朝は 夢見ごち

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★「桃色に染まる肌の…イレズミ」


 それは、最初で最後の、リリノエとのバス・タイムだった。

 7歳のボクは、寒くなってきた秋の終わり、リリノエに誘われた。

 「あんた、お風呂で、シャワーしかしてないんだって?」

 (シャワーしか…)と言っても、ハワイの施設では、それが当然だった。

 どうしてなのかわからないけれど、シャワーのお湯は「5分間」だった。

 だから、からだ中にシャンプーをあわだてていた仲間は、お湯が出なくなって

 ボクのスペースに駆け込んでくることが、よくあった。

 そんなボクを、リリノエは、お風呂に誘ったのだった。

 「お風呂の使い方・入り方・洗い方」を教えてくれて、

 「これがジャパニーズのやり方さ」とまとめた。

 ボクが湯船に入り、リリノエはボクに背中を向け、からだを洗い始めた。

 「それ」を見たときボクは、はっとして、お湯の中に、ぶくぶくと沈んだ!

 ピンク色づいたリリノエの背中に、「龍」がいた! 「虎」がいた!

 鋭い形相の「般若」(はんにゃ)が…いた!

 「驚いたかい? 18の時のイレズミだよ」

 リリノエは平気な顔で、そのままからだを洗っていた。

 真珠湾が12月に攻撃された時、リリノエたち日系二世は、ひとつにまとめられた。

 国籍はアメリカなのに、どのくらい流れているのかもわからない「血」で、

 勝手に決めつけて、「信用できない」というラベルを貼られた。

 そして、戦争が終った時には、両親は病死、妹は発狂して自殺していた。

 家も土地も、他人が住み込んでいて、どうすることもできなかった。

 怒りにまかせて彫ったイレズミを、後悔したことはない。

 死んでいった家族をいつまでも思っていられるから…と

 リリノエは言葉を終えた。

 「いいかい? あんたも、自分を捨てた者を憎んではいけないよ。

  それは難しいことでも、なんでもないよ。

  人間、こうして生きていることが(しあわせの素)なのさ。

  憎しみは、いっときは生きる力をかきたてる。でも、心をぼろぼろに

  するもんだ。心が暗くなると、神様でも手が出せないくらいに、

  悪に染まっていくからね。

  あんたの、そのふしぎな能力で、克服しな。

  出口をしっかり作ると、憎しみなんて、あっという間に出て行くよ」

 7歳で聴いた、このリリノエの言葉を、ボクは一生忘れない。

 これが、ボクの「心の設計図」となって、今のボクを育てたのだから。

 熱いシャワーをあびるたびに、リリノエの肌のイレズミを思い出す。

 それはだんだんと、湯気の向こうにかすみ始めている。

 もうそろそろ、リリノエの背中からそれを消して、思い出を浄化させても

 いい季節かもしれない。


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