海にふる雪・・・・ 空のぼる雲★

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 高校時代に書き始めた「育児日記」には、こう書いてある。
 
 1)からだをよく動かせる子にする。
 
 そのために、「ビー玉」「おはじき」「とびなわ」
          「石けり」「ゴムとび」・・・
 
 思いつく「昔あそび」の利用を、細かく書き出した。
 しかも、エクササイズにして、カリキュラムまで作ってある。
 
 もちろん、それを見つけたクラスメイトが面白がり、うわさが
 ひとり歩きして、「妊娠中」のレッテルを貼られた。
 校長室に呼ばれるというオマケもついた。
 
 注意を受けて腹が立ったので、「決めつける大人になるな」
 なんて、端っこにメモした。
 
 わたしは「おばあちゃんっ子」だった。だから、体力が弱って
 寝てばかりのおばあちゃんの部屋に、いろいろなものを
 運び込んだ。
 
 冬なのに、元気で働くアリさんたち。
 セミの抜がらに住み着いたダンゴ虫。
 
 「ふきのとう」や「タンポポ」。
 春夏秋冬の草花。
 
 性格って、困ったことにもなる。
 きれい好きのお母さんには、すぐに片づけられてしまった。
 
 話すのもやっとになったとき、わたしは出入りを禁じられた。
 からだに障るというのだ。
 
 からだに(触る)からいけないなら、おしゃべりするだけだモン。
 そう思って、こっそり忍びこんでいた、
 
 どんどん部屋が片づけられて、清潔になっていくのを、
 わたしはこわごわ見ていた。
 
 「じっと見てられないものがある、太陽と死と」。
 
 寝込んでいても、おばあちゃんは、やっぱりわたしの
 おばあちゃんだった。
 
 畳に正座している「借りてきたネコ」に、おばあちゃんは
 たずねたものだ。節をつけて。
 
 「これこれそこのおじょうさん…今日のお宝、なんですか」
 
 わたしの服は特注で、ポケットがたくさんあった。
 特注したのはわたしで、仕立てたのは、若いおばあちゃん。
 
 わたしは自慢げに「リスト」を提示する。
 ちっこいころは、何でもかんでも、畳の上にバラかしたけれど、
 「清潔に、礼儀正しく」というから、言葉だけにした。
 
 「アリさんのヨットの帆」(モンシロチョウの羽)
 「キリギリスさんの足、3本」
 「牛さんのヨダレの中でおぼれたケムシさん」
 
 おばあちゃんは静かに聞きながら、時々、声を大きく笑った。
 
 楽しくて面白いものがいっぱいあったのに、その日、
 おばあちゃんがリクエストしたのは、「洗濯バサミ」。
 
 ふしぎに思っていると、「すそにつけてごらん」。
 簡単、すぐスカートにつけた。
 
 「はずしてごらん」…サッ。簡単だ。
 「おそで」「前髪」「鼻」「くちびる」・・・どんどん難しくなる。
 
 「こんどは反対の手」・・・左利きだから、右手で
 
 「耳」「おしり」「エリ」「背中」・・・。
 
 それから「たなごころ」、「きびす」・・・。
 
 おばあちゃんは、わたしのこと、ちゃんと考えていてくれた。
 遊んでいたけど、勉強もしてたんだ。
 
 わたしは「洗濯バサミ」を「シール」に替えて、エリカと遊んだ。
 からだが柔らかいエリカは、絶対無理と思えるような背中の
 スポットでも、す〜っと手を伸ばして、わたしが貼ったシールを
 はがしたものだ。
 
 
 「イシケリ?」
 
 エリカが祝辞の腹ごなしに選んだ遊びは、小さい頃に教えた
 石けりだった。
 
 小2のエリカが知っていて、女性隊員の岡崎さんも
 知らない「昔遊び」。
 
 エリカのポイントをついた説明のせいか、いえ、特救隊員の
 彼らが持つ、鍛え抜かれた反射神経の勝利だろう。
 
 たちまち、石運びは、「足から足の甲へ」、そして、「膝」
 「太もも「背中」へと進んだ。
 
 要するに、相手が選んだ平たい石に、自分の石を当てる。
 言ってしまえば、それだけのことだ。
 
 ただし、手は使わない。「背中」に石を載せ、すべらせて当てる。
 当てるためには、相手の石に後ろ向きにならなければ
 いけないし、すべらせるスピードやコース調整も大切になる。
 
 あと少しで落ちるというとき、微妙にからだの向きを変えて、
 精度を高める微調整は、そう簡単に身につくものではない。
 
 エリカは考えて、このゲームを選んだのだろう。
 
 エリートの大人たちから、子供扱いの屈辱を受けることなく、
 対等に渡り合える。ゲーム運びで上手に闘えば、あるいは、
 勝てるかもしれない。
 
 「石けりなんて、古めかしいものを、いつ覚えたんだ?
  今時の学校は、こんなことも教えるのか?」
 
 「いいえ、わたしがシゴイタの。エリカは3歳の頃から遊んで
  いる。わたしの(育児予定表)通りにね」
 
 「あの、例の…。しかし、100発100中じゃないか。
   どうなってるんだぁ?」
 
 タネも仕掛けもない。からだで覚えたのはエリカ。
 そうできるように教えたのは、母。この「わたし」なのだ。
 
 昔遊びには、その時代を生きていた子供たちの体力と技術を
 支える力で溢れている。
 
 ゴム跳びだってそうだ。あんな高度なテクニックを、あの頃の
 子供たちは、平気な顔で身につけていたのだから。
 
 
 
