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外人記者もみとめる日本の美風
 
 
ここまで書いたとき昭和二十七年六月号の「文塾春秋」が私の机に届けられた。それには一九四八年、英国のタイムズ特派記者としてはじめて日本に来て、八カ月滞在したトレイシー女史の日本観が「占領下とは専制下のことか」と題して書かれているのである。傍目八目(おかめはちもく)の喩(たとえ)の通り、宣伝にのせられていた日本人自身には却ってわからず、占領軍自身にも気がつかないで滞在意識で日本を弱体化さそうとしていたことも、第三者から観るならば比較的公平にその事情がわかるのである。曩(さき)にあげた日本の或る大新聞の記者はラフカディオ・ハーンが日本婦人を賞めたことを明治三十七年の古い出来事であり、封建的産物にすぎない日本女性の従順と無我献身を何の賞める値打があるかと云う風に、日本女性をあたまから卑しめてかかっているのであるが、日本人記者よりもトレイシー女史のような、第三者的外来記者の方が、日本の善さをもっとよく知っていてくれるのである。日本人よ、もっと日本国と日本人自身とに自信を持たなければならないのである、女史は次のように述べている。
 
 
私は日本人が質朴で優雅で、美しいものを愛し、自然を敬うのに感嘆した。彼等の社会風習は、多くの点でヨーロッパの風習よりもすぐれているように思えただが、このデリケートな文明国は多年、西洋がつかみ合いの衝突をするような危険な目にあって来た。そして今や西洋はこの国を圧倒して、できればこの国を生み出した精神までも、破壊しようと思っていたのだ。西洋では実際次のように言っていた。我々はいろんな機械装備をもっているから、原子力や大砲も、巨大な爆撃隊や艦隊もあるのだから、人間がすぐれているにちがいない。君たち日本人は、我々の家、我々の物質、我々の知識をもつことはできないが、我々の風習や倫理を、君たちに教えてやることはできると:…・」(「文塾春秋」昭和二十七年六月号二一七頁)
 
 
日本人の多くも、欧米の物質文明のそして武器の優秀に暗示されて、日本民族自身の「ヨーロッパよりもすぐれている」社会風習を「封建的」と云うただ三字の評語をもって葬り去って、家族制度は封建的である、女性の従順は自覚が足りないのである、争議をせずに奉仕的に働くのは人権を尊重しないのである。姦通や人工流産を法律で取締るのは民主的ではない、大多数の人は「性の自由」をもちたいのである…等々と云う風に、そのもっとも尊い日本の社会的風習の部分を捨てることにいそしんでいるのは遺憾である。
 
 
そして到頭、占領軍の日本猥褻化による精神の弱体化と云う思う壷にはまったのである。日本国民は日本のそれ自身の風俗習慣のうちに美しいもの、尊きものがあるのに、それを捨てて、原子力や、強大な底力を持つ西欧人の風俗習慣の方がよいと思ってそれに乗り換えたのである。しかも甚だ「板に載らぬ」下手さ加減で西洋を模倣して得意になっていることをトレイシー女史は皮肉な書き方で嘆いているのである。
 
 
つづく
 
 
谷口雅春著「私の日本憲法論」
 

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