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 『クーニャン、りりしいイケメンを選ぶ』


 エリカが恥ずかしそうに耳に告げたことを、店長はうなずきながらきいていた。
 訂正はひとつもなかった。
 ・・・ということは、すべて、正解? 

 あそこのかたちやフンの太さ、ほほのおひげも?

 小さい子の動物相手に話すのは、すべてが「想像話」、
 全部その子の思いつきから出てる。
 
 人形も、花も、空も、海も、それを相手にすることで生まれてくる、
 その子の発想の豊かさ。

 でも、「次亜塩素酸・・・」にしても、金魚が「中国生まれのメス」だってことも、
 金魚の「オス」だけを選んで、クーニャンにお伺いを立てるのも、
 それをはるかに越えている。

 わたしにはわからない。だから・・・

 「そういうものなんだ、エリカって女の子は」

 と思うことにした。

 確かに、2,3歳の頃のエリカのように

 「どうして?どうして?」

 を連発したい心境だけれど、エリカには、まだ、
 大人のわたしの質問ぜめに対抗できる理性も体力もない。

 親がわが子を威圧してどうなる? ねえ。 

 親のおしつけの権威なんて、こどもが体力や強い言葉を身につけたとき、
 簡単に崩れる。

 それよりも、こどもの心に、雪のように降り積って、尊敬と一緒に
 そこはかとない威厳を思う気持ちが育つなら
 それが一番自然で、普遍のものだろう。

 わたしがそんな思いを巡らせているうちに、「クーニャンのお見合い」は
 終わっていた。

 店長がエリカの選んだ、いえ、クーニャンが選んだ

 「りりしい、一番おひげの立派なイケメン」を

 「ホーム」の中で泳がせたらしい。

 二匹は完全にお互いを認め、ずっと昔から友達だったように
 泳ぎだしたという。ここに、めでたくカップルが誕生した。

 店長がしきりにエリカを勧誘している。中型のプラスチックの池と、
 それを加工する人口の石セット。
 
 たまごを産みつけるための「水草」のたばを、次々と夫に渡しながら・・・。

 「ねぇ、エリカちゃん、大きくなったらさ、このお店でアルバイトしない?
  お魚と話せる女の子なら、バイト代は3倍出すからさ」

 『いいですよ。大きくなったら、ですね』

 5歳にしてバイトのスカウトをOK? エリカって、大人受けが最高にいい。
 わたしの子供時代とは大違いだ。

 (えっ? なに、これ? 池、作るの?)

 そこで、わたしはやっと目が覚めた。ここはお魚専門店「フィッシュランド」。
 金魚のクーニャンの結婚相手を探しに来たのだった。

 「ねぇ・・・池、作るの?」

 わたしは夫に近づいて、そっと聞いた。

 「ああ。エリカが言ってただろ? クーニャンの結婚、クニャンの引越し・・・って」

 あ、そうだった。結婚したら、新しいおうちで暮らしたいって、
 クーニャンがそう言ってるって!

 池を持ったまま、レストランに入るのは難しい。こんなことは計算外だった。

 しかたがない。オープンカフェで軽食をいただく。

 そのあと公園のベンチでアイスを食べ始めたとき、エリカが叫んだ。

 「いやだぁ、もう・・・。ママ、持って! わたし、もう知らない。クーニャンなんか」

 え? ええっ? なに、絶好宣言なんかしてるの? 親友同士だったのに。

 「どうしたの、エリカ。仲良しを見捨てるの?」

 『だって・・・静かにして! 指、入れないで! 

  わたしたちをふたりにして! 話をきかないで!

  そう言って怒ったんだよ。もう!』

 嫉妬、なの? エリカが嫉妬してる? エリカの心に「嫉妬」が生まれてる。

 わが子が成長するのを目の前で見られるのは、こんなうれしいことはない。
 それが「心の成長」だったときは、100倍うれしい。

 「なんだよ・・・エリカが腹を立ててるのを見て、うれしそうじゃないか」

 それに気づいて夫が笑いかけてきた。

 「そうよ〜、すごくうれしい。エリカが2歳のとき、(昨日・今日・明日)の時間軸が
  彼女の中で明確化したとき以来だわ。ついさっきまで

 (あした、パン、たべたよ)とか

 (きのう、こうえんに、いこうね)って、まるでおかしな言い方をしてた。

  でも、その瞬間、顔つきが変わって、こう言ったのよ。

 (きのう、パン、食べた?・・・あした、こうえんに、いくの?

 わたし、みんなが見ている前で、ぼろぼろ泣いた。
 
 エリカが(昨日・今日・明日)の意味を悟った、その瞬間だったんだもの」

 「母親には・・・かなわないな。オレが唯一自慢できるのは、
  エリカの初オナラだもんな」

 「あっ! 初めてでっかい夫婦げんかしたときだ! 

  わたしが買い物に出かけたとき、エリカの初オナラの現場にいたのに、
  録音しなかったんだもの」

 「それって、無理だって言ったのに、マイクをお尻にとめておけば
  いいでしょうって、すごい剣幕だったよな」

 「そうよ。次にオナラしたときは、あるのは悔しさと腹立たしさだけ。
  本当に悔しかった」

 「忙しい、とか言って、食事は、お茶漬けときゅうりの漬物だったよな。
  力が出なかったよ」

 昔をなつかしんでいると、エリカが歩き出した。池をかかえて、ふらふらと。

 『ママ、パパ! 帰りますよ! 帰ってすぐにお池を作ります!』

 怒ってる。クーニャンを家から追い出すの?

 これはけっこう長引くかも。

 エリカは「への字口」。

 夫婦は「ニヤニヤ」。

 おかしかった。



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