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「エリカの質問箱」
★終わったと思ってたエリカの「な〜に?」が復活した。
ちっちゃいときの「どうして?」ではなく、言葉そのものの質問。
今日のは「しあわせぶとりってな〜に?」だった。
ただ質問してるというより、わたしの目を見ながら、何回も問いかけ
わたしの目が「Yes」と言っている(らしい)から、また質問する。
そんな感じ。わたしの目はコンピューターか。
「しあわせになるとふとるの?」
「パパは、しあわせだから、ふとってる?」
「じゃあスノーホワイトもシンデレラも、結婚してふとった?」
「エリカはやせてて、ママもどうしてやせてるの?」
「ダイエットしてる人は、しあわせにあきちゃったの?」
答えようと口を開けると次の質問が飛んでくるから、答えられない。
「イエス」「ノー」なら答えも簡単だけど、エリカの質問は
結構鋭くて、答えに詰まる。
わたしが金魚みたいに口をパクパクしていると、
「…そうなんだ…」と勝手に理解して、質問をやめる。
残されたかわいそうな母親は、軽いめまいの中に取り残される。
だから最近、なんだかぐっと疲れてる。
★でも、質問タイムは、少しの間本人が休憩するだけで、すぐに復活。
「しあわせぶとりって、ホントにいいことなの?」
そう言いながらカップのうどんをグイと突き出されても、母は困る。
「うどんと幸せ太りの数学的解析」なんて、わたしの頭には、ない。
「お湯を入れてから聞いたでしょう? だからうどんがのびたの」
うん? もしかして、うどんがのびたのと幸せ太りの関係って、
エリカ、それってパパに失礼じゃない?
「いつもはとってもおいしいのに、のびてふとったら、おいしくない。
スープまでまずいの。それって。そのままほうっておいたから
しあわせが時間ぎれで…だから、ふとったんじゃない?」
なになに、幸せが時間切れで、効力を失ったから、夫を太らせた?
100%「NO!」と言えないところが辛い。
★夕食の用意が終わると、エリカは壁のスイッチを押す。
いまごろ、診察室の壁いっぱいに、花火のようにハートマークが
輝いているのだろう。
理科の時間に発光ダイオードのランプ実験をしたと言って、
金魚の貯金箱を持って模型屋さんに走った。もちろん、エリカが。
わたしじゃなくね。そして。診察室を飾った。
きれいなので、けっこう人気なのだけど、エリカのひらめきは、
とどまることがなかった。
自分の口座からお年玉分のお金引き出し、ソーラー電池を買った。
無線の発信・受信機も手に入れて、そのスイッチを冷蔵庫の横に
取り付けた。
診察室の「花火」は、まるで迷路の中の七色ドミノ。
エリカは点滅にあわせてメロディも流そうとしたのだけれど、
さすがにそれは夫に止められた。でも、夫が近くの水族館に往診に
行っている間、ナースたちとそれを実行し、大いに盛り上がっていた。
ひとつ、楽しいことを見つけると、それを実行する。実行しながら
探究心をフル稼働。次の楽しいを追求する。
この子は、そうやって、「次のステージ」を自分で整える。
そのステージで成功をつかむと、次のステージが開くことを
本能的に知っている。うれしいけど、少しさびしい親心。
★夕食の時間を少し過ぎて、夫が水族館からもどった。
「エリカ! 明日の日曜日、バーベキューパーティをするぞ。
ママ、ほら、後輩の水野、特救隊の…、あいつ出世して」
「トッキュウタイ? とっきゅうのタイ?」
話はそこで中断。エリカのひとみが怪しく光ったから。
娘よ。それは「鯛(タイ)」の仲間じゃない。人間の特救隊員のこと。
なんだか不気味な? ものを感じて、夫婦は娘を見ながら固まった。
・・・・・ ・・・・・
それは、きっと、「エリカの質問箱」じゃない。
「ママの思い出の小箱」。
オルゴールや宝石箱を開けたときみたいに、キミの笑い声と
謎言葉が飛び出す、ふしぎの小箱なんだろう。
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