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ただそれでよかった。
だけどそのうち何かが変わり始めた。
「あなたって神経質そうね。部屋のレイアウトとかうるさそう」
「そういう君は正義感が強そうにみえるよ。他人にだけでなく、自分にも厳しそう」
少しずつだが会話が続くようになってきた。
お互いのことがわかるようになってきた。
「ねえ、今晩会えないか?そんなに時間はとらせないから」
「近場ならいいわよ。ちょっと遅くなるけど」
約束の時間になっても女は現れない。
男は一人でバーに入り、適度に冷えたギネスを喉に流し込む。蒸し暑い、東京の熱帯夜には格別の味だ。
「ごめんね、これからそっちに向かうから」
30分ほどしてから女と合流した。
「一つ聞いてもいいかな?」
「いいわよ」
「おひとり、ですか?」
「・・・いいえ」
「そうか、やっぱりそうだよな。。がっかりだけど」
女はクスクスと笑い、屈託のない笑顔をみせる。男があまりにも素直な感想を述べたからだ。
「僕はね、あなたに一目惚れしたんですよ。あまりにも綺麗だから。誰と一緒なのかは知らないけど、本当にがっかりだ」
「なんでそんなにがっかりするの?」
「だってこの先なにも発展がないからさ。不毛な恋愛ほどつらいものはない」
「あら、独りじゃないからといって、チャンスがまったくないとは限らないわよ」
「だめですよ、そんな気をもたせるようなこと言っちゃ。まあ、あなたが独り者じゃないことは、なんとなくわかっていたから大丈夫」
「そうなんだ・・」
「いいんですよ、そんなに気にしなくても。僕はありのままのあなたが好きなんです。一目惚れはしたけど、今のあなたが好きなんです。だから今までどおり接してくれれば、それでいいんです」
男は強がった。見返りを求めない恋愛感情などないのに。
女はそんな男の気持ちをわかっていた。そして、できる限りの優しさで包んだ。
「ねえ、今度私の奢りでカラオケ行かない?二人で一緒になにか歌いましょうよ。私、カラオケ大好きだから」
「うん、そうしよう。じゃあ僕は、お返しに焼き鳥屋に連れてくよ。夜の3時までやっていて味も結構いけるんだよ。君に飲んでもらいたいカクテルもあるんだ」
店を出ると外は雨だった。
「はい、これ」
女は小さなビニール傘を男に差し出すと、足早にタクシー乗り場へと去って行った。
「ほんの僅かでもいい。二人の距離が縮まるのなら」
男はそう言い聞かせ、女が向かったタクシー乗り場へゆっくりと歩いて行った。
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npon0124さんがおつくりになられた小説なのかしら、ふたりの情景が目にうかぶようです
こころの深みで眠っていたなにか大切ないとおしさとか揺れ動かされていくのをおぼえていくような(^-^)
2011/9/15(木) 午後 0:02 [ まりありた ]
まりありたさん
コメントありがとうございます。
僕は、そのまさにその「なにか大切ないとおしさ」に毎日揺れ動かされていますよ^^
こうやって文章を書いたり、本を読んだり、音楽を聴きながら、その揺れを静かに保っているという感じです。
2011/9/15(木) 午後 11:31 [ npon0124 ]
こんばんは。
毎日、心を動かされる何かがあるだけ幸せなんじゃないかと・・・
2011/9/19(月) 午前 4:09
pompuさん
そうですよね、それって幸せなことですよね。
そう考えると、何気なく過ごしている日々も色褪せることはないような気がしてきました。
2011/9/19(月) 午後 9:29 [ npon0124 ]
眠れないときは、ホットミルクを飲んで毛糸の靴下をはいてパソコンみたり本を読んだりして過す。
これが結構心地よい。
2011/10/6(木) 午後 8:25
グーコさん
うーむ、さすがはグーコさんですね。早速試してみます。
毛糸の靴下はないですがね。。
2011/10/8(土) 午後 5:04 [ npon0124 ]