錯乱気流

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音楽徒然草

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思春期の頃、学校の図書室で見つけた作曲家ロベルト・シューマンの伝記を読んで激しく心を揺り動かされたものだ。シューマンは、ドイツロマン主義を代表する作曲家である。ロマン主義の何たるかは、文化思想史の書物を読んでいただくとしても、便宜上、かいつまんで言えば、個人や人間の内的感情を主題にした芸術的潮流で、産業革命以降の近代化に対するアンチテーゼとしての側面を持っていたと言えると思う(世の中、システム化しすぎて堅苦しくなると、内面をぶちまけたくなります)。文学で言えば、ゲーテなど、一応ロマン主義ということになっている。そういえば、中学2年生の時、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」を読んで、これまた激しく心動かされた。成就しない愛と、ウェルテルのややナルシスティックな「悩み」が、たかだか14歳の子供にも妙に腑に落ちるものがあったのである。モンゴメリの「果樹園のセレナーデ」という、今思えば聊か気恥ずかしくなるような純愛ものも、あの当時はなかなか心に沁みた。武者小路実篤の「友情」など、最後の一ページを何度も読んで、「君にもらった、ベートーヴェンのマスクは石に叩きつけた。・・・僕は、これからこの淋しさに耐えていかなくてはならないのか。たった一人で。神よ助け給え」と、ふられた男の心の叫びのような台詞を暗証できるほどになっていた。

注(こう書くと、いかにも内省的な読書少年だったかのように聞こえるかもしれないが、記憶している限り、私が中学時代に呼んだまともな書物は後にも先にも、以上の4つである。カフカの「変身」も読んだが、あれは高校時代だったと思う。そう、グレゴール・ザムザが虫になるやつです)

話をもとに戻す。シューマンである。彼は、当初ピアニストを夢見て、当時ドイツで名教師と謳われたフリードリッヒ・ヴィークの下で修行を重ねたが、無理な練習がたたって指を故障し、ピアニストの道を絶たれた。しかし、ロベルトは、ヴィークの娘クララに激しい恋慕の情を抱くことになり、その気持ちをクララに打ち明ける。時に、ロベルト20歳、クララ10歳。今ならロリコン野郎と呼ばれかねないが、そこはほぼ200年前の話である。クララは成長し、天才ピアニストとして将来を嘱望されるほどの存在になっていった。やがて、ロベルトはクララに求婚するのだが、そのことを知ったクララの父親ヴィークは激怒。父親としては、有能なピアニストであったクララの演奏活動を財政的に援助できるような、富裕な人物を、クララの伴侶にと考えていただけに、駆け出し貧乏作曲家のシューマンに娘を奪われるようなことは耐え難く、あらゆる手段を使って娘とロベルトの結婚の妨害をした。しかし、クララとロベルトの結婚への意志は堅く、彼らはついに法廷闘争の末に勝利し、結ばれることになる。

つまり、そういう純愛を絵に描いたような構図が、思春期の少年の心を揺さぶったわけである。これで、意外とロマンチストだったわけだ。結論から言えば、ロベルトとクララは悲劇の最後を迎える。晩年ロベルトは、ライン側に身を投げ自殺を図るなど、著しい精神失調を来たし、最後は精神病院で息を引き取る。精神病院に収容されてからは、クララも面会できないような、隔離された状態に置かれたようだが、1856年ロベルトは46年の生涯を閉じる。シューマンの精神失調は、母方からの遺伝だという説や、娼婦から感染した梅毒が原因であるとか、色々言われている。娼婦と梅毒というと、ロマンからは、かなり縁遠い話のように思われるが、当時の芸術家の多くが−例えば、ベートーヴェン−梅毒にかかっていたことが知られている。ロベルトの死後、クララは、ヨハネス・ブラームスと、単なるお友達以上の関係になっていたことが知られているが、ブラームスは師シューマンの未亡人に恋慕の情を抱きつつ、結局それを口に出しては言わなかった、ということに一応なっている。故に、彼らが結ばれることはなかった。ただ、クララは、ブラームスに初めて会った時の印象を、「神の手によって送られてきたような人に、また一人出会いました」と、日記に書き残している。

シューマンほどロマン的な「情熱」を、感じさせる作曲家もそういない。そんな彼の代表作として、ピアノ曲「幻想曲作品17」を挙げておきたい。これは、シューマンが、ヴィークとの確執から、事実上クララに近づくことを禁じられていた時期に書かれた、クララに対する想いが凝縮されたような作品で、この時期の、否、ピアノ曲の歴史上、最高峰に位置する作品と言いたい。特に、第一楽章に聞かれるパッションの充溢には、何度聞いても心打たれる。クララへの想いが音になった作品だが、表向きはリストがボンにベートーヴェン記念碑を建てるための資金集めのための作品を募集していた関係上、そのプロジェクトの一環として書かれ、リストに献呈されている。後にリストは、その返礼として、これまたピアノ曲史上に残る大作「ロ短調ソナタ」を書き、シューマンに献呈している。いずれにせよ、このような曲は−どんな曲でもそうだが−演奏が悪いと話にならない。これほどの作品と対峙するには、演奏者にもそれなりの「技」と「格」が要求される。そういうわけで、私が考えるシューマン「幻想曲作品17」の現時点における最高の録音として、アメリカのピアニスト、マレイ・ぺライアによるものを挙げておきたい。イタリアのピアニスト、マウリッツィオ・ポリーニも世評は高く、甲乙付けがたいが、私は前者のほうが好きだ。

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