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★「クリスマス・イブの雪…(1)」


 以前は、沖縄にも、雪が降ったと、歴史好きのオジから聞いた。

 ハワイにも、雪は降る。高い山は数千メートルを越えるのだから、

 あたりまえ。でも、あたりまえでも、「降った」とそれだけ。

 雪で遊んだことのないボクは、ひざ以上に積もった雪を見て、

 どうしたらいいのかわからないで、くすぐったいような、おかしいような

 ふしぎな感覚がしていた。…日本に来て、初めての冬だった。

 『リリノエ…? お空から…ゴミが落ちてきたよ?

  ちこっと、ひやっと、冷たいよ』

 それが、くびすじにあたった雪の、最初の感想だった。

 みんなが(ゴミだって…)と笑う意味がわからなくて、一緒に

 苦笑していた。

 「ほら、行って遊んでおいでよ」と、リリノエが言う。

 「あの人がRyoと一緒に、大きなクリスマス・ツリーを作るからさ」

 その声が聞こえたのか、Ryoが笑顔で(来い)と手招きする。

 クフレイナニは何も持っていない。Ryoは手に、40cmはある

 「金色の星」を持っていたのだけれど…。

 用意された新しいブーツをはき、手袋をはめて外に出る。

 ボクが出てきたのを見て、Ryoは、大きな松の木に上り始めた。

 家から、厩舎(きゅうしゃ)から、牧場を囲む全部の「通り」からも見える、30mの松。

 Ryoは、とっても平気な顔で、5m、10m、20mと、少しも休まないで

 とうとう枝先まで上った! 30m・上空の・Ryo!

 彼はそのころ、クフレイナニに鍛えられた「サバイバル術=格闘技」で

 からだは、見える以上に筋肉質で、親指だけで「倒立歩行」…逆立ちしたまま

 歩くことができたし、暴れる牛を両腕でしめつけて静かにさせたりもして、

 ボクは、あこがれとためいきとで、目を輝かせていた。

 Ryoは、わざと自分で細い枝をゆらせ、その「ゆれ」にからだをあわせて

 楽しんでいたけれど、思い出したように、持っていた「金色の星」を

 先端に取りつけた。

 こうして、30mの鮮明な緑の木は、「クリスマス・ツリー」になった。

 その年、まだ小さかったボクは、初めての、豊かなクリスマスを過ごすことになる。



★「桃色に染まる肌の…イレズミ」


 それは、最初で最後の、リリノエとのバス・タイムだった。

 7歳のボクは、寒くなってきた秋の終わり、リリノエに誘われた。

 「あんた、お風呂で、シャワーしかしてないんだって?」

 (シャワーしか…)と言っても、ハワイの施設では、それが当然だった。

 どうしてなのかわからないけれど、シャワーのお湯は「5分間」だった。

 だから、からだ中にシャンプーをあわだてていた仲間は、お湯が出なくなって

 ボクのスペースに駆け込んでくることが、よくあった。

 そんなボクを、リリノエは、お風呂に誘ったのだった。

 「お風呂の使い方・入り方・洗い方」を教えてくれて、

 「これがジャパニーズのやり方さ」とまとめた。

 ボクが湯船に入り、リリノエはボクに背中を向け、からだを洗い始めた。

 「それ」を見たときボクは、はっとして、お湯の中に、ぶくぶくと沈んだ!

 ピンク色づいたリリノエの背中に、「龍」がいた! 「虎」がいた!

 鋭い形相の「般若」(はんにゃ)が…いた!

 「驚いたかい? 18の時のイレズミだよ」

 リリノエは平気な顔で、そのままからだを洗っていた。

 真珠湾が12月に攻撃された時、リリノエたち日系二世は、ひとつにまとめられた。

 国籍はアメリカなのに、どのくらい流れているのかもわからない「血」で、

 勝手に決めつけて、「信用できない」というラベルを貼られた。

 そして、戦争が終った時には、両親は病死、妹は発狂して自殺していた。

 家も土地も、他人が住み込んでいて、どうすることもできなかった。

 怒りにまかせて彫ったイレズミを、後悔したことはない。

 死んでいった家族をいつまでも思っていられるから…と

 リリノエは言葉を終えた。

 「いいかい? あんたも、自分を捨てた者を憎んではいけないよ。

  それは難しいことでも、なんでもないよ。

  人間、こうして生きていることが(しあわせの素)なのさ。

  憎しみは、いっときは生きる力をかきたてる。でも、心をぼろぼろに

  するもんだ。心が暗くなると、神様でも手が出せないくらいに、

  悪に染まっていくからね。

  あんたの、そのふしぎな能力で、克服しな。

  出口をしっかり作ると、憎しみなんて、あっという間に出て行くよ」

 7歳で聴いた、このリリノエの言葉を、ボクは一生忘れない。

 これが、ボクの「心の設計図」となって、今のボクを育てたのだから。

 熱いシャワーをあびるたびに、リリノエの肌のイレズミを思い出す。

 それはだんだんと、湯気の向こうにかすみ始めている。

 もうそろそろ、リリノエの背中からそれを消して、思い出を浄化させても

 いい季節かもしれない。

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