霊子の部屋

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深海魚のゾーグ5


 七色の魚が消えたほうをしばらくボ〜〜〜ッと見ていると、ゆらりと海水が揺れた。そして白っぽい鯨が現れた。自分よりかは小さいが、今まで見たなかでは文句なしに一番大きな生き物だ。

そいつはキョロキョロと辺りを見回して、小さな声で呼んでいる。


「ローラ?ローラかい?」


・・・こんなのがいるのか・・・

ゾーグはクジラをマジマジと見た。


「お前、でかいな。」


その声に気づいたそのクジラはゾーグを見て仰天した。


「うっわぁぁぁぁあああ〜〜〜〜〜」


その体躯に似合わぬ間の抜けた叫びに拍子抜けだ。


「なんだよお前、頼りねぇなぁ。」


「え、あ、あなた誰ですか?」


「ゾーグだよ。深海の者だ。」


「はぁ〜、ゾーグさん・・・海の深みにはあなたのようなすごい魚がいらっしゃるんですね〜」


白いクジラの感嘆の言葉にゾーグはいい気分だ。


「げっげっげっ!そんでお前の名前はなんなんだ?」


「あ、僕、シロナガスのプッチーです!」


「プッチー?えらく可愛い名前じゃねぇか。」


「昔は群れで一番小さかったから・・・」


・・・しかしこの大きさだ。今では一番の体格だろう。


 最初こそ驚いたものの、プッチーはもうゾーグに慣れて怯えた様子もなく、丁寧に接している。

鯨と言えばマッコウクジラのサンダーしか知らなかったが、同じ鯨族でもこんなに紳士的なのもいるんだなぁ・・・

ひとしきり話した後、プッチーはニコニコと友好的な仕草で何度も何度も振り返りながら去っていった。


そのとき、ふと垣間見えたわき腹にはザックリと皮膚が裂けた古傷の痕が残っていた。それは岩や岩礁でついたものではない。ハッキリと刻まれた巨大な牙の痕だった。


命をかけた、よほどの闘いをしたのだろう。


 でも、プッチーはサンダーのようにそれを自慢気に吹聴したりはしない。柔らかい物腰で、決して自分の強さを誇示しようとはしない。その姿勢にはある種の美学すら漂っている。プッチー、アイツは腑抜けなんかじゃい・・・。ゾーグはポツリとつぶやいて、プッチーを見送った。ゾーグもここまで育つ前には、何度も修羅場を越えてきた。その一つ一つがグッと胸に込み上げてきて、ゾーグはちょっぴりボ〜っとした。


  ハッと気づけばもぅ夕方。夕日が海を真紅に染めて、いやがおうにも湧き上がる感慨がある。オレは深海で暮らしてきた。稚魚の頃からたった一人で。強者からは逃れ、弱者は呑み込み血肉とした。ここまで育ってしまえば常に喰らう側に立っているが、ここまで来るのは決して決して楽じゃなかった・・・ハァ・・・


 ゾーグは思い出にひたりながら水面付近をぐるりぐるりと回転しながら進む。別に深い意味はない。要するに機嫌がいいのだ。

太陽はだんだんと水平線に呑みこまれていった


  おや???ゾーグが楽しく泳いでいると、急に鳥の群れがすぐ頭上を急いで飛びすぎていった。・・・こいつはおかしい・・・この飛び方ときたら・・・小魚のやつらがサメから逃げるような・・・なんだってんだ???


小鳥が飛んできた方角を見て、ゾーグは我が目を疑った。なんだありゃあ・・・オレよりバカデカイのが空に浮かんでトグロを巻いてる。


それは真っ黒に渦巻くハリケーンだった。アッと言う間にそれは頭上にまで訪れ、ゾーグはものすごい嵐のド真ん中。


ななな、なんじゃこりゃあ!!!


