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『揺れないで』は、韓国MBCが、2008年4月14日から11月28日にかけて放送した朝ドラマである。
この作品には、厳密には主人公が存在していない。いや、あえて言えば、ホン・ウニ演ずる、イ・スヒョンが主人公と言えるが、結局、この作品のテーマは、「家制度」と「個人」の葛藤である。血縁関係が強く、未だ姦通罪が残るなど、封建的要素を強く有する韓国社会を背景に、急速な市場経済の発展と浸透によって、変わりつつある家族の役割と、個人の意志と感情の揺らぎを描いた作品なのである。ある意味、崩れゆく家制度と封建性がテーマと言ってよい。
イ・スヒョンは、キムチ工場を経営するイ・ヨンデの長女である。イ・ヨンデの家族は再婚家庭である。ヨンデの妻は、他の男と不倫関係になり、アメリカに逃亡し、そこで画家となる。ヨンデは、妻との離婚を契機に、キムチ工場の従業員だった、ヨンミと再婚し、ヨンミの連れ子で、長女のミンジョンと長男のドンヒョク、さらに、ヨンミの実母(つまり、おばあさん)を自らの家庭に迎え入れる。ヨンデは、ヨンミとの間に、ムヒョンという男子をもうける。つまり、家族は以下のような構成である。
イ・ボンピル(ヨンデの父親で家長−おじいさん)
ソン・オクブン(ヨンミの母親−おばあさん)
イ・ヨンデ(父親)
チャ・ヨンミ(母親)
イ・スヒョン(長女−ヨンデの実娘)
パク・ミンジョン(次女−ヨンミの連れ子)
パク・ドンヒョク(長男−ヨンミの連れ子)
イ・ムヒョン(次男−スヒョンの異母弟)
長女でヨンデの実の娘である、イ・スヒョンは、ナリホームショッピングという大手の通販会社の営業戦略部長として働くキャリアウーマンであるが、継母が実の母を追い出し、自分の家に居座ったと誤解している。よって、継母にも心を開けず、義妹や義弟とも打ち解けず、自分の家に「居場所」を見いだせずにいる。つまり、彼女は、その生育環境により、「家」に拘り、且つ、愛情に飢えた女性という役どころである。愛情に飢えているということは、愛を乞うても、人を愛することが困難な女性ということである。そんな、スヒョンは、仕事に没入することで、自らのアイデンティティーを保とうとし、そういうところが、会社の会長ハン・ジノに気にいられるところとなり、会長の息子で、会社の後継者と目される、キム・ナンジン演じるハン・ガンピルとの結婚話が持ち上がる。さて、ここから、スヒョンをはじめとする、登場人物による「ウソ」のオンパレードが繰り広げられる。それを、以下に列記するが、所謂「民主主義」っちゅうもんを基準に、各々の「ウソ」に対する、私の感想も書き添えておく。
ウソその1(スヒョン)
スヒョンは、ガンピルと結婚し、財閥の名家の嫁となることを画策する。しかし、スヒョンは、財閥系である会長の家族に、自分の家族が再婚家族であることがバレ、結婚が不可能となることを案じ、家族に結婚するまで、その事を隠すように強要する。
★ こんな大事なこと、いずれバレるのは目に見えているのだが、野望に燃えているので、先が見えていない。
ウソその2(スヒョンの家族)
長女のスヒョンの願いをかなえてやりたいという、誤った親心から、スヒョンの言う通り、再婚家庭であることをひた隠し、普通の家庭であることを、ガンピルの家族に対して演じてしまう。
★ 家族なら、「そんな不自然なことが出来るわけがなかろう。相手にちゃんと説明しろ。それでダメだったら諦めなさい」と言うべきだろう。
ウソその3(ガンピル)
