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Faraway, So Close!

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今日は無理やりにでも連れて行くよ。どうしてもみせたいものがあるから。

夜の首都高速をとりまくネオンはいつもよりもひっそりと、明るさをおさえて佇んでいる。

東京タワーも、銀座の繁華街も、渋谷の駅も、レインボーブリッジも、みんな静かだ。いつもの華やかさはどこへいったんだろう。

湾岸線に車を走らせ、お台場を通り過ぎたころ、僕は隣にいる人を愛おしく感じた。

華奢な肩をしっかりと抱きしめたいと思った。

僕たちは羽田を左手に見ながら、これまたいつもよりも暗く佇んでいるベイブリッジを駆け抜ける。

ちょっと、急ぎ過ぎたかもしれない。僕はこれ以上何も望んでいないのだから。

車は本牧埠頭の出口をゆっくりと降りてゆく。

いつもは賑やかな元町の商店街や中華街も人はまばらだ。

横浜が一望できる場所へ彼女を連れていき、真っ暗な庭園で見た彼女は、そこにある薔薇と同じくらい美しかった。

ああ、僕はやっぱりこの人が好きなんだなと思った。

午前4時過ぎ。

まだ君を離したくない。

今夜は誰もいない場所で、一緒に歩きたい。

物珍しさで周囲をきょろきょろ見回している彼女を横目に見ながら、僕は彼女を想い続ける。

みなとの風景は、暗くもあったけど、とてもきれいだった。

長い長いレールの続く道を、彼女と一緒に進んで行けたらと思った。

いつかは終わりがくる。

何も進展がないのかもしれない。

それでいいと思っている。

午前2時に彼女を連れ出せるのは僕だけなのだから。






いつもの風景


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いつも同じ風景を求めていた。

そこに行けば、大切な人が待っているから。

お酒はまったく飲めなくて、甘いものが大好きで、夜中にも隠してあったアイスクリームを食べてしまう。

「ああ、僕はこの人が好きなんだな。どうやったらこの人への想いを断てるのかな」

できることなら、どこにいても、彼女にはなるべく素面で会いたいな。

いや、まてよ、素面だと僕は無愛想だし、会話も弾まないから少しくらい酔ってから行ったほうがいいのかな。

そんなくだらないことばかり考えながら、博多駅で新幹線を待っていた。

もう離れたほうがいいな。

そうだ、会えなくなるくらい遠くに越せばいいんだ。海外にでも行こうか。

ワシントンDCかベトナムなら仕事が見つかるかもしれない。そこまで遠くに行けば、会いたくても会えないのだから、もう大丈夫だ。

東京駅までの5時間は、そんなくだらないことばかり考えていた。

週末の夜の列車は空いている。出張帰りの会社員らしき人たちがまばらにいるだけだ。缶ビールを片手に携帯電話をいじっているか、ただ新聞を眺めている。

「お酒飲めないのなら、ちょっと変わったアイスコーヒーを出す店に行こう。元町の商店街にあるんだ」

「うん、ありがとう」

東京に着いてからは、いつの間にか早足になり、いつもの風景を求めていた。

カラオケの唄声が響くなか、ガラガラと扉を開ける。居心地の良い空間が目の前に広がる。

シェイカーの振り方は遠慮がちでぎこちなかったが、とても愛くるしかった。

「私も少しはお酒飲めるようになったのかな・・」

「そう思うよ。甘くて美味しいカクテル作ってよ。リキュールは僕が用意するから」

いつもは1杯しか飲まないカシスウーロンを2杯も飲んでたね。だから、お酒は強くなったと思うよ。

一駅隣の店で、もつ鍋と焼き鳥を食べてるときは最高だったな。

一緒にタクシーに乗っているときから僕は浮かれ気分で、薄暗いカウンターで色んな話ができたらいいなと思ってた。

今夜だけは、彼女を独占したい。

今夜だけは、僕のそばにいて欲しい。

