朝は 夢見ごち

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★リリノエが元気だったころ、しばらくいっしょにこの家で過ごした。

 隣に並んで、紅茶を飲みながら、彼女が思い出し笑いをするのを待つ。

 話の中に登場するボクは、決まって「こども」で、やんちゃで、変な子で

 リリノエたちを驚かせたり、笑わせたり・・・する。

 語られる記憶が、ほとんど『過去形』なのは、彼女が、全身に転移した

 悪性の腫瘍に、自分の明日が消えていくさびしさのため。

 こども時代を思い出して、そのやんちゃな生命力を話すことで、

 なんとか気力をふりしぼっていたから・・・。

 そして、最後は必ず、ボクがひとり、置き去りにされた修道院の話になる。

 おそらく母が、寒くないようにバスケットの中を、ふわふわに温かく

 してくれていたから、ボクは、潮騒を子守唄にして、夜明けを迎えた。

 母の計算では、夕方のお祈りのあと、裏口を点検するシスターが

 ボクに気がついて、無事に保護される・・・そのつもりだったのだろう。

 でも、その日は、他教区や近隣諸国から、主だった指導者たちが集まる、

 大きな行事があった。

 忙しくしていたシスターは、その日に限って、裏口の見回りをしなかった。

 そして、ボクは、海風にさらされて目を覚まし、まるで「魔の飛び交う」ような

 明け方の不気味な空に、驚愕した。

 あたたかな腕に抱かれていたなら、怖さなどすぐに消えただろう。

 でも、そのとき、母は・・・いなかった。

 抱きしめられないさびしさの中で、恐怖を感じた幼な子は、必死に

 その状況に意味を与え、生き延びようとした。

 そんな孤独な闘いの中で、ボクの心は壊れ、明け方の不気味さを見ると、

 からだがふるえ、足がすくみ、めまいを起こすようになっていた。

 それに気づいたリリノエは、夫・クフレイナニに相談し、若いときは

 いのししを狩り、格闘家を目指していた彼を動かした。

 ボクは、少しの間、サバイバルの技術を教え込まれ、知らない場所の夕方の森に

 ひとり置き去りにされた。水も、食料も、キャンプの道具もない、ナイフ1本の森…。

 すべては自分で整える。

 フキを見つけて{水・野菜}を確保、フキは組み合わせ方を知っていれば、

 簡単なテントになり、ベッドになった。それで、雨や露をしのいだ。

 昆虫が、コーヒー味とか、おすしのトロ味がすると言ったら、

 信じてもらえるだろうか。

 恐怖は、自分で闘って乗り越える・・・そんなことをからだで覚えさせられた、

 信じられない小学生時代だった。

 あとから教えられたことだけれど、リリノエが夫に進言し、クフレイナニは

 もちろん、忍者のような山の男たちに、夜通しボクを交代で見張らせていたという。

 ふたつ、みっつの山を支配する、きこりたちの頭領がクフレイナニで、

 その夫や山の荒くれ男たちをアゴで使う…それがリリノエだった。

 気迫が違う。戦争で心傷つき、家族の死を乗り越えて、ひとりで生きた女傑。

 背中に般若と竜虎のもんもんがあった。

 ・・・

 そんなリリノエが、思い出話に、楽しそうに声をたてて笑う。

 ボクの話をして元気を奮い起こしながら、かつての、若かった自分を想い、

 なつかしさと切なさを・・・感じていたのかもしれない。



 

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★「自分の中に…良いものを、流す?」

 リリノエがボクの言葉を、ひとつずつ、噛むように繰り返した。

 「それは…気持ちの、コントロールのことかい?」

 『うん。気持ちが生き生きしてくるような、ね。

  でも、コントロールというより、自動でスタートするものだけど』

 「Auto Run・・・なのかい。malie …それは良いね。

  それで…あんたの顔が、起きた瞬間に輝くわけがわかったよ。

  こどものころからの謎だったからね」

 ハハハ…。精神年齢はこどものまま?