 さっきまでゆうらゆうらと揺らいでいた穏やかな波は荒れ狂い、ゾーグでさえも進路を維持するのがままならないほどだ。

海底でも地震はあるし、海流がいつもより速かったりすることはある。

しかし、こんなめちゃくちゃのしっちゃかめっちゃかな海は初めてだ・・・


こりゃタマラン!!!


ゾーグは必死で海底目指して泳いで泳いで泳ぎまくった。


自分の生息地よりも遥かに浅いが、辿り着いた海底で流されないよう岩場に寄り添って上を見上げると、海面付近でものすごい閃光が走った。

流れに逆らえず、その辺りにいた魚はじゅ!と音を立てて黒くなってしまった。


 ・・・それからゾーグは長い間動かないでジッとしていた・・・


 嵐が去っても一週間ほど動かずにいた。深海とは比べようがないほど食べ物も豊富なので動くのが勿体ないというのもあったが、やはり初めて嵐に出会ってチョッピリ衝撃を受けたのだ。


自分が知らないことがまだまだある・・・ゾーグはこの旅で稚魚だった頃の新鮮な感情がふつふつと沸いてくるのを黒い鱗の奥にある鼓動で感じた。


そしてまたゆっくりと海面へ向かって泳ぎ始めた。


 ちゃぷん!と顔を出すと海はすっかり穏やかになり、優しい腕を広げるようにゾーグを迎えた。


「ふぅ。」


安心の溜息をついてゾーグは思った。


・・・深海を離れて、もぅずいぶんと経った気がする・・・


と、いってもせいぜい3週間くらいなのだが、ゾーグは水面の世界に触れて、何だか心がザワザワと躍るのを思い出した。

この色彩豊かでキラキラと輝く海は本当にキレイで、とてもあったかい。

同じ海で、こんなに違うものかと驚くほど自分の住む世界とは違う。

そしてその同じ海の荒々しい姿・・・。

見たことが無い落雷の凄まじい閃光・・・。

何もかもが目を見張るような畏怖と神秘と衝撃の連続だった。


・・・水面ってのはすげぇなぁ・・・


大満足のゾーグは海面に飛び散る陽光が鱗に弾けてキラキラと遊ぶのを名残惜しげに眺めてから、ザブン!と潜って深海に帰っていった。


  陸の上ではこれから人間達が何十年もの間、この超巨大魚の存在の有無について議論することになる。


「いや、科学的に考えて、そんなに大きい魚などいない。」


「みんな一緒に見たんだからどこかにいるはずだ!」


「集団ヒステリーの幻覚という考え方もある。」


「いや、実はどこかの国が軍事目的で造り上げた精巧なロボットで・・・」

「いやいやあれはロボットなんかじゃない。遺伝子操作した生物兵器で・・・」


などなど、目の当たりにした人から、あらゆる方面の専門家まで出てきて大騒ぎだ。

 

 しかし、住み慣れた深海に戻って静かに楽しく暮らしているゾーグには、そんなこと関係なかった・・・。




(完)
 


深海魚のゾーグ4

深海魚のゾーグ4

こりゃ・・・いいなぁ・・・あったかくって気持ちよくって・・・いやぁ・・・いいもんだ・・・
 

  そんな観光客気分でゆらゆらりと泳ぐうちにゾーグは大きな陸をみつけた。そこは地中海のとある海岸で、リゾートに浮かれた人々が色とりどりの水着を着て楽しそうに遊んでいる。透き通った海と白い砂浜。そこで浜をかけまわったり、ちょっと潜って貝殻を拾ったり・・・人間を知らないゾーグは水着姿の人間を見て、てっきり海の外を歩き回る熱帯魚だと思い込んでしまった。こりゃぁ、変わった魚がいるもんだなぁ・・・遠出もしてみるもんだなぁ・・・水面からぽっかり顔を出して感心するゾーグ。

