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占領軍司令官が占領地の憲法を恒久的に変更する権限はない
「……占領地の現行法尊重の義務は、一九〇七年の陸戦法規が明文を以て規定するところであって、占領軍司令官が占領地の憲法の恒久的変更を為し又は為さしむる如きは許すべからざることになっておる。その上に、今次の降伏条件たるポツダム宣言、バーンズ回答等にも、日本の憲法改正を必然ならしめるようなことは皆無であるばかりでなく、占領末期の政府の形態を決定することは、日本人の自由意志によって決定せらるべきものとしておったのである。これらのことは、日本では政治家ばかりでなく、学者さえも、今以て迂濶(うかつ)にしておるのであるけれども、占領軍司令部は、当時十二分に承知しておった筈であるからして、司令部としては、憲法の変更が飽く迄日本国側の自由意志によって自発的になされたものであるということを内外に対して吹聴することが必要であったのである。若しも不当干渉のことが問題となるならば、占領軍司令官の不法不当の処置に関する国際法上及び軍法上の責任問題を惹起(じゃっき)するばかりでなく占領終了後に於ては憲法変更の無効及び原状回復による旧憲法復原の問題を生ぜしむることにもなり得べきことを知悉しておったのであろう」
私は井上孚麿氏のこの著書によって、国際法上の陸戦法規に「占領軍司令官が占領地の憲法の恒久的変更を為し又は為さしめることが許されない」となっていることをはじめて知ったのである。こんな事があったので、最近、日本から憲法調査会の代表がアメリカに渡って現行の日本国憲法制定についての当時のイキサツをマッカーサー元帥に面会して聴こうとしたとき、元帥がその面会を拒絶したのも「成る程これあるかな」と気がついたのである。現行の日本国憲法がマッカーサー司令部から押しつけられた憲法草案に基くものであることは、当時の内閣書記官長檜橋渡氏(ならばしわたるし)がある週刊雑誌に「私が当時内閣書記官長として責任者の立場にあったからよく知っている。マッカーサー憲法草案を受諾する意志はなかったが、"この草案をそのまま呑まないと、ソ連では君主制を全然廃止する日本国憲法を作りつつあるから、それまでにこの草案をのんでしまっておくように。という占領軍総司令部からの通告があったので、止むを得ず、天皇制を兎も角も何らかの形で護持したいつもりで、その占領憲法を呑んだ」という意味のことを言っていたのでも明かである。(この週刊誌は車中で旅行中読んだので、今は記憶で書くに過ぎないが)この間の消息を裏付けるかの如く、井上孚麿氏は次の如く書いている。即ち『憲法研究』一〇二頁に、「……幣原内閣はその後、内大臣府の憲法改正調査とは別に、政府部内に憲法問題調査委員会を設けるには設けたのであるけれども、これは改正を予定してのものではなく、むしろ改正の要否の検討から始めるという程の漫々的(マンマンデー)のものであったのである。たとえ改正を要するとしても、第一条乃至(ないし)第四条の根本原則は改正すべきではないということは、首相も憲法問題担当の松本国務相も議会でも新聞記者会見でも、屢々(しばしば)公言しておったのである。調査委員会の委員間にもポツダム宣言を履行する為には憲法改正を必要とせぬという意見が圧倒的であったことは勿論『改正を不可とする見解』さえもあった位である。
つづく
谷口雅春著 「私の日本憲法論」より
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