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10月26日に、渋谷で「麻生さんの家を見に行こう」という企画をたてた面々が、警官にしょっ引かれるという、最近この国でよく見られる事件が発生した。これは、格差問題や非正規雇用問題を訴える労働組合や市民グループが、渋谷の明治公園などで定期的に行なう集会の別企画で、私の周りにも、こうした集会に参加したり、雇用問題で、司法の場で戦っていたりする方々が少なからず存在する。かく言う私も、大学人と言いながら、実は非正規雇用であるから人事ではない。いや、個人的には、別に麻生氏の邸宅に興味があるわけではない。資本主義国家だし、腐っても自由主義国家だから、個人がどのような家に住もうが、そいつの勝手だろうし、彼が資産家なのは、彼個人の責任でもなく、そもそも、資産がある事自体は罪ではない(否、「罪だ」という人もいるだろうし、そのあたりは色々理屈があるとは思うが)。 しかし、ここでの問題は「逮捕」ということにある。この企画自体は、所謂デモではなく、まあ、そぞろ歩いて麻生宅まで出向こうとしたわけで、経路と方法の説明を警官には行い、概ね了承を取り付けた上での行動だったが、私服の公安が、突如「公務執行妨害」をでっちあげ、関係者をふんじばった、とまあ、これが事の顛末である。もちろん、最初から逮捕覚悟でやる集会もあって、そういう場合は、双方に怪我人が出ないように、しょっぴかれる側も「しょっぴかれ方」の練習など事前にする。非暴力は一日にして成らずである。だが、反貧困闘争系の集会にあっては、しょっぴかれるのは最初から目的ではない。 テレビでは「無届デモ」などと報道され、事の背景などにはほとんど言及がなされず、たまたまニュースを見ていた私や妻などは、絶句したわけだが、こうした類の反貧困集会には、政治的にはかなり右よりの若者も「雇用」をキーワードに、少なからず参加しており、基本的には超党派である。それにしても、政治権力は、かなり貧困問題に関しては神経質になっており、今回の一件などはその表れかもしれない。現今、政局を左右する一大問題は、ミサイルでも何でもなく、経済であって、これは太平洋の向こう側のAで始まる国も同様である。戦後間も無く「天皇の台所拝見」騒動というのがあって、公安の古い面々なら、そのあたりも頭にあったかも知れない。届け出たデモではない場合、プラカードやのぼりの類を掲げるのはご法度ということだが、一定の目的意識のもとに集まった集団だから、ビラやプラカードの類は一応携帯しているだろう。国会前の抗議集会が終わって引き上げる途中に、「のぼりを降ろせ!」などと怒鳴る警官がいるけれど、のぼりを降ろせば、通行人の邪魔になるから取りあえず立てて歩くのである。 さて、何より問題は、最近「しょっぴかれる」対象がどうも広がりつつあると言う事実である。要するに、国家権力側の体制批判に対する許容性が極めて低くなっているということだ。集合住宅にビラを入れて逮捕されるのは共産党関係者や反戦市民グループの方々だけかと思えば、さにあらず。今年の7月静岡で、自衛隊の宿舎に「核武装早期実現」を訴えるビラのポスティングをやった右派グループの人物が逮捕されてしまったという事件まで起っているとのこと。勿論、表向きは住居不法侵入だけれど、「核武装」なんてことがおおっぴらに語られるようになると、アメリカも警戒するだろうし、日米同盟に差し障りが出かねないから、米軍基地反対に負けず劣らず「国益」に反するというわけだ。プリンスホテルの件だって、日教組を断ったまではよかったが、其の後、各地で「真っ当な」保守系市民団体までが、街宣車集団と間違われて、施設利用を断られるというオマケまでついた。「人を呪わば穴二つ」とはこのことである。 我々が、毎年行なっている反戦展示会だって、以前は自民党の保守派の首長に招待状を出せば、やって来て、金一封−その金の出所はともかく−置いていく位の度量の広さがあったが、今の若い世代の保守系議員は「てんでダメ」で、頭から受け付けない。例の中山氏にしても、大阪の橋下氏にしても、どうも発言がいちいちけち臭くてしょうがない。さて、その反戦展示会だが、場所によっては、「右側歩行」の「市民団体」の方々が突如現われ、会場内まで踏み込み、なかなか「丁寧な言葉遣い」で主張をまくしたてることがあって、事実、そうした事例が昨年数件あり、今年の1月に行なわれた全国反戦展示会経験交流の集いで、当事者から様々な報告がなされた。9条の会などが集会を行う場合、右翼団体の街宣活動を警戒して、あらかじめ警察に警護を要請することは珍しくないが、予告なく現われた場合は、あくまで穏便にお引取り頂く努力をする。しかし、もともと「穏便」にやるつもりが相手にないわけだから、なかなか難しい。こちらにしても、あまり警察権力にお出ましになっていただくのは、色々な意味で好ましくないと思っているから、対処法にはそれなりの技術と経験を要するのである。勿論、個人宅前に突如街宣車が乗りつけられるなどということも少なからず起るが、その場合も、余程酷くない限りは、あまりお巡りさんのご厄介になりたくないというのが当事者の本音だと思う。 だいたい、そうした事例に較べれば、今回の麻生宅見学ツアーなど、逮捕に値するような事件ではないし、そもそも家にさえ到達していない。行けば行ったで、シュプレヒコールの一つや二つはやったかも知れんが、その程度の許容性があれば、麻生氏の人気だってちったあ上がるかもしれん。まあ、理由は違えど、安保闘争期に南平台の岸邸がデモ隊に取り囲まれるということがあったから、「見学」など許すと、物事がエスカレートするかもしれんという警戒心が国家権力側にはあるのかも知れない。しかし、「下々の皆様」をふんじばっている暇があるのなら、本腰入れて国の台所を何とかしないと、気が付いたら、3名どころか、3つか4つ桁が違う数の人々に邸宅を取り囲まれていたということになりかねず、永田町のお歴々には、その点、十分「下々」まで気を配った政策をやって頂きたいものである。人間追い詰められれば、法律もへったくれもない。
