて帰ってね」
「うん、大丈夫。ありがとう。君も自転車気をつけてね」
黒のカーディガンに、白い服をまとった女はまだ泣いている。
男は一礼をして、通い慣れたその場所を離れ、駅に向かって再び商店街を歩いていく。
風景は一変していて、休日に外出する人々が男を追い抜いて行く。
朝の眩しい日差しの中、男の頬をつたう涙は温かい。
駅員に先程の非礼を詫び、改札機を通してもらう。
住み慣れた場所を離れ、新しい土地へ向かう。
電車のなかでも涙は止まらない。
次はいつ会えるだろうか。
「自分の気持ちに整理がついたときだろうな」
そう自分に言い聞かせる。
一緒に過ごした大切な5日間を思い出しながら、
少し鼻にかかった愛おしい女の声と、
背筋を伸ばし、きびきびと働く女の姿と、
この世で一番、魅力的な女の笑顔を思い浮かべる。
男は一人、家族連れでいっぱいの電車に揺られている。
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