香りのある生活

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◆第47話_弟の行方

第1話はこちらです。http://blogs.yahoo.co.jp/o_ubq/2349388.html

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香りのプロジェクトも、実験が進むとともに、いろいろな問題に直面しました。若い社員が消極的だという問題は、喜多嶋くんが積極的に声をかけ、ずいぶん意見が出るようになりました。

一度その場の空気に慣れ発言が受け入れられると、ベテラン社員より鋭い感性で様々な意見が飛び出すようになりました。その中には、香りの強さや変化の付け方などに言及するものもあり、喜多嶋くんは確かな成果を予感しました。

やがて若手に触発されるように、それまで冷やかしのような意見が多かったベテラン社員も、プロジェクトの趣旨を理解し建設的な意見が出るようになり、良い雰囲気の中で実験は進んでゆきました。

ベテラン社員の態度が変わったのは、川窪事業部長直轄のプロジェクトであると、梅垣部長が活を入れたことも一因ですが、それだけでなく、どうやら実験を繰り返すうちに、香りの効果を実感したことが転機になったようです。

兼山物産向け基幹業務システムも、エンジニアリング部の藤木吾郎から順調に進んでいると報告を受け、いままでトラブル続きで悪い方向に進んでいたものが、やっと良い方向に向かいだしたことを実感した喜多嶋くんでした。

残る重荷は、由希の父親に約束した弟の周作を説得することだと考えていたら、突然喜多嶋くんの携帯電話が鳴りました。サブディスプレイに由希の名前を確認すると、

「由希ちゃん、何か急用?」

「うん、そうなの。いま大丈夫?」

「3時から会議なんで、今なら大丈夫だけれど」

「弟のことで、所在がわかったの。それで会社終わったら、これからのことを相談したいんだけれど」

「わかった、今日は会議後は予定がないので、終わったら電話するよ」

喜多嶋くんは、いま自分の周りを流れる時というものに、大きなうねりを感じていました。ついこの間まで、金沢麻里子にヘンな噂を立てられたり、基幹業務システムの納期問題が発生したり、はたまた跡取り問題で板挟みにあったり、何もかもが悪い流れとなっていました。

それが、香りのプロジェクトが順調に流れ出すと、すべてが良い方向に回り出したのですから、何か不思議な力の存在を、感じざるを得ません。


     ★     ★     ★


午後6時30分、喜多嶋くんと由希は、いつものイタリアンレストランにいました。今まで心に重くのしかかっていたものが、少し軽くなったのを感じた喜多嶋くんは、めずらしくワインをボトルで注文しました。

「あまり飲み過ぎないでね」

「大丈夫、このワイン一度とってみたかったんだよね。今日は気分が良いので、清水の舞台から飛び込むつもりで‥‥」

「それを言うなら、『飛び降りる』でしょ!」

「えっ、そうだっけ! まっ、いいや!」

喜多嶋くんは照れ笑いで誤魔化すと、

「ところで、周作くん、どこにいるの?」

「それがね、一時は神戸や京都にいるという話しもあったんだけれど、やっぱり大阪にいるらしいの」

「大阪? 大阪のどこに?」

「梅田にあるライブハウスで働いているらしいの」

「じゃあ住まいも梅田に?」

「じゃなくて、岸和田らしいの。あの『だんじり祭り』で有名な」

「それにしても、よく判ったね」

「それがね‥‥」

由希の話によると、よく学生時代由希の家に遊びに来ていた周作の友達に、片っ端から電話をかけたのだそうです。そして、北岡満という友達が口ごもったのを聞き逃さず追求すると、大阪のライブハウスで働いているという情報を漏らしたのだそうです。

「そう言う訳なの。その北岡くんには口止めをしておいたから、周作はまだ気がついていないはずよ」

「でも周作くんが北岡くんに連絡を取ったら、きっと隠さないと思うから、早く動かないとまずいかも知れないね」

「そうね、北岡くんには連絡するなと念を押したけど、あの二人、中学の頃からの悪友だから、情報が漏れるのは時間の問題だわね」

「じゃあ、今度の日曜会いに行こう。由希ちゃんの都合は、大丈夫?」

「ちょっと待って」

由希は手帳で予定を確認すると、

「ちょっと予定があるんだけど、こちらを優先するわ。大切な問題だからね」

「ありがとう、じゃあ待ち合わせなど詳しいことは、明日新幹線の時刻なども調べて連絡するね」

喜多嶋くんは、即座に決断すると、

「由希ちゃん、ありがとう。いま俺、由希ちゃんという存在がとても大切だと、実感しているよ」

「ありがとう、喜多嶋くん!」

「アロマの世界に導いてくれたのも由希ちゃんだし、そのお陰で会社でもいい仕事をさせてもらっているし、本当に由希ちゃんは俺の天使だよね」

「あら、喜多嶋くん、ちょっと酔っている?」

「そんなことないけど‥‥。でも一緒になったら、その『喜多嶋くん』は止めてもらうからね」

「えっ‥‥、もちろん変えるわよ。でもなんて呼んで欲しいの?」

「えっ‥‥、考えておくよ」

二人は久しぶりに、心から笑ったような気がしました。


この物語では、よくレストランのシーンが登場し、ワインを飲む場面が現れます。実は、著者はあまりワインを嗜まないのですが、香りと密接な関係から登場させています。そこで、ワインの香りについて、少しだけ蘊蓄(うんちく)みたいなものを‥‥。

ワインの香りは、ぶどうそのものがもつ香りや発酵段階で生まれる香りの「アロマ」と、グラスに注がれた時空気に触れる事で生じる香りの「ブーケ」の2種類があります。そして、その両方がバランス良く香るワインが、一般的に良いワインと言われるそうです。

ですから、ワインが注がれたら、まずは注ぎたての「アロマ」を楽しんだ後に、グラスを回しながら「ブーケ」を楽しむと、ちょっとだけ「通」になれるかもしれません。 


周作の所在も分かりました。でもミュージシャンを目指す周作を、どのように説得するのでしょうか? 喜多嶋くん、なにか秘策でもあるの?

(この物語はフィクションです。登場する人物や会社名も、全て架空のものです)


‥‥つづく


 

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