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見上げると、そこには夕焼けを映した空が、ある。 見下ろすと、街を覆う家々の屋根と、道路を行き交う小さな車、灰色のアスファルト。 私の世界は、突然、 180度、転換した。 二つ並んだローファーの隙間には、空が広がっている。 頭の下には、いつも歩いている校庭がある。 ここは、私の通っている高校の屋上。 フェンスに手を伸ばすけれど、もう、届きそうもない。 春の、ほんの少しだけ、土混じりの匂いを乗せた風が、頬をなでていく。 制服のミニスカートが、ひらりと風に舞った。 そう、私は、校舎の屋上から、まっさかさまに落ちたんだ。 こんなとき、よく、生まれてから今までの光景がまるで走馬灯のように・・・とかなんとか言うけれど。 私にそんな余裕はないみたい。 だって、どうしても今朝からのことしか、思い出せない。 だいたい、いつもテストの点数が悪い私のことだから、そんな先のことまで思い出せなかったんだろう。 今日、ここで死んでしまうなら、帰ってから食べようと思って残してたケーキ、食べとくんだった。 地面に落ちてしまうまで、どうやら、もう少しだけ時間があるみたいだから、 私の心の走馬灯を、見てもらうことにしようかな。 といっても、さっきも言ったとおり、今朝からのことしか思い出せないんだけれど。 振り返ってみると、今日は、朝からとてもおかしな一日だった。 学校の屋上から、まっさかさまに落ちている、今から、そう、9時間前。 午前7時。 朝から嫌な夢を見た。 ・・・殺される夢だ。 剣のようなもので斬りつけられて、私は、あっけなく死んでしまった。 薄れていく視界の中で、最後に見たのは、自分を殺した人間だった。 とてもリアルな夢で、私は、ベッドから起きたとき、夢と現実の区別がつかなくて、軽いパニックを起こした。 夢を見ながら泣いていたのだろう、涙が、頬を一筋、伝っていた。 なぜ、泣いていたのかは、分からない。 怖いような、不思議と懐かしいような、一言で言えないようなおかしな感覚が、痺れるように残っていた。 そんな私を、慌しい現実の世界に一気に引き戻したのは、近所でも名物化しつつある、父親の怒鳴り声だった。 「ケイト!!新学期早々、遅刻してーのか!!」 不思議な夢について考えている暇もなく、私は、慌ててベッドの脇に置いている携帯のディスプレイの時刻を見る。 「・・・ヤバイ・・・」 肩まで伸びた髪に寝癖をつけたまま、私は部屋を飛び出した。 うちは、『篠崎手芸店』という店を経営している。 東京都郊外にある、古い商店街の一角に、小さな店を出している。 手芸店を営んでいるのは、さっきの怒鳴り声の持ち主で、熊のように大きな体をしている、私の父親だ。 店の制服とでも言うべきか、可愛らしいウサギのアップリケがついた黄色のエプロンを太い首からかけている。 小さな子供が見たら、途端に引きつけを起こしてしまいそうな恐ろしい顔と、豪快な性格の持ち主である。 しかし、見かけによらず手先は器用で、洋裁、和裁、編み物と何でもこなす。 私は、篠崎ケイト。17歳。 私の名前は、毛糸のケイト。 私に、弟か妹ができていたら、名前はウールかカシミアか、多分、そんなところだろう。 幸か不幸か、私は一人っ子。 毛糸だけで被害がすんで良かったと、心から思ってる。 高校の制服の、濃いブルーのスカートをウエストでとめて、グレーの大き目のニットを着る。 最後に、襟元に細い深紅のリボンを、キュット結んだ。 「ケイト!お弁当!」 店から出ようとする私を呼び止める、お母さん。 商品が溢れかえる狭い通路を、体を横にしながら進んでくる。 「夕方、雨が降るみたいだから、傘もって行きなさい!」 私は、空を見上げる。 店先に立つ私の体を包み込むように、雲ひとつない、晴天が広がっている。 朝の薄水色の空に、庭に植えている桜の花びらが、風に乗って飛んでいるのが見えた。 「気をつけていくのよ!」 「うん、行ってきます!」 私は、お弁当と傘を受け取ると、走り出す。 お母さん、気をつけたんだけど、ごめんね。 ケイトは今、まっさかさまに、学校の屋上から落下中なの。 そうそう、いまはもう夕方だけど、結局雨は、降らなかったよ。 見とれてしまいそうなほどにキレイな夕焼け空が、いま、私を包み込んでいるから。 −つづく− |
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見事な導入部に、正直、驚いてます…!
ケイトがこれからどうなるのか…
これは次が気になる!