 「エリカちゃんが決めていいよ、何かして、遊ぼ?」
 
 水野さんはエリカを気に入ったようだ。
 ご機嫌をうかがっている。
 
 隣の夫の表情がイマイチ。
 
 「何よ、ジェラシー?」
 
 「バカ言え…。しかし、なんだな、
  オレも普通の父親だってことだ」
 
 何よ〜、いきなりで、わかんない。
 
 「娘に近づく男には、殺意が湧くってことさ。
  それが、ハイハイする赤ん坊でも、ジジイでも」
 
 「あ〜、それ、わかる」
 
 「おまえも、殺意?」
 
 「違うわよ、こんな天使を前にして、なんてことを」
 
 「お前は今、オレの右にいる。前になんかいない。細かいけど」
 
 ハハハ…夫が嫉妬でおかしくなっている。
 
 「5年生の頃ね、家で自由研究まとめるのに、夏休みよ、
  たくさん来て、騒がしかった。なのに、ひとり減り、ふたり減り、
  三日もしないうちに…」
 
 「男がみんな消えていた、だろ?」
 
 「そうなの。どうしてわかった?」
 
 「お義父さんが挨拶をしたんだ、一人ずつ。強く、挨拶」
 
 「ビンゴ! 理由聞いたら、みんなそう言ってた」
 
 「ボクも言われたよ」
 
 おっ。(オレ)が(ボク)に変わった。
 
 今でもそうなんだ。
 父のことを話題にすると、言葉が丁寧になる。
 
 よほどに恐いんだ。
 
 「ボクも、挨拶されたからさ、強く」
 
 「ちょっと〜。脅しをかけたって聞こえるけど」
 
 「まさか、お義父さんに限って、NOだよ。
  だから強い挨拶、脅しより少し強めのな」
 
 そうか。父も、娘を愛してたんだ。少し「強めに」。
 
 だから、世界の娘たちは、早くに父親から独立する。
 そんな「愛の見守り」を、支配や干渉と誤解して。
 
 正しい誤解だけど、ね?

「虹色のジュース」

 
  エリカに話しかけるときには、音楽を流した。
 
 クラシック、童謡、ポップス、演歌、浪曲、色々聴かせた。
 
 最初は、楽しいメロディーを選んで、「楽しい童話」。
 
 スローな曲では「ゆったり、のんびり」話しかけ、
 「プラス思考」の明るい声で話した。
 
 喜怒哀楽の「喜と楽」を優先。「怒と哀」は、後回し。
 「プラス思考」で「喜と楽」。
 
 感情表現の基礎に「喜び」を定着させ、続いて
 「楽しいふんいき感じる心」、それを「楽しむ心」を
 持って欲しいと願った。
 
 次に「哀」を少し。
 悲しく、哀切な童話もたくさんあるので重宝した。
 
 「怒」の激しい感情は、童話を読み聴かせるとき、
 声を押し殺し、
 語気を荒げ、鳴き声になったり、わたしの声の強弱、
 抑揚で表現した。
 
 娘の表情に喜怒哀楽の分化が現れてからは、特に、
 声優のように読み聞かせた。
 ママはスターになりきっていた。
 
 手足に触れて話すのは、それが赤ちゃんの、
 一番得意な「ぴくぴく言語」、
 表現方法だからだ。
 
 
 これは、親子の会話の第一歩、「テレパシー言語」に属する。
 
 「すごいですね、計画の見事さ」
 
 「すごい、緻密」
 
 「しつけだけじゃなく、美しいですよ」
 
 そんな感想まで飛び出して、かなり照れた。
 
 そうだろう、確かに「緻密」。
 
 高校時代、授業中にも書き込んだ、「育自日記」だもの。
 
 母が褒められるから、視線は娘の方に行く。
 
 そんな視線は、どこ吹く風。娘はジュースで「色合わせ」。
 
 「七つのグラス」にひとつずつ、虹の色を閉じ込めて
 
 ひとり遊びではしゃいでいた。
 
 
 エリカが赤ちゃんのとき、心がけていたポイントは三つ、
 
 1)よく話しかける。
 2)音楽を聴かせる。
 3)触りながら手足を動かしてあげる。
 
 
 この三つ。
 
 もちろん(大人の言葉)で話す。
 それが言葉を早く正確に話させる近道。
 
 単語をたくさん覚えるし、子育ての早い段階で
 親子の会話が成立する。
 
 要するに、早く娘と話がしたかったから。
 
 生後6ヶ月頃には、エリカはすごいおしゃべりになっていた。
 
 それは「赤ちゃん言語」、
 
 腕を曲げて拳をふるわせ、足を曲げて、ひざをピクピクさせる
 あの得体の知れない「ケイレン」。
 
 弱虫のボクサーが震えて突き出す「届きもしないパンチ」。
 そう呼んでも過言じゃない「ぴくぴく言語」だ。
 
 気がつかなければ
 
  「早くお話覚えてね」とつぶやいてわが子をがっかりさせる
 ような「ぴくぴく」だ。
 
 胎児は妊娠6ヶ月前後で近くの音を拾う。
 
 母親の声はもちろん、からだを寄せて囁く父親の声も。
 「赤ちゃん言語」を使い始めるまでに、言葉に接して
 すでに1年半が過ぎている。
 
 
 「ぴくぴくパンチ」や「キック」なら、胎児の時から、十分
 練習済みなのだから。
 

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