新ららちゃんの窓

幻の山芋歌を探し続けて20年 てんとうむしのかわいらしさを見つけました

あすなろ物語

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あすなろ物語ー3−

「俺にお前のスピリットをわけてくれ。」
彼は清太郎に懇願した。
社会にはばたくひを直前に控えた陽一は、清太郎にすがったのだ。
光之助も少しおくれて仲間にくわわり、その夜、三人の青年たちは酒を酌み交わした。
清太郎は、自分を失くしたしまいたいと思うほどの、現実との軋轢にぶつかった、このふたりの悲しみが、こころをふさぎ、制服を着た明るい少年に、ふさわしい笑顔を冴子はのぞんでいて、自分は冴子ひとりだけのために、自分らしくいたいのだと、
二人の懊悩する若者につげたのだ。

その日の朝やけは、たなびく雲間に朝日が美しく照りつけ、灰青色からオレンジ色に変わる瞬間を清太郎は、清太郎はただ少年の体と、青年期に突入したスピリットをもって見つめたのだ。
やがて朝帰りをした冴子の姿が、窓越しに見えると、清太郎は、
「何があなたをそんなにまで変えてしまったの?」
そう思い、涙が幾筋もこぼれおちるのであった。
そのこころは幻想などではなく記録に残る確かな史実であった。
少年の日の生きている証拠であった。
冴子に教えてやりたかった。
男とは戦う前に逃げ出したりは決してしない生き物なのだという事を。
朝帰りの冴子が、夜の電飾のさんざめく繁華街をふらついていたことは明らかであり、その行為は冴子にとって頽廃と結びつき、また異性への失望からくる失意のあらわれであったのだ。
清太郎は若かった。
彼の言葉を、清太郎は十五歳の少年のまだ何も知らない、育ちのいいものの語る言葉と受け止めることしかできなかった。
なぜなら冴子は、若い生命のいただきにいたのであるから。

あすなろ物語ー2−

清太郎は高校一年生の秀才であった。
成長期の彼にとって、冴子のこころを推し量ることは、あふれでるこころの発露であり、冴子をいたわり、冴子をなかした世の中と闘い、正当な方法で、社会を変えてゆく一粒の麦と彼はなりたかった。
冴子はいとこである清太郎に、ミレーの「種をまくひと」という絵画について教えた。
その偉大さと情熱を、静かな情景で見事に描いたミレーのすばらしさを語った。
清太郎は彼のような種をまく人となりたかった。
そのためには、運命に負けてはいけないのだと彼は思った。
今、ここで力つきてしまってはならんいのだ。
今の自分を超え、より強い自己を造ってゆかねばなない。
清太郎は人の三倍努力をしなければと思った。
その努力の矛先は十五歳の少年にとって、勉学にほかならない。
漢文や算術や物理に取り組み、自分は冴子を花嫁にむかえることができる日がやってくるまで、自分に負けることはできないのだ。
清太郎は、男として目覚め始めていた。
陽一を批判し、冴子に恋をしている自分のこころを冴子にうちあけた夜明けがあった。
陽一はその夜、清太郎に酒を飲ました。
陽一は清太郎の美しいこころに惹かれていたのだ。

あすなろ物語−1−

それは高く澄みきった秋の空にかけすの舞い飛ぶ、東京大学での学園祭のことだった。
冴子は同級生の男の子たちの作った張りぼてを見て、人生をつらいと感じた。
もとより、みずからのぞんだ共学の最高学府であった。
だが、冴子が女であるということが、今、冴子をさしせまって苦しめていたのだ。
十八を過ぎてから芽生え始めた冴子の自意識が、やり場のない激しい憤りを冴子にもたらしていた。
それは、深い悲しみと、静かな怒りであった。
住宅街まではびこっているピンクチラシへの、ちいさなちいさな抵抗であった。
この広い社会の中で、高いものに薫陶されはじめていた冴子にとって、生きることがつらいと感じるのは、ただひとり、愛する人と言葉をかわし、二人だけの世界を作ってゆけばよいのだと気付く間もなく、
冴子は大粒の涙をこぼし、大学祭のたてかんを花弱い腕力ではがすと、踏みつけにした。
この再興学府で女子は少ない。
冴子は同じ性を受けた「女」という生き物が、よいひとであると信じたかったし、また、自分もそうあらねばといつも考えていた。そしてまた、はりぼての女がくちにくわえたオーボエの先にひかるピンク色のまるい球が、何を意味するのか、冴子にはいっこうにわからず、冴子が確かに、死にむかっていったことこそ、命のかがやきであったのだと思わずにはいられない。

清太郎は冴子より五つ年若だった。
冴子はやっとはたちだ。
十五歳の冴子は何故冴子が悪い男にばかり目が行ってしまうのか一向にわからず、ただ冴子は今考えているのだ。人間とは考えるものなのだ。考えずにはいられない生き物なのだ。
そう思い、冴子の深い苦しみが、明るい希望へとつながって暮れるのであれば、自分は一向に孤立してもかまわない。冴子が短期大学の女に、あの、勤勉な陽一という大学生を奪われたことの悲しみが、
清太郎の純朴なこころを打ち、苦しんでいる冴子の姿がどんなに光り輝くものであるのか、清太郎は冴子に教えてやりたかった。
社会人である光之助もまた、妹である冴子のあの悔し涙、世の中に破れたのだというあの涙のわけをくみ取ってやれるだけのこころの広さを持てずにいることに、清太郎はきづいていた。
いや幸之助は、年少であったころ、美しいこころをもった女性を求めていた。
それ故のキャンパスの激しい雨の中の彷徨であったはずだ。
それが、今、日本の制度に慣れ始め、女性をかろんじているかのようなその姿勢に、清太郎は怒りをあらわにしたのだ。
十五歳の少年に一体何ができたと言うだろう。
少年のこころは美しい詩に満ちあふれていた。
いんばいを嫌う性質を何故か彼はもっていて、裸の女の写真をみるたびに、その思いはおぼろげな冴子の写真と二重写しとなっていたことに、幼いなりに彼は感知していた。
冴子は何度となく自殺をほのめかしていた。
冴子にとって、大学も知り始めたばかりの世の中も、つらいことばかりであった。
それまで、冴子は幸せを知らなかった。
学問をつんだ冴子には、社会がみにくく歪んで写っていたし、また、その事実が、冴子を陽一へとかたむけさせた。
陽一は誠実な男であったので、結婚を考慮にいれた女性は同じ大学の冴子ではありえなかったことが、彼女にたいし愛を抱いたそのこころより、苦しんだ。
「冴子、愛だけでは人は生きてはいけないんだ。ぼくは将来、官僚となる。わかってくれ。僕には、
良妻賢母となってくれる女性を選ぶしか道はないんだ。」
陽一のこころからの告白に、冴子は生まれて初めて性交渉という行為を抱き、そしていたった。
十九歳の冴子と二十一歳の陽一の、お互いにはじめての行為は、無我夢中の没我であった。

不安定だった冴子はその時はじめて自己の肉体を知った。
冴子は陽一を知るまで自己の生がわからなかった。
自分が女であるのか、男であるのか、それすらもわからなかった。
ただひたすら、不安の連続の毎日であり、キャンパスからあしが遠のいた。

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