ハッと気づけば自分のすぐ下に海底が迫ってきている。そして海水のなんとあったかいこと!体中がほっかほかのぽっかぽかだ。
あぁ・・・いい気持ちだなぁ・・・
 

  一方、陸地の人間たちは口々に言い合った。

「?なんだ、あの黒いのは?」
「・・・ホントだ。あんな島あったっけ?」
「昨日までは気づかなかったなぁ・・・」
「昼食前には無かったような・・・」
そんなやりとりは次第に膨れ上がってゆき、やがて浜辺の監視員の元へも届いた。
「なぁ、監視員さん、あれなんだい?」
サーフボードを抱えた若者がちょっと不安げに尋ねる。
自分は海岸付近ばかりを監視していたが、確かに1キロ沖あたりに黒いものがある。
「?なんだろうな・・・新しい島?しかし地形が変わるような大地震も無いし・・・」
この辺りで25年間保安官として働き、シーズンになると浜辺の監視員も勤めてきたベテラン保安官のダニエルは首をかしげながら双眼鏡をのぞいた。
しかしまだ少し距離が遠くてよくは見えない。その大きさからして生物というのはありえない。

  いまや、陸地では双眼鏡を覗くダニエルの周りに皆が殺到して黒山の人だかりになっている。

「あの黒いものは何なんだ!?」
「あんな島が地震もないのにいきなり出来るもんなのか!?」
「いや、移動する幻の島じゃないか?」
皆、不安や期待いっぱいで固唾を呑んでダニエルの答えを待っている。
しかしまぁ、そんなことは当のゾーグには関係ない。
風が向くまま気の向くまま、のんびりプカプカ浮かんでいる。
おや?何だか体がムズムズするなぁ〜・・・
ゾーグは水面でコロン!と回転した。
 

 その瞬間、ダニエルは常夏の赤道直下で凍りついた。

それに気づいた人々は、ダニエルを揺さぶって口々に聞いた。
「おい!どうした?何を見たんだ!?」
「なんだ?ありゃあ一体、なんなんだよ!?」
顔面蒼白のダニエルは何度も舌を噛み、ガクガク震えながら言った。
「さ・・・魚・・・魚だ・・・」
そのかすれた声を聞いた人間は一人残らずパニックに陥った。
浅瀬にいる子供はすぐ砂浜に引っ張り戻され、ここ何年も使われなかったサメ襲来の警報機がけたたましく鳴り響いた。
ボートや水上スキーに興じていた若者も何事かと慌てふためき、砂浜はサイレンと絶叫で大騒ぎだ。
 

  そのとき、砂浜にはもう一つの魚影が近づいていた。

サメだ。こちらは海流の乱れで辿り着いた大型ザメ・・・と言っても6Mぐらいだが、その約25匹の群れである。お腹が空いて、もぅ、食べられるなら何でもいいと思いつめたこの群れは人間たちの声を聞きつけてフラフラとやってきたのだ。
ゾーグに気を取られていた人間はまだサメには気づかない。
しかしゾーグは気がついた。
腹時計を確かめると、そろそろおやつの時間らしい。
ゾーグはいったん、深く潜り。全身の力を尾びれにまわして一直線にサメの群れに突進していった。
消えたゾーグにざわつきながらも人間がホッとしかけたその瞬間、

ぞぞぞぞがが〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!

ものすごい轟音とともに目の前の海が裂け、巨大なゾーグがサメの群れのど真ん中に突っ込んだ!
何匹ものサメが跳ね飛ばされて宙を舞う。
そのうちの3匹ほどはゾーグの口にキャッチされたが、あとはクモの子を散らすように逃げ去った。
一瞬の出来事の後、砂浜には水しぶきがスコールとなってざざざ〜〜〜ん!と降り注いだ。
「サメが・・・魚が・・・サメが・・・」
「なんだ・・・ありゃあ・・・・・・・・」
あまりの信じられない光景に静まり返る砂浜。老若男女を問わず、何人かがそのまま気絶した。
 警察や軍隊に連絡する者もいるが、現地にいた者の多くは気絶するか放心状態だし、通報する人間もパニックで、出動するのには大いに手間取っている。
 