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昔の似た事例では総理の自宅前まで行ったようですが、このときは逮捕者は出なかったようです。
◇竹下元首相邸前で辞職要求の女性集会
「竹下さん、議員を辞めなさい」――。東京・代沢の竹下元首相の自宅前で十日午前、政治腐敗や佐川事件を追及する女性たちの怒りの声が上がった/午前十時十五分、社会党の岡崎トミ子代議士ら同党の国会議員を先頭に、竹下氏の地元の島根県からの女性グループを含む七団体、約八十人が、竹下氏に抗議文を手渡すために集まった。しかし、警備の北沢署員が「人数も多く、デモにあたる」などとして、竹下氏の自宅前の公道をバリケード封鎖。このため、自宅前まで通された各団体の代表七人が、ポストに八十人分の抗議文を投かんした…以下略
(92.11.10読売新聞夕刊)
2008/10/30(木) 午後 4:41
今回の逮捕はまるっきりめちゃくちゃのようです。ビデオを見るとはじめからタコ親父はうろちょろしていて、突然目指したように青年に襲いかかっていましたよね。警察は党派の活動家ではないような集団だから逮捕でもすれば、すぐおじけずいて運動をやめるとでも思っているのかもしれません。元気だったら私も絶対に参加していたでしょう。30日に渋谷で再度集会があるようですのでここに多くの人が集まって抗議と弾圧ではひるまないというところを見せてほしいです。
2008/10/30(木) 午後 6:05
11月30日の前に6日の日に総評会館で抗議集会があるそうでした。
2008/10/30(木) 午後 6:11
Jinneさん、ふむふむ、竹下さんも随分批判された総理でしたが、まだ笑ってごまかせるだけの余裕はあった。最近の政治家は余裕がない。突っ込まれると、すぐに切れる。社会が、不寛容になったというこに加え、政治権力が、やはり何かを恐れている。そんな感じがありますね。危ない目は摘んでおけということでしょうか。
2008/10/30(木) 午後 9:17
きんとまさん、麻生宅に行くも何も、はるか手前のセンター街のはずれあたりでの逮捕劇で、こりゃいくらなんでも正当性はないでしょう。邸宅前で大騒ぎしたとか、石投げたとか言うなら、そりゃ一応、理屈はつきますけど。6日は、大学でゼミがあるので抜けられないのですが、30日は行けるかもしれません。私の周りにも、この集会に出ている人はいるので、詳細を確認できると思います。
2008/10/30(木) 午後 9:57
確かに最近の政府や政治家は、心の余裕がないように思えます。自信がないということなのでしょうかねえ。もっとも企業家や投資、マスコミも似たようなものですけれど。「人間追い詰められれば、法律もへったくれもない」…思わず笑ってしまいました。そのとおりだと思います。庶民・吉本隆明さんじゃないですが、本当に困ったら泥棒して生きてもいいのだぜです。
2008/11/3(月) 午後 6:49
うしどしさん、言うことの威勢は良いんですが、内容空虚という場合が多いです。だって、府知事が自衛隊かなんかの式典で、メディア批判やっちゃったりするんですから。それも、相当程度の低い。法律もへったくれもないですよ、そりゃ。かなり保守的な私の実家だって、戦時中は、婆ちゃんが、官憲ごまかして、米の供出をボイコットしたりしたんですから。中には、分かってて見過ごした官憲もいたでしょう。その場合、官憲も「決まり」に背いているわけです。この程度のことで逮捕ってのは、世ほど気が小さいというべきでしょう。
2008/11/3(月) 午後 8:24
たしかにちまちましてます(笑)。警察にしてもとにかく何か起こってからでは言い訳が出来ないと思うからでしょうかね。どうも官憲の横暴と言うよりは、そういう意味でのビビリが蔓延している風なきがします。政治家、首長の行動や言動一つ取っても同感ですね。何一つ面倒なことの起こらないことを望んでいるんでしょうが、その傍らでキチガイじみた無差別テロが行われるんですから、やや見当違いな感じはしますね。
2008/11/12(水) 午後 5:00 [ bat**yu2*01 ]
bataiyu2001さん、そういうことですね。こういう閉塞感が漂う時代は、右も左も分かりやすい解答を求めたがりますよ。ケチくさいことやってる間に、物事はどんどん悪化する。私は、個人的には、麻生さんの家を見に行こうという企画自体が妙にケチくさく思えるんですが、それをしょっぴく官憲も、数倍ケチくさいですよ。「行かせればいいじゃねえか」と思いますけどねえ。逮捕するのは、現地に着いて投石でも始めたあとでいいじゃねえか、と(^_^)。 多分、そうはならなかったでしょうけどね。
2008/11/13(木) 午前 10:26