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論文を提出して、完璧に開放された午後、ローマに向かいました。
Ryoのお墓に行くことと、恋人だったフランチェスカ、そして、Ryoが助けた
サッカー少年に会うためでした。
Ryoのお墓は、ローマ郊外の、大学を見下ろす丘の上にあります。
日本なら、お水とか、お線香とかでしょうが、ボクは、みんなで写した思い出の写真と
ドイツに来る前にみんなにあって録った、親友だった人たちの「声」のCDを
持って行きました。もちろん、大学院に進んだ小夜香の声も入れてありました。
まだリンとして寒い丘の上で、一緒にCDを聞きながら笑い、十字架の下に眠るRyoに
話しかけ、昔話を少しして、そこを後にしました。
★フランチェスカは、フィレンツェの近郊に両親が住んでいるので、今はその家にいると
聞いていました。
(ふつう、別々に暮らすのが、イタリア式なのに・・・)と思いながら、ドアノッカーを
ならしたボクは、Ryoが言っていた言葉を、あらためて思い出したのでした。でも、手遅れ。
真っ先に飛び出してきたフランのママに、思い切り、ハグされてしまったのです。
(フランのパパの話だけど、ママがテレビの前を横切ると、完全に画面が隠れてしまうらしいよ。
お尻でさ。だから、ハグされる前に深呼吸して、酸素をたっぷり吸っておくんだ)…って。
ハグされてからそれを思い出した時は、もう遅かった。パパをしのぐ巨体に包まれて、
あぶなく窒息死? するところでした。
少しフラっとしながら握手をすると、パパが後ろから出てきて、笑っていました。
二人とも髪が白くなり始め、シワも増えたかなってカンジ。
でも、挨拶(あいさつ)はひととおり終わったし、おみやげも渡したのに、フランが出て
こないのです。パパもママも言わないし、どうしたのかと思って、彼女の名前を口に出しました。
二人は顔を曇らせ、小さくため息をつきながら、裏庭に続くドアを開けてくれました。そして、
言ったのです。
「会ってやってください。お互いに、分析医同志。きっと理解しあえると思います」
日本で言う、歯に、何かがはさまった言い方です。それに、なぜ、裏庭なのでしょう。
でも、その言葉の意味は、すぐにわかりました。そして、フランの異常さも・・・。
フィレンツェの冬は寒さが厳しく、住んでいる人にもこたえるというのに、裏庭のフランは
コートもなしで、しかも、裸足(はだし)! 薄めのジャケットの上に、シャツをまきつけて
いたのです。
そのシャツは、あちこちに茶色いシミが大きくあって、あまり、きれいではありません。
幼児が、自分のまくらや毛布に愛着を持つように、フランはそのシャツにほほをすり寄せ、
ときどき笑みを浮かべ、語りかけていたのです。
近づくうちに、鮮やかによみがえったRyoの記憶! そのシャツは、事故のとき、
Ryoが着ていたもの! 血で真っ赤にそまったあのシャツのRyoを、フランは抱きしめ、
彼女に励まされながらRyoは、その腕の中で息を引き取ったのでした。
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