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【国民生活センター】
[2011年9月:公表]
欠陥住宅に対する損害賠償請求と居住したことの損益相殺 本件は、新築建物を購入した消費者が、建て替えを必要とする重大な瑕疵(かし)があると主張して、業者らに損害賠償を求めた事案である。業者は、建て替えまでの間、本件建物に居住していたことが利益に当たるとして、建て替え費用からの控除を主張した。
裁判所は、新築建物に重大な瑕疵があり、建て替えざるを得ない場合など、社会通念上、建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきときには、居住していたという利益について、損害額から控除することはできないとした。(最高裁平成22年6月17日判決)
事案の概要
Y1は、Y2との間で、鉄骨造スレート葺(ぶき)3階建ての居宅(以下「本件建物」)の建築を目的とする請負契約を締結した。
その工事の施工はY2が、その設計および工事監理はY3およびY4が行い、本件建物は平成15年5月14日までに完成した。
Xらは、平成15年3月28日、Y1から、代金3700万円で、持分を各2分の1として本件建物およびその敷地を購入した。
Xらは同年5月31日、本件建物の引渡しを受け、以後これに居住している。
ところが、本件建物には、柱はり接合部に溶接未施工の箇所や、突合(つきあわ)せ溶接(完全溶込(とけこ)み溶接)をすべきであるのに、隅肉(すみにく)溶接ないし部分溶込(とけこ)み溶接になっている箇所があるほか、構造耐力上の安全性にかかわる重大な瑕疵があるため、建て替えざるを得ない状況にある。
そのため、XらがYらに対して、本件建物の建て替えに要する費用相当額等の損害賠償を求めたものである。
第1審判決は、取壊費用約228万円、新築費用2184万円、工事期間中の仮住まい費用120万円等、総額3128万9430円の賠償を認めたが、建物に5年4カ月余り居住し、使用について目立った障害もなく居住の利益を得ていたとして、その利益分を金銭に評価して賠償額から減額(損益相殺)をした。
これに対して、控訴審判決は、損益相殺を否定して、第1審判決主文金額のほか、1審口頭弁論終結の日までの遅延損害金の支払いを追加して命じた。
そうしたところ、Yらが上告し、Xらがこれまで本件建物に居住していたという利益や、本件建物を建て替えて耐用年数が伸長した新築建物を取得するという利益は、損益相殺の対象として、建て替え費用相当額の損害額から控除すべきであると主張した。
最高裁は、以下の「理由」のように述べて損益相殺を否定し、Yらの上告を棄却した。
理由1 法廷意見(1)一般論 売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵があり、これを建て替えざるを得ない場合において、当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど、社会通念上、建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには、上記建物の買主がこれに居住していたという利益については、当該買主からの工事施工者等に対する建て替え費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として、損害額から控除することはできないと解するのが相当である。
(2)事例への当てはめ(a)居住利益
本件建物には構造耐力上の安全性にかかわる重大な瑕疵があるというのであるから、倒壊する具体的なおそれがあるというべきであって、社会通念上、本件建物は社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであることは明らかである。 そうすると、Xらがこれまで本件建物に居住していたという利益については、損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできない。
(b)耐用年数が伸びた点
Xらが、社会経済的な価値を有しない本件建物を建て替えることによって、当初から瑕疵のない建物の引き渡しを受けていた場合に比べて結果的に耐用年数の伸長した新築建物を取得することになったとしても、これを利益とみることはできず、そのことを理由に損益相殺ないし損益相殺的な調整をすべきものと解することはできない。 2 補足意見 建物の瑕疵は容易に発見できないことが多く、また瑕疵の内容を特定するには時間を要する。賠償を求めても売主等が争って応じない場合も多い。通常は、その間においても、買主は、経済的理由等から安全性を欠いた建物であってもやむなく居住し続ける。
そのような場合に、居住していることを利益と考え、あるいは売主等からの賠償金により建物を建て替えると、耐用年数が伸長した新築建物を取得することになるとして、そのことを利益と考え、損益相殺ないし損益相殺的な調整を行うとすると、賠償が遅れれば遅れるほど賠償額は少なくなることになる。これは、誠意なき売主等を利するという事態を招き、公平ではない。。
解説1 不法行為責任による点について 住宅の欠陥により拡大損害(生命、身体、財産の侵害)が買主や通行人等の第三者に生じた場合には、欠陥について過失のある者に対し、不法行為責任を追及できるのは当然である。
しかし、欠陥の修理や建て替えの費用についての損害賠償は、履行利益や実質的に契約解除にかかわる契約法の規律を受けるべき損害領域であり、第三者にはかかわらず、買主にのみ発生するものであり、瑕疵担保責任ではなく不法行為責任によって賠償請求できたのでは、契約法の規律が無に帰してしまう。
そのため、最高裁平成19年7月6日判決*(契約関係にない施工会社等(請負人)と買主間)は、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には、不法行為責任が成立する」として、不法行為の成立する領域を限定しており、本事例は建て替えを余儀なくされる事例であり、その要件を満たす事例であるといえる。
なお、財産的損害ではあるが、夢のマイホームが悪夢になってしまった精神的打撃は計り知れず、慰謝料請求も認められてよい。また、住宅ローンを組んだことによる損害についても相当因果関係が認められ、その金利等についても賠償請求が認められてよい。
2 損益相殺について(1)解除がされると 上記の不法行為責任による場合か、瑕疵担保責任による場合かを問わず、建替費用を損害として賠償請求するとき、契約解除をしない限り代金債務はなくならないので、代金債務を免れたことを損益相殺する必要はなく、建替費用全額を賠償請求できる。また、他方、契約解除をした場合には、支払代金の返還は売主にしか返還請求できないが、解除をしない場合には、建替費用を契約関係にない関連責任者に対しても賠償請求ができるという利点が認められる。
ただし、解除をしても、買主が売主に対して代金返還請求権があっても損害が当然に否定されるものではなく、買主は建替費用全額について施工業者に損害賠償の請求ができると考える余地はある。
なお、民法635条ただし書を制限解釈し、注文者による契約解除を認めたとしても、不法行為における損益相殺の処理とのバランスからは、使用利益の返還義務は否定されるべきであろう。
(2)居住利益など 本事例で問題になったのは、実際に建て替えがされるまで、欠陥があるとはいえ建物に居住し得たのであるから、不完全ながら履行利益を享受しており、この点を損益相殺すべきか、また、建て替えにより新しい建物に置き換わったため、契約時から起算するとより長く使用を享受し得ることになり、この点を損益相殺すべきか、という点である。
下級審判決はこの点について判断が分かれていた。本判決はこの点について、最高裁により判例の統一を図ったものであり(損益相殺を否定することに)、一般論として述べているので、今後は本判決を同様の事例に当てはめることになる。
参考判例 居住利益について損益相殺が争われた事案
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