  それはそうとして、ゾーグにとって、ご飯にするには人間は小さすぎる。

それは我々にとって、とてもラッキーなことだ。
小腹が満たされたゾーグはまたプカン!と顔を出して人間たちをジッと見た。
そして思った。
・・・やっぱり変わった生き物だなぁ〜・・・
水に入ったり、陸に上がったり・・・不思議だなぁ〜・・・と。
この陸地スレスレ、自分の体ギリギリの浅瀬でゾーグはとても荘厳な気持ちになった。
・・・やっぱり浅瀬から来たアイツの言う通り、浅瀬は色彩が溢れ、まぶしくて綺麗であったかい・・・そんな思いもよらない世界だったんだ・・・
この、ある日突然の思いつきで始まった浅瀬の旅は、深海しか知らない自分をちょっぴり変えたような気がする。
それはこの恐ろしい水圧にも耐える強靭な体にポカポカと降り注ぐ陽の光のように穏やかで、仄かな仄かなもんなんだろうけど・・・
 

  感慨に浸っていると、スゥ〜〜〜・・・っと七色に輝く魚が目の前をかすめていった。

それは天上にひらめくオーロラをまとったような、虹の光を集めたような、それすらかなわないような、そんなウロコとヒレを持った幻のような魚である。
珍しいものが大好きなゾーグは思わず見とれて話しかけた。
「よぉ、お前、キレイだなぁ〜」
その魚はチラッとゾーグを見たが、別に怖がる様子も無い。
・・・このオレを見てこの落ち着きようは、はは〜ん、毒でも持ってるんだな・・・
ゾーグはそう解釈した。まぁ。どうせ今はお腹も空いていないし、こんな魚は食べたくない。面白そうなので、さらに話しかける。
「なぁなぁ、どこ行くんだい?お前さん、この辺に住んでるのか?」
またその魚はチラリとゾーグを見るが、返事を返す様子もない。マイペースでスゥゥゥ〜っと泳いでいく。
でもゾーグはこんなキラキラした魚に出会えたのが嬉しくて、どんどんどんどんついて行く。ゾーグからすれば、ほんの小さな魚だが、ふわりゆらゆら泳ぐ割にはやたらと速い。ゾーグがちょっと油断すると、見失ってしまいそうだ。
ゾーグは泳ぐスピードにも自信があるが、この魚が本気を出したら追いつけないんじゃないかと思うくらいだ。
・・・一体どうなってんだ、こりゃあ・・・
・・・見た所、こんなに速く泳げるようにゃ思えないんだがなぁ・・・
ますます面白くなって、ゾーグは七色の魚を追いかける。
 

  そのころ、砂浜ではやっと到着した機動隊が沖に向かって一斉射撃を始めていた。

しかし七色の魚に夢中のゾーグには、そんなこと関係なかった。
 

 「おい、あんた、回遊魚か?こんな沖に来ていいのかい?」

ゾーグはいかにも浅瀬のサンゴ礁が似合う七色のこんな魚が、海流が複雑に入り組む沖を悠々と泳ぐのがちょっぴり不思議な気がした。
「私は・・・どこにいても大丈夫なの・・・」
初めて七色の魚は控えめな素振りで答えた。
「ふ〜ん。」
こんなにも眩しく輝く体を持ちながら、その魚の存在は儚く脆く、それはあたかも光を放つ影の如くだ。
ゾーグはなんとなくそれ以上聞けなくなった。
でもやっぱり面白いので、七色の魚についていく。七色の魚もそれを特に嫌がる様子もない。真っ黒な巨体と七色の影が真っ青な海を進んでゆく・・・
 