こんな時間はいつまでも続かないんだろうな。そんなことはわかってる。でもそれは僕にとって、貴重な時間と空間だから生涯大切にしよう。

そのうち会えなくなるのはわかってる。でも今だけは、彼女との時間を大切にしたい。

たぶんどこか遠くへ行くと思う。離れたほうがお互いのためだから。

もう朝の電車で寝過ごすこともないだろう。

東京発の乗車券を買った後、ホームにて、彼女のことを想いだすかもな。







眠られぬ夜のために

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初めは遠くから眺めているだけだった。

ただそれでよかった。

だけどそのうち何かが変わり始めた。

「あなたって神経質そうね。部屋のレイアウトとかうるさそう」

「そういう君は正義感が強そうにみえるよ。他人にだけでなく、自分にも厳しそう」

少しずつだが会話が続くようになってきた。

お互いのことがわかるようになってきた。

「ねえ、今晩会えないか?そんなに時間はとらせないから」

「近場ならいいわよ。ちょっと遅くなるけど」

約束の時間になっても女は現れない。

男は一人でバーに入り、適度に冷えたギネスを喉に流し込む。蒸し暑い、東京の熱帯夜には格別の味だ。

「ごめんね、これからそっちに向かうから」

30分ほどしてから女と合流した。

「一つ聞いてもいいかな?」

「いいわよ」

「おひとり、ですか?」

「・・・いいえ」

「そうか、やっぱりそうだよな。。がっかりだけど」

女はクスクスと笑い、屈託のない笑顔をみせる。男があまりにも素直な感想を述べたからだ。

「僕はね、あなたに一目惚れしたんですよ。あまりにも綺麗だから。誰と一緒なのかは知らないけど、本当にがっかりだ」

「なんでそんなにがっかりするの?」

「だってこの先なにも発展がないからさ。不毛な恋愛ほどつらいものはない」

「あら、独りじゃないからといって、チャンスがまったくないとは限らないわよ」

「だめですよ、そんな気をもたせるようなこと言っちゃ。まあ、あなたが独り者じゃないことは、なんとなくわかっていたから大丈夫」

「そうなんだ・・」

「いいんですよ、そんなに気にしなくても。僕はありのままのあなたが好きなんです。一目惚れはしたけど、今のあなたが好きなんです。だから今までどおり接してくれれば、それでいいんです」

男は強がった。見返りを求めない恋愛感情などないのに。

女はそんな男の気持ちをわかっていた。そして、できる限りの優しさで包んだ。

「ねえ、今度私の奢りでカラオケ行かない?二人で一緒になにか歌いましょうよ。私、カラオケ大好きだから」

「うん、そうしよう。じゃあ僕は、お返しに焼き鳥屋に連れてくよ。夜の3時までやっていて味も結構いけるんだよ。君に飲んでもらいたいカクテルもあるんだ」

店を出ると外は雨だった。

「はい、これ」

女は小さなビニール傘を男に差し出すと、足早にタクシー乗り場へと去って行った。

「ほんの僅かでもいい。二人の距離が縮まるのなら」

男はそう言い聞かせ、女が向かったタクシー乗り場へゆっくりと歩いて行った。






From LA to SF, or Vice Versa

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少年は横浜で生まれ、20代の中ごろまで東京で暮らし、それからLAに移った。

東京とはまったく違うLAの気候、文化に最初は戸惑ったが、異文化に触れるたびに新鮮な驚き、喜びを感じ、ここでの生活もまんざらでもないな、と思った。

街を歩いているだけで様々な人に声をかけられる。

「そのシャツいいね!」

「元気かい?」

こんなこと東京で言ったら変人扱いどころか通報されそうだな、と苦笑することもしばしば。

英語は初めからまったくわからなかった。

LAは色々な人種で溢れかえっており、みなそれぞれ独特のアクセントの混じった英語を話す。現地の人もそれを当り前だと思っているから、会話するときもまったく容赦しない。そんなドライな関係に、少年は心地良さを覚えた。

