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青木村の極楽普請(ごくらくぶしん)
 
「美しい村だ。みているだけで心が和(なご)んでくる。金次郎、よくやりとげてくれたな」
忠真(ただざね)はうれしそうに黄金色(こがねいろ)に穂を垂れている稲田をみまわしました。
平らに整えられている道路、深浅にも気が配られている水路、豊かに実っているたんぼ、村人たちの明るい顔……桜町は十年前とはみちがえるようでした。
 
 
天保二年(一八三一年)小田原藩主大久保忠真は日光からの帰り遣、桜町に立ち寄ってその復興ぶりをまのあたりにみたのです。
この年から桜町は領主の宇津家(うつけ)に、二千俵の年貢をおさめることができるようになりました。
「これで宇津家もたちゆくことができる。礼をいうぞ」
忠真は心から金次郎をねぎらいました。
「喜んでいただけて本当に嬉しゅうございます。これもよく働いてくれた村の衆のおかげでございます」
「うん。なるほど。そちは村人が働きやすいように心を配り、村人もそちのいうことを聞いて喜んで働いたというわけだな」
忠真はうなずいて言いました。
 
 
「金次郎、そちのやり方は論語にある〃徳をもって徳に報いる"というやり方だな」
「まことにそのとおりでございます」
金次郎は忠真のことばをすばらしいと思いました。
 
 
この時から金次郎の考え方を報徳思想(ほうとくしそう)というようになりました。又このころ金次郎を訪ね指導を乞(こ)うもの、弟子入りを願うものの数が増えてきました。常陸国(ひたちのくに)(茨城県)真壁郡青木村(まかべぐんあおきむら)名主館野勘右衛門(なぬしたてのかんえもん)がたずねてきたのもこのころです。
 
 
青木村は旗本川副勝三郎(かわぞえしょうさぶろう)の領地でしたが、十年前の桜町と同じように荒れ果てていました。
「家ありやすすきのなかの夕けむり」
これはその頃青木村を通りかかった旅人が読んだ句です。夕餉(ゆうげ)の支度(したく)のけむりでやっと人家があるとわかったというほど、一面にかや、よし、すすきなどが生(お)い茂(しげ)っていました。きっねやうさぎも住んでいたほどです。
 
これは、村の西北を流れる桜川の水害が原因でした。この桜川をせき止めて水田に水をいれていたのですが、この堰(せき)の左右の岸も水の底も細かい砂ばかりなので、大雨が降ると、堰はこわされ流されてしまうのです。
水の利が悪いため、田は荒れはて人々の気持ちもすさんでいました。その上、伸びほうだいの茅原から火が出てしまい、その火が民家に燃え移って、三十一戸もの家が焼けてしまったのです。
 
名主の勘右衛門はまじめな人でした。
「このままでは村がなくなってしまう」と三里はなれた物井村の金次郎に助けを求めにきたのでした。
 
つづく
 
財団法人新教育者連盟「二宮金次郎」より
 
 
 
 
 
 

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