 ・・・もぅ随分と沖に出てきた。七色の魚のおかげでかなりのハイペースで泳ぎ続けていたから。でもまぁいい。浅瀬は十分堪能したし、とても楽しいものだった。満喫したゾーグは、そろそろ深海にもどろうかな〜・・・と思い始めた。

そう思って七色の魚をチラリと見ると、目が合った。ずっとしっぽを追いかけていたので、ゾーグは面食らった。
「ななな、なんだよ、おどかすなよ。」
「ふふふ。またね・・・」
そう言うと、七色の魚はヒレを返して一瞬で見えなくなった。
「な、なんだぁ???」
なんというスピード。それはまるでフッと消えたように見えるほどの速さだった。
・・・すごいヤツがいるもんだ・・・
ゾーグはまたもや心底感心して、やっぱり来てよかったなぁ・・・と思った。



(5へ続く)

深海魚のゾーグ3

深海魚のゾーグ3


 ゾーグはゴキゲンで浅瀬を目指す。


陽光は気持ちがいいし、ここいらの生き物の色と言ったら!


なんてキレイなんだろう・・・


体は軽いしポカポカしてるし・・・あぁ・・・水面ってぇのはいい・・・


 ゾーグは青い空の色を映して紺碧に輝く海面をユラリユラリと泳いでく。


そうしているうちに、だんだんと日が暮れてきた。


いままで燦燦と光り輝いていた太陽が俄かに色を変え、あたり一面が紅く紅く染まってゆく・・・


「ななな・・・なんだこりゃぁ・・・」


夕焼けを見たことが無いゾーグは真っ赤な真っ赤な海を見て面食らった。


(こんな、こんな色した海なんて・・・信じられねぇ・・・)


 しかしそれはほんの短い間だけ・・・ほどなく太陽は水平線に沈んでいった。


 


・・・暗い海・・・なんだかホッとするなぁ・・・


 しかしあの丸いのはなんだ???


ぽっかり浮かんだ月を見て、ゾーグはポカンとした。


クラゲかな?丸い魚かな?


・・・でも、どうやらオレはこの水の上には行けないようだし・・・


 考えていると、アホウドリのピーニーが飛んできてゾーグの鼻の上に止まった。


ゾーグ


「なぁ、お前は水の上に行けるのか?」


アホウドリは地獄の底から響いてくるような声に仰天した。


キョロキョロするが、周りには誰もいない。


ゾーグ


「下だ下、下!」


『下』」には黒い島があるだけだ・・・と思っていたピーニーはそれが生き物だと知ってまたまた仰天した。


すぐさま飛び立ちたいが、いかんせんアホウドリ。助走をつけて高いところから滑空しないと飛ぶことすらままならない。


アホウドリのピーニー


「お・・・俺を喰わないでくれぇ〜」


ゾーグ


「おめぇみたいにちっこいの喰ってもしょうがねぇ。」


ピーニーはちっこいと言われてムッとしたが、そりゃこんなとんでもないヤツから見たら俺でも小さいんだな・・・と、妙に感慨深い気持ちになった。


 


でも、コレだけは言わなければ!!!


 


「俺の名前はピーニーってんだ、あんたは?」


「オレはゾーグだ。」


「ゾーグ・・・」


「そうだ。・・・で、あの上のほうにある丸いもんはなんだ?」


「ああ、あれは月だよ。」


「月?」


「え、ゾーグ、あんた月を知らないのかい?」


「ああ・・・はじめて見た・・・」


「どっから来たんだか。そんなの初めて聞いたよ。」


「もっと近くで見たいなぁ。取ってきてくれよ。」


「そりゃあ無理だなぁ・・・」


「なんでだよ。」


「俺も近くで見たいなぁと思って飛んでみたけど、全然近くに行けないんだ。ありゃ、きっと幻なんだよ。」


「オレもお前も見えてるのに、不思議だなぁ・・・」


「そうだなぁ・・・」


 


