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続き(3)  天皇とその御責任
 
 
 
われわれは、人と会えぱ、すぐ持ち前の対立感に捉われて、この人は
自分より身長が高いか低いか、から始まって果ては、馬鹿か利口かに
至るまで、あらゆる比較を腹の中でするものだが、ほんとのところ、
神さまの眼から見れば、お互いに五十歩、百歩のちがいに過ぎないこと
には、とんと気がつかない。ああ、なんと恥かしいことか、と恥じ入る他は
なかった。
 
暫らくして、とうとう、陛下は上奏文書に裁可の印をお捺しになった。これで
起訴は決定した訳だ。何某氏は今夜にでも逮捕されることになったのである。
私はその書類をいただいて、箱に入れ鍵をかけ、一刻も早く、私を待っている
内閣書記官に渡そうと思い、一歩お室を踏みだそうとしたところ、私をお呼び
止めになったから、何か別の御用かと思い、お側に近ずいたところ、ただ一言
沈痛なお声で、「わたしが悪いのだよ」とおっしゃって、考えておいでになる。
 
このとき私は、ほんとうに、なんともいわれぬ、つらい思いに胸をいためた。
われわれの仲間の犯したあやまちが、かほどまでに、陛下のお胸を傷めるのか、
あいすまぬことだ、と思っていたら、つとお椅子から立って側におでになった
から、私も無言のままお伴をして側に出た。この側は、このたびの戦災で
焼失してしまったが、明治神宮の絵画館に掲げてある数多の油画のうちの
一つ、教育勅語下賜の図という大きな額面に描かれているお二階,.御学問所
と呼ばれるーの側がそれである。
 
非常によく晴れた秋の日暮、夕陽がお庭の松に照りそっていたが、天を仰いで、
おっしゃるには、わたしが悪いのだよ、どうすれば政治家の堕落が防げる
あろうか、結局わたしの徳が足りないから、こんなことになるのだ
どうすればよいと思うか、とお尋ねになる。
 
このお尋ねをうげても、つい先き程、持ち前の対立感から、いささかなりとも
痛快味を覚えた私ごとき者に、何んとお答えができよう。あふれる涙を抑えて、
ただ無言でお室を退出したことがあった、このときの記憶は、あまりにもあざ
やかで、今でも秋の非常によく晴れたタ暮れ、空を仰ぐと、ときどき、このとき
のことが思いだされる。
 
こういう深刻な記憶を胸に焼きつけた、この私が、敗戦後、再び陛下のおん許
に帰ってきたのだから、お胸のうちの、おつらさは、よく判るのだが、なぜ、
話題が 天皇責任論にふれるのをお避げになるのか、その理由の真相は、
これを知るよしもなかった。私がこれを知ったのは、ずーっと後のことである。
私は二十一年に退職し、二十五年以来、荒廃した二重橋前の広場の復旧
整備を志す皇居外苑保存協会の仕事に引き続き今も従事しているが、ちょうど
昭和三十年の九月十四日の朝、何気なく読売新聞を開いて見たら、
 
 
その第二面に大きな見出しで「天皇陛下を讃えるマ元帥」という重光外務
大臣の手記が掲載されていた。これを読んでいるうちに、私の胸のうちには
感謝感激の情が潮のように高鳴ってきた。それは、終戦以来、私が心ひそかに、
求めに求めていた、あるものを、遂いに発見したからである。
 
 
それは何であったか。これは、日本にとって、最もだいじなことだが、
日本に憲法があるとなしとに拘らず、また、憲法が 天皇の御地位に
関して、いかような規定を設けようとも、天皇は、日本国民の運命に
関しては、皇祖皇宗に対し、更にまた上天に対し、絶対の責任を自覚
せらるるおん方である、とする私の考-少くとも数年間、側近に奉仕した
私としては、かく考えざるを得ないー が現に正確な吏上の事実として、
ここに明らかとなったからである
 
終戦処理上、陛下が、いかような御覚悟を以て、いかような事をなされ
たか、そして、これを何故に黙秘して、近侍の者にさえ、;一言もお洩らし
なされなかったか、このことの顛末が、詳細明らかになると共に、あの
無遠慮な天皇責任論の横行時代に、敵将との約束を堅く守って、一言
の説明もなさらず堪えぬいてこられた、そのおつらさ、その御苦労を
拝察して、ただ、ただ、陛下、ほんとうに、ありがとうございました、
と心からお礼を申し上げるより他はなかった
 
陛下が、日本占領軍の総大将マツカーサ元帥と初めてお会いになった
のは、昭和二十年の九月二十七日のことで、場所は東京のアメリカ大使
館内のマ元帥の室であった。この御会見は、会談の内容は一切厳秘に
付する堅い約束の下に行われたものであるから、マ元帥は幕僚も遠ざけ、
只一人。陛下も通訳一人の外、何びともおつれにならず、真に一対一の
御会見であった。このような次第であるから、御会見の内容は一切、
外部には不明のまま、年月が経過していったのである。当時、巻間には、
いろいろな風説が流布されたけれども、誰も、事の真相を知っている
ものはいなかった。
続く
 
 
          元侍従次長   木下道雄 著  「皇室と国民」より

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こんばんは。





傑作です。

言葉が出ません・・・。

2012/2/29(水) 午後 8:37 [ - ]

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転載させて頂きます。

応援&今日の傑作ポチ凸

2012/2/29(水) 午後 11:37 hito


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