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★「あのころあんたは、雲を見ながら、ひとりで笑っていたよ」
いきなり自分から先に笑いながら、リリノエが言った。
「あんまり楽しそうだったから、つい、きいてしまった。
何が見えるんだいってね」
ボクにはこどものころからヘンな(?)クセがある。
見るものから「顔パターン」を見つけること。
雲のかたちを見て、『ライオンがあくびをしてる!』とか、
『白雪姫が…くつ、はいてるね』…とか、言っていたらしい。
それは…そうやって、親に捨てられた夜の恐怖を乗り越えたのだ、と
リリノエは分析してくれた。
バスケットに寝かされて、修道院の裏手に置かれていたらしいけれど、
もちろん覚えていない。ただ、「夜明けの空」に恐怖を感じて足がふるえる…
それは、トラウマになっていた。
・・・
「このごろ思うんだよ。親が生きた年よりも、もっと長生きするとさ、
(父も、この年になったら、夫がするように、ティーカップで手を温めたかなぁ)
とかさ…。母も、あたしのように、腰をトントンたたきながら、背筋をのばして
空の美しさを見上げただろうな…ってね」
リリノエがそんな言い方をするときは、次に「大切な言葉」がくる。いつものこと。
「だから…さ。親っていうものは、こどもの、自分の中にだよ、生きてるものなんだ」
・・・
リリノエはそのあと、黙り込んで海を見ていた。彼女は、こう言いたかったのだろう。
『だから…親に捨てられたといっても、顔に、からだつきに、笑顔に、両親の特徴が
少しずつ生きている。あんたのふしぎなクセで、今度は自分の中に両親を見ることだ…』と。
ありがとう、リリノエ…。髪の色にも、目の色にも、きっと両親が生きている。
それに、感謝をもって生きていくことだ…と教えてくれたんだね。
いや、そこにとらわれすぎて、先へ進めなくなり、自分の人生を歩けなくなることを
心配してくれたのかもしれない。
そう。トラウマを克服するということは、それがトラウマだったことを「忘れること」!
誰かをゆるしてあげて、ゆるしたことさえ忘れるのが、自分らしく生きることだから。
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