  二人がそんな話をしてポカンと月を見ている横を天才イルカのジョニーが通った。


『月までは大気圏を越えて宇宙空間のはるか向こうの38万4403キロ先。アホウドリの瞬間最高飛行速度が時速90キロとして、それを維持して寝ないで飛んでもかかる時間はザッと4271時間。日数に換算して約178日。


 


・・・何となく、行って行けないこともなさそうではあるが・・・


 


・・・ただ、残念なことに大気圏の外には空気が無くて死に至る上に、月の直径は3474km。『持って帰る』のは、絶対不可能。


 


・・・と、チラリと思ったが口に出すことはなかった。


 


 


ゾーグとピーニーはしばらくポカンと月を見ていた。


そしてハッとした。


「オレは浅瀬に行くとこだったんだ。」


「俺はもう少し沖に行くとこだったんだ。」


「そうか。それじゃお別れだ。」


「そうだな」


 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 


「おい、何をモタモタしてるんだ」


 


「いやぁ、俺は高いとこから風に乗って滑空しないと飛べないんだ」


 


「そんなことか」


 


ピーニーが疑問をもつより早く、ゾーグの巨体がピーニーの乗っかった鼻だけ残して海中に沈んだ。


 


次の瞬間、ぐわおおおおお!!!!!


 


ゾーグが尻尾をものすごい勢いで動かして、水面にそそり立った。


 


その風圧と衝撃に押しつぶされそうで目が開けていられないながらも、ピーニーは叫んだ。


 


「い、い、い、一体なんなんだよう〜〜〜!!!!!」


 


「ほら、飛んでみろよ」


 


「え・・・」


 


ピーニーが目を開けると自分は巨大な断崖絶壁の崖っぷちに立っていた。見下ろす海は遥か眼下に広がって、どうしてこんな高さにいるのか俄かには分からない。


頭が混乱してモタモタしていると、またゾーグの声がした。


「ほら、飛べよ。尻尾が筋肉痛になっちまう」


それでようやく合点がいった。これは崖じゃなくて水面に立ったゾーグなのだと・・・


予想を何重にも上回るゾーグの巨大さに改めて震撼しながらもピーニーは言った。


 


「ありがとよ、ゾーグ!またな!」


 


ピーニーは的確に風をとらえてゾーグの鼻から飛び立った。


「じゃぁな、ピーニー!」


後ろから聞こえてきた自分の名を聞いて、ピーニーはちょっとだけ嬉しかった。


ゾーグはピーニーが飛び立つ時、最後に思いっきり蹴っていった鼻がちょっとだけくすぐったかった・・・。


 


 ゾーグはさらに浅瀬を目指す。夜に煌々と差す月光を浴びながら黒い海の水面付近をうねりながら進むゾーグは、出くわした生き物の恐怖心を存分に煽るものだが、当の本人はノンキなものだ。眠くなれば眠り、たまに背泳ぎなんかしたりして悠々と一人旅を満喫している。そんなこんなでゆらゆらしていると、だんだん辺りが明るくなり、やがて朝焼けの眩しい光が注いできた。


 これはまた・・・キラキラしてるもんだなぁ・・・

オレは光るクラゲがこの世で一番明るいと思っていたが・・・

こりゃぁもぅ・・・とんでもねぇもんだ・・・


 ゾーグが感心している間にすっかり明るくなった海はまた真っ青になって穏やかな波がゆらめく。


 


 


 


 


(4へ続く)




深海魚のゾーグ2

深海魚のゾーグ2


 その頃、ちょうどゾーグが浅瀬に向かう途中にあたる水面では盗みグセのなおらない飲んだくれ親父のビルと詐欺師のブービィが盗んだモーターボートでねっころがっていた。

まぁ、そんなことはどうだっていい。ゾーグには関係ないことだ。


 (ずいぶんと上に来たもんだ・・・)