LAでの生活も4年が過ぎた。

中古のフォードを購入した少年は、今まであまり興味のなかったSFという街へ向かった。

LAと違ってなんだか洒落てるというか、洗練された雰囲気が東京やNYとイメージが重なり、少年の関心も薄かった。

車に乗ること8時間。ラスベガスのちょうど倍だ。

最初は周囲の雄大な光景に気分も高揚していたが、それも最初の1時間ほど。延々と続くフリーウェイは危険だ。眠気が襲ってくるか、単純に運転に飽きるかのどっちかだ。

少女は東京で生まれ育ち、10代の後半にSFへと渡った。

パン屋で3年間一生懸命働いて、渡米の資金に全額つぎこんだ。昼も夜も働き、親に内緒で買ったヤマハのバイクも売った。すべてはSFでの新しい生活のためだ。

その新しい生活で、一番困ったのは車の運転だ。

少女は東京で単車は乗りまわしていたが、車の運転の経験はなかった。しかも、SFの地形についてまったく知らなかったので、あの坂道の連続には本当に苦労した。購入した車がマニュアルだったことも。。

英語は初めからまったくわからなかった。

ただ、ホームステイしていたこともあり、すんなりと現地の文化にもとけ込めた。友達もたくさんできた。

3回ほど休憩した後、少年はようやくSFに着いた。

なんなんだ、この都会感は。LAとまったく違うじゃないか。電車もあるし、街にいる人間の服装からして洗練されている。こりゃあ場違いなところに来てしまったな。

そういえば、ユニオンスクエアというところが中心街らしい。中華街はLAにもあるし、まずはそこに行ってみるか。

アメリカのどこにでもあるレストランチェーンの前に出来ている行列を横目に見ながら、ユニオンスクエアの中にあるカフェに入る。

困ったな、この後どこへ行こうか。

仕方がないので、持参してきた小説を読むことにしよう。いい時間潰しにもなるし。

「あの、、私も東野圭吾好きなんです。やっぱり『手紙』が最高ですよね。あと、宮部みゆきもいい作品いっぱいありますよね!」

なんだなんだ、この子は。俺はたまたま友人にもらった本を持って来ただけなのに。それに、どっちの作者の本も読んだことないよ。

「あ、すみません。私、普段は見知らぬ人になんて声かけられないくらい小心者なんですけど、その本を見たら黙っていられなくて」

おいおい、どこが小心者なんだ?しかもいつの間にか俺の目の前に席に移動してるじゃないか。

「もしよろしければ、少しご一緒させていただいてもいいですか?なんだか私たちか気が合いそうですね」

何を言ってるんだ、この子は?もうすでに相席してるくせに。しかも、初対面なのに気が合うとか、小心者どころか随分と肝が据わってるじゃないか。

「SFにはどれくらい住んでるんですか?私は半年くらい。最近はようやく坂道運転にも慣れてきたんだ。あなたも運転するんでしょ?ここはアメリカの、しかも西海岸だもんね」

あーあ、俺の一番苦手なタイプだな、こりゃ。

「俺はLAに4年ほど住んでる。あと半年で帰国するから、その前にここに来ただけだよ。同じ州なのに一度も来たことないしね」

「え、そうなの?実は、私も半年後に帰るんだ。一年間限定の留学なの」

そうかいそうかい、まあ俺には関係ないけどね。

「ねぇ、これもなにかの縁だし日本でまた会わない?あなたは日本のどこに帰るの?」

「東京。だけどまたすぐに外国に行くよ」

「そうなんだ。。どこに行くの?」

「ロンドンだよ。今度は一年間限定だけど」

「じゃあ、ロンドンから帰ったら会えるね!私も東京だし」

おいおい、俺たちはいつからそんなに親しくなったんだ?会ってからまだ30分も経ってないのに。

「そうだね、会えたらいいね」

「ねぇ、あなたお酒飲める?」

「飲めるよ。なんでそんなこと聞くの?」

「私は全然飲めないの。だけどね、焼酎でいろんなお酒を作れるんだ。だから、今度再会したときに何か作ってあげる」

変わった子だなぁ。酒飲めないくせに焼酎で酒作るなんて。しかもなんで焼酎なんだ?