2008/3/26(水) 午後 10:30
おお、一人称ですね!のっけから緊迫?してますが、続きが気になります!しかし幅広く違うタイプの文章を書きこなすのはさすがですね☆
ちなみにケイトちゃんに妹がいたら、木綿子(ゆうこ)でどうでしょう?(笑)
2008/3/26(水) 午後 10:52
ぐまさん、ありがとうございます!
何度も書き直して苦労したので、そう言ってもらえると本当に嬉しいです。
ケイトはまだ落下中です(笑)また続きもお付き合いくださいw
2008/3/26(水) 午後 11:42
有栖川さん、ありがとうございます!
そうなんですよ、今回は一人称に挑戦です!
普通の高校生のケイトの視点で物語を進めたかったのでw
ああ、木綿子(ゆうこ)って読むんですか!さすが有栖川さん。
でも、ケイトのお父さん、そんなに知識が豊富なタイプには見えないので、たぶん無理だと・・・(笑)
2008/3/26(水) 午後 11:48
うわ〜!さすがゆるりさん、めっちゃおもしろいです!!
先が気になるし、お父さん素敵(笑)これから出てくるキャラクターもきっと個性豊かで楽しそう!!
私のキャラは最近個性が偏ってきているので・・・。いろいろと勉強になります!!
あと・・・またあとで「恋の伝道師」に頼みごとしにきますね♪
2008/3/27(木) 午前 6:42
衝撃的なオープニングですね!落下中からはじまるヒロインとは。
予告編にあるような冒険に、どう繋がっていくのか、とても楽しみにしています☆
2008/3/27(木) 午後 2:12 [ つばき ]
『恋の雪』が途中ですが、こっちも並行して読ませてもらいます!
いや、いきなり屋上から真っ逆さまなんて衝撃的なオープニングですね。
そして
「ケイトは今、まっさかさまに、学校の屋上から落下中なの」
が笑撃的^−^
きっと、毛糸だけに、落下スピードが遅いだろうから、いろいろ思い出すんだろうな(笑)
2008/3/27(木) 午後 5:43 [ - ]
めろんさん、ありがとうございます!
面白いって言ってもらえて嬉しいです〜♪♪いえいえ、勉強なんてとんでもないですよ。
「恋の伝道師」(笑)エンタの紹介みたいで結構気に入ってますw
はい、どうぞお気軽に♪♪
2008/3/27(木) 午後 8:31
つばきさん、ありがとうございます!
この落下が、実はすでに、冒険の始まり(?)に繋がってますw
ただ、もう少し回想が続きますので、続きもよろしくお願いします!!
2008/3/27(木) 午後 8:33
ねおさん、こちらも読んでくれてありがとうございます!
あはは、笑撃的に読んでもらって嬉しいですw
うん、毛糸だけに落ちるのが遅いですよ。今週いっぱいは落ちてますから(笑)
2008/3/27(木) 午後 8:34
うわー、これはこれは、なんかのっけからすごい展開ですね〜。先が気になる気になる。
あ、妹か弟、「ボタン」なんてどうでしょう?
「イト」とか。
2008/3/27(木) 午後 8:40
佐奈さん、ありがとうございます!
あ、ボタンっていいですね!実は、腹違いの弟が・・・なんて(笑)
2008/3/27(木) 午後 10:33
う〜ん。すごいなあ。わくわくします。
副題が意味深「星が抱きしめてくれるから」……星て、誰だ?
2008/3/28(金) 午後 2:50
Muさん、ありがとうございます!
副題は、また新たな自分ルールを用いています。
第一話の最後まで、どうぞお楽しみにw
2008/3/29(土) 午前 2:30
わっ!新しいお話が始まってる!!!
また楽しみが増えました♪♪
しかも、まだ1話目なのにおもしろいです(^∀^)
続き続き・・・・・
2008/4/1(火) 午前 0:03
ちゃおりさん、ありがとうございます!
今回もなが〜いお話になりそうです(汗)
またお付き合いくださいね、よろしくです!!
2008/4/1(火) 午後 10:30
すっ・・・すごいっ・・・!!
もの凄く人をひきつける文章・・・すごいです!!
面白かったです!!
傑作vv
2008/5/10(土) 午後 10:51
悠夜さん、ありがとうございます!
面白いと言っていただけるなんて、嬉しいですw
文章は拙いばかりなんですが、また読んでやってくださいね。
2008/5/11(日) 午後 6:17
はじめまして。読ましてもらったけど表現がおもしろい。
かなり楽しんで読ましてもらいました。
続き、楽しみにしてます!
2008/8/12(火) 午後 5:07 [ SEBASUちゃん ]
HAPPYさん、初めまして!読んでくれてありがとうございます!
嬉しいコメントをありがとうございますw
ぜひ、続きもよろしくお願いします!
2008/8/12(火) 午後 11:57