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深海魚のゾーグ5
七色の魚が消えたほうをしばらくボ〜〜〜ッと見ていると、ゆらりと海水が揺れた。そして白っぽい鯨が現れた。自分よりかは小さいが、今まで見たなかでは文句なしに一番大きな生き物だ。
そいつはキョロキョロと辺りを見回して、小さな声で呼んでいる。
「ローラ?ローラかい?」
・・・こんなのがいるのか・・・
ゾーグはクジラをマジマジと見た。
「お前、でかいな。」
その声に気づいたそのクジラはゾーグを見て仰天した。
「うっわぁぁぁぁあああ〜〜〜〜〜」
その体躯に似合わぬ間の抜けた叫びに拍子抜けだ。
「なんだよお前、頼りねぇなぁ。」
「え、あ、あなた誰ですか?」
「ゾーグだよ。深海の者だ。」
「はぁ〜、ゾーグさん・・・海の深みにはあなたのようなすごい魚がいらっしゃるんですね〜」
白いクジラの感嘆の言葉にゾーグはいい気分だ。
「げっげっげっ!そんでお前の名前はなんなんだ?」
「あ、僕、シロナガスのプッチーです!」
「プッチー?えらく可愛い名前じゃねぇか。」
「昔は群れで一番小さかったから・・・」
・・・しかしこの大きさだ。今では一番の体格だろう。
最初こそ驚いたものの、プッチーはもうゾーグに慣れて怯えた様子もなく、丁寧に接している。
鯨と言えばマッコウクジラのサンダーしか知らなかったが、同じ鯨族でもこんなに紳士的なのもいるんだなぁ・・・ ひとしきり話した後、プッチーはニコニコと友好的な仕草で何度も何度も振り返りながら去っていった。
そのとき、ふと垣間見えたわき腹にはザックリと皮膚が裂けた古傷の痕が残っていた。それは岩や岩礁でついたものではない。ハッキリと刻まれた巨大な牙の痕だった。
命をかけた、よほどの闘いをしたのだろう。
でも、プッチーはサンダーのようにそれを自慢気に吹聴したりはしない。柔らかい物腰で、決して自分の強さを誇示しようとはしない。その姿勢にはある種の美学すら漂っている。プッチー、アイツは腑抜けなんかじゃい・・・。ゾーグはポツリとつぶやいて、プッチーを見送った。ゾーグもここまで育つ前には、何度も修羅場を越えてきた。その一つ一つがグッと胸に込み上げてきて、ゾーグはちょっぴりボ〜っとした。
ハッと気づけばもぅ夕方。夕日が海を真紅に染めて、いやがおうにも湧き上がる感慨がある。オレは深海で暮らしてきた。稚魚の頃からたった一人で。強者からは逃れ、弱者は呑み込み血肉とした。ここまで育ってしまえば常に喰らう側に立っているが、ここまで来るのは決して決して楽じゃなかった・・・ハァ・・・
ゾーグは思い出にひたりながら水面付近をぐるりぐるりと回転しながら進む。別に深い意味はない。要するに機嫌がいいのだ。
太陽はだんだんと水平線に呑みこまれていった
おや???ゾーグが楽しく泳いでいると、急に鳥の群れがすぐ頭上を急いで飛びすぎていった。・・・こいつはおかしい・・・この飛び方ときたら・・・小魚のやつらがサメから逃げるような・・・なんだってんだ???
小鳥が飛んできた方角を見て、ゾーグは我が目を疑った。なんだありゃあ・・・オレよりバカデカイのが空に浮かんでトグロを巻いてる。
それは真っ黒に渦巻くハリケーンだった。アッと言う間にそれは頭上にまで訪れ、ゾーグはものすごい嵐のド真ん中。
ななな、なんじゃこりゃあ!!!
さっきまでゆうらゆうらと揺らいでいた穏やかな波は荒れ狂い、ゾーグでさえも進路を維持するのがままならないほどだ。
海底でも地震はあるし、海流がいつもより速かったりすることはある。 しかし、こんなめちゃくちゃのしっちゃかめっちゃかな海は初めてだ・・・
こりゃタマラン!!!
ゾーグは必死で海底目指して泳いで泳いで泳ぎまくった。
自分の生息地よりも遥かに浅いが、辿り着いた海底で流されないよう岩場に寄り添って上を見上げると、海面付近でものすごい閃光が走った。
流れに逆らえず、その辺りにいた魚はじゅ!と音を立てて黒くなってしまった。
・・・それからゾーグは長い間動かないでジッとしていた・・・
嵐が去っても一週間ほど動かずにいた。深海とは比べようがないほど食べ物も豊富なので動くのが勿体ないというのもあったが、やはり初めて嵐に出会ってチョッピリ衝撃を受けたのだ。
自分が知らないことがまだまだある・・・ゾーグはこの旅で稚魚だった頃の新鮮な感情がふつふつと沸いてくるのを黒い鱗の奥にある鼓動で感じた。
そしてまたゆっくりと海面へ向かって泳ぎ始めた。
ちゃぷん!と顔を出すと海はすっかり穏やかになり、優しい腕を広げるようにゾーグを迎えた。
「ふぅ。」
安心の溜息をついてゾーグは思った。
・・・深海を離れて、もぅずいぶんと経った気がする・・・
と、いってもせいぜい3週間くらいなのだが、ゾーグは水面の世界に触れて、何だか心がザワザワと躍るのを思い出した。
この色彩豊かでキラキラと輝く海は本当にキレイで、とてもあったかい。 同じ海で、こんなに違うものかと驚くほど自分の住む世界とは違う。 そしてその同じ海の荒々しい姿・・・。 見たことが無い落雷の凄まじい閃光・・・。 何もかもが目を見張るような畏怖と神秘と衝撃の連続だった。
・・・水面ってのはすげぇなぁ・・・
大満足のゾーグは海面に飛び散る陽光が鱗に弾けてキラキラと遊ぶのを名残惜しげに眺めてから、ザブン!と潜って深海に帰っていった。
陸の上ではこれから人間達が何十年もの間、この超巨大魚の存在の有無について議論することになる。
「いや、科学的に考えて、そんなに大きい魚などいない。」
「みんな一緒に見たんだからどこかにいるはずだ!」
「集団ヒステリーの幻覚という考え方もある。」
「いや、実はどこかの国が軍事目的で造り上げた精巧なロボットで・・・」
「いやいやあれはロボットなんかじゃない。遺伝子操作した生物兵器で・・・」
などなど、目の当たりにした人から、あらゆる方面の専門家まで出てきて大騒ぎだ。
しかし、住み慣れた深海に戻って静かに楽しく暮らしているゾーグには、そんなこと関係なかった・・・。
(完)
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。
言い尽くせない...