「ああ、お願いするよ。いつになるかわからないけど」

「いつでもいい、約束だよ。そのときは心を込めて作るから」

まあ、悪い子でもなさそうだしいいか。ちゃっかりしてるけど真面目そうだし。

「ありがとう。楽しみにしているよ。じゃあ、そのときはお礼に何かCDでもあげるよ。どのアーティストがいい?」

「なんでもいい。あなたが好きな曲をいっぱい入れて欲しいな。ごめんね、面倒で」

「気にしなくていいよ。俺はいつも暇を持て余してるんでね」

「じゃあ、絶対約束だよ。東京で会うんだからね。今日はもう時間だから帰るね!」

やれやれ、慌ただしい子だな。まあ、イギリスから帰ったら連絡でもしてみるか。久々に焼酎も飲みたいし。
























The Accidental Tourist

そうだわ。誰にもすまないなんて思わない。
幸福って、素直に、ありがたく、腕いっぱいにもらっていいものなのね。

-- 百子

世の中には、星の数ほど人の出会いがあるというが、

これは、そのなかの、ほんのひとつの、些細な話である。


男は毎晩飲み歩いていた。

自暴自棄になっていたのかもしれない。

やりたいことが判らずに、この世には存在しない地図の上を彷徨っているようだった。

次から次へと場所を換え、あらゆる酒を浴びるほど飲んだ。

見栄っ張りのその男は、自分は普通ですよ、という顔をしつつも、

毎日、朝まで飲み歩き続けた。

女は忙しい毎日を送っていた。

家のことから、店のことまで、その仕事は本当に多岐にわたり、

休む間もないほどだった。

一人でジャズバーを経営していたが、酒のまったく飲めない女だった。

唯一飲める酒は、カシスウーロン。それも、カシスの量はかなり控えめだ。

男は、そんなカシスウーロンしか飲めない女が、なぜか気になった。

いつも店を換えながら飲む男が、珍しく1つの店に通い続けた。

女が気になったからだ。

女は、気品があり、 実直で、誠実な人柄だった。

星の数ほど店があるというのに、

男はそのジャズバーに一年間通った。

女に惹かれていたからだ。

言葉は必要なかった。

ただ、女が酒を作る姿をみていればよかった。

そんな二人だったが、

少しずつ会話を重ね、お互いの性格がわかってきた。

男は直情型で、自分の思っていることを憶測もなく相手に言う。

女は堅実で小心者だが、肝っ玉は据わっていた。

いつだったか、男が柄の悪い酔っ払いに絡まれたときなどは、

華奢な体の、細い腕をいっぱいに伸ばして男をかばった。

「殴るなら私を殴りなさい」

男は自分の思いを女に告げ、

女は、自分にはどうすることもできないと言った。

わかりきった返答だったが、男はそれで満足だった。

出逢えただけでも幸福だったからだ。

自分の人生には違ったシナリオもあったはずだ。

それでも女に出逢うことができた。

それだけでありがたかった。

自分は女にいろいろ救われた。

実際、それは事実だった。

男は自暴自棄になるのを止めた。

日ごとに膨らむ女への想いを、

男はそう思うことによって抑え込もうと決めた。

そして、それは苦痛な作業ではなかった。

今まで通り、酒を作る姿を眺めていよう。

願わくば、エピソードの詰まった白い服を着ながら、カクテルを作ってくれ。

願わくば、一人で、ジャズをBGMに、とびっきりのバーボンを作ってくれ。











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