ナリグループの後継者ガンピルは、実は音楽に未練があり、夜はキム・ミニという別名で作曲活動をしている。即ち、二重生活をしているのである。このことを、家族にも、許嫁のスヒョンンにも言えないでいる。前者に関しては、以前、ヘギョンという女性と付き合って音楽活動をしていたのだが、「跡取りのお前が音楽に現をぬかしてどうなる!」と両親から強烈に反対された揚句、ヘギョンと無理やり引き離され、アメリカに留学させられ、その事がきっかけで、ヘギョンが自殺するという悲劇に見舞われている関係上、まだ音楽をやっていることを両親には言えないのである。
★ 自分がやりたいことがあるのに、それを押し殺して二重生活をするくらいなら、「おいらは、会社なんか継がないよ」と宣言し、親から決別すればよいのだが、父親にも母親にも自分を主張出来ないヘタレ。許嫁のスヒョンに言えないのは、ガンピルが、実はスヒョンをそれほど愛していないのに、父親の押しに負けて結婚に傾いているからで、どうもそのあたりの態度も煮え切らない。
ウソその4(ガンピル)
ガンピルが夜運営している作曲スタジオに、アメリカで音楽を勉強していた、スヒョンの義妹ミンジョンが偶然にも助手としてはいる。ミンジョンは、失ったかつての恋人ヘギョンと瓜二つで、ガンピルはたちまちミンジョンに惹かれ、ミンジョンもガンピルに好意を抱くようになる。つまり、ガンピルは、許嫁が存在する状態なのに、その義妹のミンジョンを愛するようになる。途中で、ミンジョンが、スヒョンの義妹であることを知るが、その後も、その事実をスヒョンにも家族にも言わない。
★ 好きな人が出来たのだから、これはもうしょうがない。後継ぎだの、許嫁など、ごちゃごちゃ言わず、自分の本当の気持ちを、この時点で、きっぱりと表明しておれば、後の不幸は避けられた。
ウソその5(スヒョン)
ガンピルの不審な行動を訝ったスヒョンは、ソン・ドゥファンという便利屋を雇って、ガンピルを尾行させるが、その事をガンピルに言わない。
★ 気持ちは分かるが、愛しているなら、やっぱり面と向かって本人に訊くべきであった。
ウソその6(スヒョン)
ミンジョンがガンピルと付き合っていることを突き止めたスヒョンは、ミンジョンと対立。ある日、ミンジョンともみ合いになり、ミンジョンのアパートの階段の踊り場から、ミンジョンが転落してしまう。もちろん、スヒョンが故意に落としたわけではなく、アクシデントである。しかし、その後がいけない。道路でピクリとも動かないミンジョンになんの処置も施さず、そのままその場を立ち去ってしまう。
★ 救急車くらい呼ばなきゃ。
ウソその7(スヒョン)
とにかくガンピルと結婚式さえ挙げて、既成事実を作ってしまえばと、ハン会長と会長夫人を味方につけ、結婚式を挙げようとするが、式当日、ガンピルが式場を抜け出し、ミンジョンを連れ出し、駆け落ちし、自分たちで結婚式を挙げ、二人で生活を始めてしまう。義妹に婚約者を奪われたスヒョンは、ガンピルを取り戻す最後の手段とばかり、服毒自殺をはかり、無理矢理ガンピルの心を戻そうとする。しかし、この服毒自殺は、実は狂言であり、死ぬ気は最初から毛頭ない。しかし、気合い負けしたガンピルが、家に戻ることになり、狂言はひとまず成功。
★ 気持ちは分かるが、死ぬふりをしてまで人をだましてはいけない。この時点で、ガンピルが、自分を愛していないことは分かっているわけだから、そんな男はさっさと諦めるべきだったが、「負けない!」という意思が強すぎて、自分を見失ってしまっている。負けるのは分かっているのに、どんどん深みにハマって破滅した大日本帝国のようなものである。
ウソその8(スヒョン)
ミンジョンが転落した場面は、実は、義弟ドンヒョクの恋人ヨンアに見られていた。そのことを、ヨンアに問い詰められたスヒョンは、便利屋を使ってヨンアを拉致させてしまう。結果、ヨンアは、便利屋によって、売春宿に売り飛ばされてしまい、消し難い心の疵を抱えることになる。
★ 犯罪です^^;。売春宿に売り飛ばすまでは予想していなかったようだが、口塞ぎに拉致させるとは、いくらなんでも・・・
ウソその9(スヒョン)
