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★80歳に近くなったリリノエは、過去を話すのを嫌っていた。
でも、こどものころ、機会のあるたびに聞いていたから、
だいたいのことは知っていた。クフレイナニがこっそり
教えてくれたこともあったから、けっこう大変な青春だったことは
記憶していた。
戦争を体験したのだから、大変だったとは想像できる。
アメリカ国籍なのに収容所に入れられ、妹が自殺して、両親が亡くなったのは
簡単には語ることのできない「過去」だったのだろう。
それは、自分が体験した「事実」なのだけれど、それを白日にさらすより
ぼんやりとしたシルエットの中に閉じ込めておく…。それくらいが
自分にはちょうどいい…と思っていたようだった。
けれど、ボクにはそれができなかった。
トラウマを克服するために、過去に何があったのか、その事実を
はっきりさせなければならなかったし、どんなに無意識の中に押し込んでも
真実はいつも顔を出して、ボクの気持ちをいらだたせていた。
何かのひかりがチラチラと目に入ってきて、ついてまわっていらいらするなら、
そのひかりの元を破壊する! そうしてしまうのが『ボク』だったから。
それは、リリノエとは正反対のようにみえるけれど、そこだけが違っているだけ。
そして、「過去」と対決することで、ボクは「過去から自由」になり、
リリノエは、そうしたくなかったから…というだけのことだった。
直接対決をしないで、いつまでもぼんやりさせたままにしておく…なんて
卑怯に見えるかもしれない。でも、違う。
牧師のオジが言うように、マイナスに見える生き方だけれど
心はそれで「バランス」を良くとっている!
いつまでも記憶にとどめ、忘れたくないからそうしている…。
そして、それで、落ち着いているのだから、良いのだろう。
対決するのもしないのも、実は、同じように「心のバランスをとる生き方」…
だなんて、心理学では習わなかった。オジは「信仰の人」だから、
普通の人が見てないものも、見えるのかもしれない。
「♪みんなちがって それでいい」・・・と歌えるのは、
自由な心の持ち主だからなのかもしれない。
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