ゾーグはゆらりと体をヒネってノビをした。


ざわざわわ〜〜〜・・・


 辺りの水がうずまいて海中に竜巻が起こる。

運悪くその辺を泳いでいたタコとかイカは巻き込まれてちょっと不愉快な思いをした。

 しかし、その直後に魚の大群がゾーグの口に一飲みにされたのを見て、自分はラッキーなんだと思った。


まぁ、こんな風にゾーグはゆらゆら泳いでいった。


 はじめはくすぐったいように感じていた光はだんだん暖かさを増して、これが陽の光なんだとゾーグにもはっきり分かる。

そして、鮮やかな世界が眼前に広がった。超精密で超高性能なゾーグの眼球はその色の洪水にパチクリしながらも興味津々で釘付けだ。


あぁ・・・これが上の世界ってやつか・・・


ゾーグは巨体をうねらせてできるだけ波を立てないようにそぉっと泳いだ。


そそり立つ海中の断崖に近寄って目をこらすとさんごやイソギンチャクが七色にピカピカ光って、その間をこれまた七色の魚たちがちょろちょろ泳いでいる。


幸運なことに、小さな魚達はゾーグがあまりにもでかすぎて視界にとらえることができない。


(・・・オレにもずっとずぅぅぅ〜〜〜っと昔、こんな頃があった   なぁ・・・黒かったけど・・・)

ゾーグはなんだか胸の奥がジーン・・・と鳴ったように感じた。

「さて、行くかな・・・」

またゾーグは浅瀬を目指す。


この時、不幸にも何匹かがゾーグに気づいてちょっとだけ気絶した。


  ゾーグはもう、このプチ旅行がすっかり気に入ってウキウキしている。見たことのない海草や色とりどりの生き物が珍しくてしょうがない。


あっちへフラフラこっちへフラフラしながら鼻歌まじりで泳いでく。

そうして遂にゆらゆらキラキラ光る海面が見えた。


「よっしゃぁ!!!行くぞ!!!」


ゾーグはその巨体からは信じがたいような猛スピードで一気に海面を目指した。

そしてアッという間に到達、その勢いで・・・


ジャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ンプ!!!!!!!


水面の穏やかな波が突如崩れ、ゾーグのぬらりと黒光りする皮膚が光を映しながら空を覆う・・・


ざざざばばば!!!どっしゃ〜〜〜〜ん!!!!!


海が破裂したような轟音が響き渡り、山のような水柱がしぶきになってスコールの如く降り注ぎ・・・ゆっくりゆっくり元に戻った・・・


 ビル
「み・・・見たか?」

ブービィ

「み・・・見た・・・あ・・・悪魔だ・・・」


 二人の小悪党はゆっくり顔を見合わせたあと、衣をつんざくような絶叫を上げながら岸へと戻った。岸には二人にポリスという名のお迎えが来ていた。

錯乱したままお縄を頂戴した二人はゾーグのことを必死に訴えたが、普段が普段なので信じてもらえず、『なんだよチクショウ!』と思った。

まぁ、ゾーグにとってはどうでもいいことだ。



(3へ続く)


 


 


 



深海魚のゾーグ1


 マリアナ海溝の底らへんで、深海魚のゾーグはいろいろ考えた結果、浅瀬に行ってみようと思った。


いろいろと言うとあまりにも漠然としているので説明すると、ここは暗いのである。

光が届かないというのは全くもって真っ暗なのだが、発達した触角や超音波などを通じて地形を把握したり食べ物を探すには困らない。そんな中、たまにふわわふわ〜っと光るのもいる。しかしオレは視力も抜群だし、触覚も発達してるからまぁ別に光ってくれなくてもいい。それにそんなヤツらは毒クラゲや腹の足しにもならないちっこいのだから、オレはボケ〜っと見てるだけだ。


しかし、こないだたまたま入り組んだ地形の岩場に誘い込まれて来た浅瀬の住人が言ったんだ。深海てぇのは暗くて何にも見えやしねぇ。早く浅瀬の明るいとこへ帰りたいってな。