 エンジンをきって止まっていたレーシング・カーが、いきなり走り出すような

 そんな飛び起き方だったと、リリノエが笑った。

 確かに、目が覚めたとたん、着替える時間もおしんで、外に飛び出していた。

 毎日、毎日が新鮮で、風景も、太陽さえ隠れる一面の霧の中に走り出していた。

 濃い霧を通して、かすかに伝わってくる太陽のあたたかさ。

 死の使いのように、地面を這いながら近づき、足元でゆれている、霧。

 牧場のあちこちから聞こえる、牛や馬やヤギやにわとりの声。野鳥の声。

 クフレイナニが吹く、オカリナの音色…。

 台所から聞こえる、お手伝いさんたちの笑い声、調理する音。

 いきなり飛び出したボクを、ガラス越しに見ているリリノエ。

 きっと、コーヒーカップを手にしながら、あきれて苦笑している…。

 そんな、いろいろな熱や音や光を感じながら、そこに立っていると、

 その全部がボクの中に入ってきて、ボクを元気に、わくわくさせた。

 それは、快晴の朝も、嵐のときも、吹雪の早朝でも変わらなかった。

 「あんたは本当にふしぎな子だよ…。こどもって、そんなだったかねぇって

  孫たちとの違いにとまどうこともあった。

  髪や目や肌の色の違いをからかわれたり、嫉妬されてバカにされたりしても、

  文句ひとつ言わないことにも驚いたけどね。

  最初は…なんて弱虫なんだ・・・と思ったけれど、あんたの顔を見てすぐに納得した。

  言い返せないんじゃなくて、まったく気にしてないんだってね。

  今日をあきらめて目覚めない。まわりのすべてから元気をもらってる…。

  自分の中の元気と呼応して、元気が増幅していく感じだったよね」

 ・・・

 そう。リリノエは最高の理解者。

 あきれながらも、外に飛び出すボクを笑って見ていた。

 だからボクは、今朝も、今日をあきらめていないかを確かめ、

 みんなと「元気」を交感し、喜びをもらっている。

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★山の端に夕日が沈みそうな時間。静かに変化する「海の空の色」に

 さそわれて、珍しくリリノエが丘を下りたいと言い出した。

 足が弱っていたリリノエには、斜面を駆け下りるマネはできない。

 数百メートルを遠回りさせるのも…めんどい。

 カメラをあずけ、家まで走り、段ボウルを持ってくる。

 「なんだい? これで、すべり下りろっていうのかい?」

 と言うわりには、目が輝いている。

 「この年寄りを粗末に扱うのは、あの人と、あんたくらいなものだ。

  それがうれしいけどね」

 ナギナタやサーフィンでからだを鍛えてきた女傑(じょけつ)。

 腰をかがめるのがたいへんなのは、活動を開始したガン細胞のため。

 でも、リリノエは、さっさと駆け下り始めたボクの横を、歓声をあげて

 すべっていった。

 先に浜辺に下りて、あとから駆けつけたボクを振り返り、「夕日」と

 目が合ったらしい。

 ちょっと感動して、「家をここに建てたのは先見の明の人だよ」などと笑う。

 『‘oia paha,pela paha…』ととぼけると、(『たぶん・・・ね』…の意)

 「絶対そうなんだよ!」と怒るように言って、大笑いした。

 土地をここに決めたのは「彼女」。家を建てたのも「リリノエ」なんだから。

 朝日の説明しがたいすばらしさもそうだけれど、夕方の空の変化もきれい。

 夕日が去って、沈んだ太陽が照らす「空気」の色は、リリノエが言うとおり、

 本当に「澄み冴えたブルー」!