ガンピルが、いまだお忍びでミンジョンと逢っていることを知ったスヒョンは、最後の手段をかます。つまり、自分は「妊娠した」と、周囲にウソを言うのである。
★ このウソは酷い。結婚詐欺に等しい(-_-;)。
ウソその10(ガンピル)
妊娠を盾に、周囲から結婚を迫られ、ガンピルは不承不承スヒョンと結婚式を挙げる。まさに仮面の夫婦。
★ だから、ウソの関係はダメだって。
ウソその11(スヒョン)
自分は妊娠したと周囲を騙していたスヒョンだったが、実は、本当に妊娠していた!ところが、泥沼の人間関係の中でもがいているうちに、流産!もちろん、その事実も隠し、妊娠しているふりをし続ける。
★ 流産がバレると、ハン家から追い出されると思ったスヒョンだが、さすがに流産を隠すのは無理がある(-_-;)。
ウソその12(スヒョン)
便利屋のソン・ドゥファンから、ヨンア拉致の件で脅され、金を強要される。ついには、ドゥファンが家に押し掛けてきて、その現場を見つけてしまった、義父のハン会長ともみ合ったドゥファンが、鈍器で会長を殴り、意識不明の重体に陥らせる。動転したスヒョンは、現場を強盗の仕業に見せかけ、ドゥファンを逃がし、脅されていることをもひた隠す。
★ 殺人未遂、もしくは、殺人教唆です(-_-;)。犯人隠匿、証拠隠滅罪も・・・。
ウソその13(ガンピル、ミンジョン)
ミンジョンのことを忘れ難いガンピルは、家族に迷惑をかけまいと、ガンピルから距離を置くミンジョンを、「別れるなら、死ぬ」とまで言って、無理やり引きもどし、挙句の果てには、自分が保有している自社の株を売却し、その金で、ミンジョンにマンションと車を買い与え、愛人のようにして囲う。ミンジョンは、「自由も効かない、あなたの愛人はイヤ」と主張するも、「死ぬ」とまで言って、薬をあおろうとしたガンピルに負けて、結局愛人生活をすることに。もちろん、二人とも、この事実を周囲には隠すのだが、すぐにバレる。
★ いや、うーん、やっぱりダメだろ、これは。
ウソその14(スヒョン)
意識を取り戻したハン会長に、「お前は、家を滅ぼす悪魔だ」と詰め寄られたスヒョンは、義父のハン会長と揉み合い、はずみでハン会長が転倒し、頭部を強打。そのまま他界してしまう。しかし。その事実を隠匿。
★ 殺すつもりはなかったとはいえ、事情を説明すれば、警察だってわかってくれそうなものだが、先のドゥファンの件(ウソその12参照)があるものだから、隠す以外にない。その後、スヒョンは、毎夜ハン会長の亡霊に悩まされるようになる。
というわけで、まさに二転三転、紆余曲折、泥沼の展開に末に、塗り重ねたウソを隠し通せなくなったスヒョンは、最後は自首。自分自身を見失っていたことを悟り、ミンジョンやヨンミに謝罪。ミンジョンは、ガンピルとの縁は現世ではなかったものと、止めるガンピルを振り切りヨーロッパに留学。
結局、スヒョンは、複雑な家庭環境を背負い、愛することを知らず、ただ愛を乞い、その結果、自分を愛してくれている存在にも気付かず罪人となる悲しい運命である。スヒョンの実父のイ・ヨンデは、最初は人格者と思ったが、「ここで、お前が毅然としなくてどうする」というところで、家やら常識やらに引っ張られ、なんだか毅然とせず、「お前の、スヒョンの育て方が間違っていた」と結論づけるよりほかにない。ガンピルも、ミンジョンを愛しているなら、親だの、会社だの気にせず、自分の愛を貫けば良いのが、「ここで、いけ!」というときに、「家」に引っ張られて、結局最愛のミンジョンを失うはめに。
164話で、多少間延びしたところもあり、重要な役割を果たしていたキャラクターが、途中から、尻切れトンボのように、パタッと出なくなるなど、長いならではの、大人の事情も垣間見えるが、主要キャラは最後まで熱演。お疲れさまと言いたい。
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