オレは聞いた。

「明るい?明るいってなんだよ。」

そいつ

「明るいから明るいんだよ。全部見えるんだ。こんな何にも見えねぇんじゃしょうがねぇ。体も重い。潰れちまうよ。」


「???重い???ここは重いのか???」


「おうよ。あんた、ずっとここにいるんだな。よく生きてられるもんだよ。」


「ふ〜ん・・・。」


それからそいつは何とか岩場を切り抜けて、ゆっくり上へ戻って行った。


・・・上の方は明るくて軽い。全部見える。・・・


 オレにはそんなの分からねぇ。でもいいじゃないか・・・。こことは全く違う世界があるなんて・・・。


オレはあれからそのことばかっかり考えている。そんでついさっき答えが出た!オレは上へ行く。浅瀬の世界を見たいんだ!


 ゾーグは巨大なしっぽをゆらりと動かし、重い重い海底の砂をザラリと蹴って動き出した。


光るクラゲが海流に揺られながらも身をよじってゾーグから離れようとする。


「おめぇなんざぁ喰わねぇよ!」


心外なヤツだ・・・。


でも実際、ゾーグが動くといつも静まり返った海底はざわめいた。ゾーグの巨体は海底に波を作って生き物たちを震撼させる。


 ゾーグは稚魚で捕食者から逃げ惑っていた時代が終わってちょっと大きくなってから一度も動かなかったのだ。ひたすら待つ。獲物が至近距離、射程距離内に入るまでひたすら待ってパクリと食べる。動かないから頻繁じゃなくていい。それでどんどんどんどん大きくなったのだ。周りの魚はゾーグがまさかこんなに大きいとは思ってなかった。いきなり動いて喰い尽くされる恐怖に怯えた。


でもまぁそんなちっこい話は当のゾーグに関係ない。ユラリユラリと体をうねらせ、上へと向かう。


しばらく行くと、マッコウクジラのサンダーに会った。


「よぅ、ゾーグ!・・・デカイな、アンタ。」


サンダーの名前の由来は昔、雷に打たれて背中に大きな傷跡があるからだ。


でも噂によると潮の流れを読み間違えて陸に乗り上げ、カモメに襲われたというのも聞いたことがある。・・・それが事実ならマヌケすぎる・・・だが本人が雷というならそういうことにしとけばいい。オレだって友達がそんなマヌケと思いたくない。


「なんだよ、ゾーグ。こんなとこで。ジッとしてるのがアンタの生き方じゃないのかい?」


「サンダー、オレは決めたんだ。上へ行く。」


「ふーん、行ってどうするんだい?」


「見てくる。」


「そんだけかい!」


「あぁ。後は考えてねぇ。」


「深海っ子だねぇ〜。」


サンダーはヘラヘラ笑うと向きを変え、どっかへ消えた。


さぁ、行くか・・・


ゾーグは浅瀬目指して上へ上へと向かう。


ゾーグの深海で研ぎ澄まされた恐ろしく敏感な皮膚が僅かずつ僅かずつ陽の光を捉え始める。


・・・なんだこりゃあ・・・なんだかフワフワした粉がまといついてきやがるぞ・・・あったかい?これがあったかいってもんなのか???


その初めてのくすぐったい感覚を楽しみながらゾーグはゆらりゆらりと登ってゆく・・・


体を締め付ける水の重みが薄れてゆき自分がだんだん軽くなってきたような気がする。


なんだろうね、この感覚・・・稚魚にでも戻っちまうのかな?


なんだか胸がワクワクしてくる。


こりゃあ、期待できそうだ・・・


 ゾーグの伝える水の振動は海を震わせ、小魚もまぐろもサメも逃げ出して、鯨の群れさえ進路を変えた。


ノンキなのは当の本人、ゾーグだけ。


ウキウキとしっぽを揺らめかせて上を目指す・・・


 

(続く)

 


 



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