錯乱気流

無茶苦茶忙しいやんけ・・・

書評(人文、社会科学系)

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この書物については、この書庫の前の記事で、予告だけしておいたが、さっそく入手して読んでみた。3時間もかからず読了。博士論文執筆の息抜きに丁度よかったと言いたいところだが、「息抜き」ではすまない内容が綴られている。まず申しあげておかなければならないのは、著者は私にとって「師」の一人であり、ほとんど毎週一緒に飲んだりしている。本年度、著者は在外研究期間に相当するので、大学には事実上出講していない。2月は中国に行っていた筈だが、震災時は日本にいたのだろう。今はどうやら韓国にいるようである。
 
さて、内容であるが、率直にして明解。英語にname namesという熟語がある。要するに、「名前を上げて指弾する」というような意味だが、まさにそれをやっている。何より凄いのが、この書物は、著者がほとんど「思いつき」というか、怒り心頭に発し、地震で身動きとれず、在外研究期間で大学関連の実務や授業に出る必要がなかったという理由も加わり、手元にある断片的資料と、インターネットの公式HPのコピペを集めて構成した、ある意味「やっつけ仕事」だということである。「やっつけ」だが、内容がいい加減かというとそんなことはない。即ち、最初からこの書物は、学術書ではないし、小出裕章氏のような原子力の専門家が書いたような原子力の蘊蓄はないし、広瀬隆のように「反原発」で鳴らしてきたジャーナリストのような警醒の書的雰囲気もない。つまり、3月11日以降の事態の推移を自ら体験しながら、同時にインターネットを中心に情報をあさりまくって、リアルタイムで書きあげて行ったものである。よって、緻密な実証と言う意味では疑問符がつくし、本人自ら「素人」と認めているように、科学的な内容でもない。「原子力村」に巣食う主要人物の過去の発言と今回の事故に対する態度や発言を比較し、彼らの欺瞞性を指弾するという内容である。つまり、本書にでている情報のほとんどは、原子力関連機関や自治体のHPに行けば、只今現在、誰でもアクセスすることの出来るものである。
 
つまり、本書の目的は、この事故に至った「A級戦犯」は誰なのかをはっきりさせるということにつきる。やり玉にあがるのは、日本原子力研究開発機構の鈴木篤之、安全委員会委員長の斑目春樹らである。無論、本当の「戦犯」は既に鬼籍に入っている。内容は、推して知るべしなのだが、彼らの狡猾さやいい加減さがどれほどのものか再確認出来るという意味で、簡潔にまとめてある本書を一読する価値は多いにある。著者独特の毒舌と洒落も入っている。そもそも、日本の原子力平和利用は、核武装を前提として始まった。これが、正力松太郎や中曽根康弘らが抱える、西洋の科学技術の前に敗戦を喫したという屈辱感からくる精神的トラウマに基づくことは、有馬哲夫氏(先日はどうも^^;)らの研究でも明らかにされているが、そのことは、本書でも何度か言及される。IAEAというのは、核不拡散条約との関係で、核兵器保有の現状維持と原子力の平和利用を両輪とした、原子力発電推進国際団体だが、原子力関連機関のHPの情報を読めば、その事が良く分かる。
 
それから、本書を読んで良く分かるのは、経済産業省を頂点に数えきれないほど存在する原子力関係公益法人の数々であり、そこに群がる学者連中、企業群である。まさに、軍産複合体ならぬ、原産複合体であり、彼らが享受する既得権益は、政権がどこになろうが、総理の首が何度すげ変えられようが「聖域」であり、毛ほども傷がつかない難攻不落の城塞となっていることである。さらに、マスコミでさえ、彼らに牛耳られているので、ほぼアンタッチャブルな状況となっている。これは私の感想だが、NHKがもうすでに、原発擁護キャンペーンを7時のニュースを中心にやっている。浜岡や柏崎で「『想定外』を想定した」訓練をやったりしているニュースを福島報道の後に流し、現場の人物のインタヴューが必ず後に続く。「住民の皆様の安全に最大限配慮した運営に努力していきたいと思います」云々と。著者は、このような原子力村の牙城を切り崩す世論の形成が出来なかったマスコミを批判し、また市民もそのチェックを放棄したと書くが、「電気の恩恵を享受している国民に『も』責任がある」という論調を、「一億総懺悔」の理論として拒否する。私も同感で、その事は本ブログでも直接・間接言及した。「騙したほう」と「騙されたほう」のどちらも、それ相当に悪いが、どちらがより悪いか問われれば、前者に決まっているのである。「国民の皆様の事を考えて」とか美辞麗句を並べているだけに、余計に性質が悪い。
 
なお、本書でひとつ学んだことだが、日本の原子力発電の要であるウランの最大輸入国はオーストラリアなのだそうである。ほとんどがオーストラリアから来ている。アメリカのオバマでさえ日本に来ないのに、オーストラリアの首相がやってきて、被災地を回ったのにはそれ相当の意味があったようである。『美味しんぼ」の雁屋哲さんも、オーストラリアとの縁が浅くないようだが、今度行かれたら(今もいる?)、現地で大批判キャンペーンやっちゃって欲しいものである。
 
思うに、この本は、生え抜きの大学の先生なら書けなかった類のものだと思う。大学人というのは、どこかで学閥とか、大学の理事会とかと繋がっていて、分野が違っていても、学問のコミュニティーそのものを批判することをあまりしないからである。著者は、現在大学人ではあるが、もとは会社員であるし、在野の評論家としてキャリアをスタートさせた関係上、どちらかと言えば文壇の人間であって、そう言う意味では物の見方が自由である。なので、普通の学者なら絶対にやらないと思うような、インターネット情報コピペ本まで書いてしまえる。その是非はともかく、その行動の素早さと、情報を効率的に纏める執筆力は「さすが」と言わざるを得ない。ただ、「素早さ」を優先したので、校正はあまく、カツラの西山保安院を「平山」と誤記したりしているが、そのあたりはご愛敬である。いずれ、検証が進み、より詳細な「戦犯」の記録が他にも続々出てくることを期待している(でなきゃ、おかしいだろ)。
 
 
実証度:★★★☆☆ 明晰度:★★★★☆ 難易度:★☆☆☆☆ 有益度:★★★★☆ 総合評価:★★★☆☆
 
書名:福島原発人災記−安全神話を騙った人々
著者:川村湊
出版社:現代書館
出版年:2011年4月25日
ページ数:220
定価:1600円+税
 
この手の書物の書き手は、今後「危険」かもしれません。原子力という既得権益に集う者どもを名指しで批判する書き手を、なんだかんだと理由をつけて、政府がしょっぴく可能性も否定できない。コピーライトがかかっている情報もある。川村さんは、「俺をこんな目に遭わせた奴は誰だ」といいう私墳から、この本を書いたようで、彼らしいと言えばそれまでですが、ネット情報のみで、本丸の入り口までしっかり来ている気がします。本丸に踏み込むと、そこに誰がいて、どうなるのか・・・

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