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再軍備は却って労働者に職業を与える
昭和三十一年
次に軍備につかう金を平和産業に振り向ければ、貧民がたすかるとか、日本が中共のように社会主義になれば失業者はなくなるとかいって、それにひっかけて、“再軍備は可かぬ”ーと云うような理論が社会党(現在の民主党)の人たちから説かれるようでありますが、これなどは、経済的のアタマのない一般大衆に受ける言葉でありますけれども、こんな馬鹿な矛盾した理論はないのであります。
軍備がなくなれば重工業に従事している工員はその大部分が失業して、その工員の貧乏さが一層貧乏になるのであります。これは終戦直後の日本人の失業状態の甚だしかったことでもわかるし、卑近な例を挙げれば横浜の××自動車株式会社が米軍の一部撤退のため軍用自動車の受註がなくなると、数千人の工員が解雇せられることになり、解雇反対のストライキをやっていた如きは何を語るでありましょうか。軍備反対の総評の統率下にある労働者でも軍備を縮小すれば失業が殖える事実に直面したのであって、軍備につかう金を平和産業につかえば失業者がなくなると云うようなことはただの宣伝にすぎないのです。むしろ日本が再軍備をすることは日本の労働者に職業を与えることになるのであって、却って労働者を富ましめること斯くの如きであります。平和産業への転換と云うようなことも安易に叫ばれますけれども、平和産業たる化繊業界では生産過剰で五十パーセントの操業短縮を決議したと云うことです。 ラジオできいていますと、ある主婦が「軍備につかう予算を貧民を救済するように使えば貧民がたすかる」と、複雑な経済関係を唯の簡単な加算と引算とで割り切ったようなことをいっていましたが、貧民救済に労働する「場」を与えないで、予算を救済金の形で与えたりしますと、国民の依頼心を増長せしめ、救済金を受けることを権利のように考えるようになり、国民の独立自治の徳性を失わしめることにもなります。
だから貧乏救済には労働の「場」を与えなければならない。そのために私は「解放への二つの道」の本の中で治山治水工事に全失業者を動員することによって毎年の颱風による農作物の被害を防ぎ、食料輸入を激減し日本を富ましめるように勧めて置いたのであります。併し土建労働に向かない人もあるので、これだけでは足りないのであります。「中共に失業者がない」というのは、軍備をしないからではなく、世界最大の軍備を整えるために「何カ年計画」というようなことを繰返しやっているからであって、決して「軍備に使う金」を平和産業に振向けているからではないのであります。ソ連に失業者がないというのも同様に軍拡にいそがしいからでありまして、日本が戦争中に学生までも徴用して、「失業したい自由」がなかったと同様に、軍備にいそがしければ、何処の国でも失業者はなくなるのであります。ソ連がこの程「陸軍を百五十万減じたからアメリカも軍縮せよ」と提案したのも、アメリカが一挙に軍備縮小をやれば失業者が道にあふれて混乱状態に陥るのをねらったのであります。
つづく
谷口雅春著「私の日本憲法論」
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