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人間は部分品の寄せ集めではない
 「何故憲法を変えなければならないか」
 
 
 
1個の有機体が完全な「生命体」であるためには、その生きている細胞及びその細胞群によって形成されている系統や内臓等を「一つの命令系統の中枢」の支配カによって、統制し得る状態にあらしめねばならないのである。このことが忘れられていて、何でも生体の部分品をつなぎ合わせ、縫合(ほうごう)さえしたら、その全体の「生命体」が健康に生きて来るであろうというような間違った唯物論的想定にもとづく手術が心臓移植であり、その「他の人」から取り出した「心臓」は、それみずからの中枢で動くだけで、神経繊維がつながらないために「一つの命令系統の中枢」からの支配力が及ばないために、結局、宮崎信夫君の死は、その手術の最初から、決定的に約束づけられていたのである。これに気づかないで、「生きている健全な心臓」さえ縫合して血管をつなげば「全体の生命体」が健康に生きると考えて移植手術したのは、和田教授が、人間を単なる「部分品の寄せ集め」だとする唯物論的生理学に支配されていた結果で、今後このような手術をする場合には、「人間は部分品の寄集めではない」という生命論的立場に立って考え直さねばならないことを宮崎君の手術後の経過の失敗は示唆しているのである。
 
 
だいたい生命体が健全であるためには「一つの命令系統の中枢」によつて全体の生理機構およびその生理作用および全系統、全細胞が秩序整然と支配されていなければならないのである。細胞がこの「中枢」の統制命令に服さずして、むやみ勝手に増殖した場合が「癌」であつたり、「絨毛上皮腫(じゆうもうじょひしゅ)」であったり、「葡萄状鬼胎(ぶどうじょうきたい)」であったりするのである。癌細胞も生きているし、上皮腫の増殖する細胞も生きているし、葡萄状鬼胎も生きているのであり、そしてそれらは全体の生命体に繋(つな)がっているのである。しかしその生きている部分品(細胞等)が全体の生命体につなぎ合わされていても、これらの部品細胞は全体の統制命令に服さないから、それが全体の生命体につながっているそのことがかえって生理作用の"内部騒擾(そうじょう)“を来して死の原因となるから、癌腫や絨毛上皮腫や葡萄状鬼胎は切除するのが医者の常道となっているのである。だから大いに元気で増殖する細胞や臓器を手術で縫合すれば、それで全体の「人間」が健康になって救われるというわけではないのである。切断した腕の筋肉などを早期に縫合すると、一緒に切断されていたその微細な神経を縫合しないでも、やがて自然癒能によって、神経もつながり、あるいは新しく切断部をつなぐ神経がつくられて、腕全体が健全に動くようになる実例はたくさんあると思うが、それは拒絶反応が起らない場合であって、拒絶反応がある場合には、その人の神経は移植した他の臓器の神経とつながることを拒絶するが故に、たとえ血管は手術用の動物性縫糸によって機械的につなぎ合わされている結果、機械的に血液を循環せしめてくれていても、結局は「一つの命令系統の中枢」につながらないために、強大な心臓の摶力を必要とする場合にも、心臓は自分勝手のテンボで摶動しているだけだから、生理作用のバランスを失って結局は死を招くことになるのである。
 
 
谷口雅春著 「私の日本憲法論」
 
 

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