 リリノエはその「澄んだ青い空」を見上げ、目を細めた。

 その「青空」のずっと向こうに、何かを見つけたのか、ほほえんでいた。

 仕事の話も、世間話もなく、あるのはただ、「ふれあう気持ち」。

 それだけなのに、ふしぎと満たされた時間だった。

 他愛ないことだけれど、いつまでも心に残る「1枚の絵」だったと思っている。

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★その時々…季節、季節に現れる海の色は、本当に千変万化。

 リリノエは特にそれを喜んでいた。

 ハタチを過ぎたころに日本に帰ることを決め、それでも

 亡き両親、妹を置いていくことができなくて、ハワイの家を

 そのままにしていた。

 人生の半分以上を北国の山々で過ごし、海辺を離れたリリノエ…。

 久しぶりに刻々と変わる海の色を、揺りイスからながめて

 生まれ育った海を思い出していたのだろう。

 海が、千変万化の色に包まれるように、彼女の人生も

 さまざまな色に包まれてきたと思う。

 あの日の8時15分…。夏かぜをひいて、ひとりいた家で、

 雪子さんのおばあちゃんは、自分を包み込む現実が、

 次々と一色ごとに変化する、不気味な虹色にさまようのを見た。

 確かだと思っていた「今」という現実のあやうさ、美しさ…。

 自分のこれからがどんな色に包まれるのか、リリノエは

 目を細めながら夢見ていた。

 過去のほとんどが、思い出色に変わったのを楽しみながら…。

 ・・・

 リリノエが亡くなって驚いたことがふたつある。

 ひとつは、ボクがこどものころ、なれない日本語で話した言葉が、

 「語録集」として、リリノエの日記の中にあったこと。

 もうひとつは、リリノエとすごした時間が、思い出となって

 あちこちに残っていたこと。海に行くときに、山を歩くときに、

 ハワイの街角で、カナダの家並みの中に、彼女との何気ない会話が、

 ふうわりとかぐわしき香りとなって立ち上ること…。

 風に乗って、潮騒の音色に混じって、海の中で流れに身をゆだねているときに、

 それは顔を出す。

 世界は、Ryoと、リリノエと、Ryoママの香りで満たされる。

 ボクは、そんな香りに包まれて生きている。

 ・・・

 身近にいる幼子が、あなたの言葉、あなたとの思い出を香りとして、

 いつか懐かしむように、それによって、新たな感動を持って人生に

 歩んでいけるよう、きちんとそばにいてあげてほしいと思う。

 幼子が成長し、あなたという「親友」を、あなたという「日記」を

 開いて読み解くことは、この上もない喜びとなるのだから。

 その感動の中に、あなたはよみがえることができるのだから。

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★「男の子は…みんなそうなのかね」と質問系の言葉を使いながら

 リリノエはいきなり笑い出した。

 「いや、質問したとたん、答えがわかってね。

  クフレイナニ(夫)がそうだったね…。

  おかしいねぇ。自分で聞きながら、途中で答えがピンときたんだ」

 リリノエが笑うと、ボクも楽しくなる。

 「今度はきちんと質問するよ。

  高く、遠く、世界に飛び出していくのはいいよ。

  じゃあ、家庭はどうするんだい? 誰が守る?

  奥さんには、ずっと、自由をあげないのかい?」

 と質問して、リリノエはまた笑い出した。

 「ごめんごめん。この質問はセクハラに近いね。

  小夜香(さやか・Ryoの妹)だってNYにひとりで暮らしてるんだ。

  あの子も、世界を飛び回って、どうするのかね。

  夫に家庭を守らせるのかね…」

 リリノエは「男だから・女だから」という考えを、自分の頭の中から

 追い出そうとしていた。75歳を過ぎて、まだ「新しい自分」を

 知りたがっていた。

 でも、山で働く忍者みたいな荒くれ男たちをアゴで使い、友達に呼ばれると

 世界のどこにでもスッと出かけてしまうリリノエも、けっこう

 「すずめ」していると思った。

 質問しながら自分で答えに気づき、リリノエは何度も笑った。

 「おかしいねぇ…。してみれば、答えなんてものは、常に

  自分の中にあるのかもしれないねぇ。

  質問する気やそんな言葉が生まれるまで、待っているのかもしれないよ」

 ボクが「理屈っぽい」のは、リリノエに育てられたせいもあるのだろう。

 でも、いくつになっても、そんな哲学系の考え方をするリリノエが、

 ボクは大好きだったのだ。

 小鳥たちを見ていると、リリノエの笑い声が聞こえて、いっしゅん

 優しい気持ちになっている自分に気がつく。

 それも、小さな幸せと呼べるのだろう。


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