錯乱気流

無茶苦茶忙しいやんけ・・・

映画

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良くこの映画を作ったなと思う。日本では、戦争にまつわる痛みの記憶を、これほど呼び起こす作品は作れないし、その気力もないだろう。とにかく、「えげつない」。韓国に戦後は存在しない。実際朝鮮戦争は今も休戦状態だし、徴兵制は厳然として存在している。韓国は、ベトナム戦争に、アメリカに次ぐ大規模な派兵を行い、その傷から完全に癒えているとは言えない。日本がこれに無関係だったかと言うと、そんなわけがないのである。ベトナム戦争期、日本は米軍の前線基地として機能し、戦場には日本製のトラックやジープが走り回っていた。日本が、直接派兵しなくて済んだのは、集団的自衛権の行使は、「理論上可能だが、実際は不可能」だったからである。
 
この映画に、「パルゲンイ」という言葉が何度も出てくる。これは共産主義者の蔑称である。日本で言う「アカ」に近い。韓国は、イ・スンマン、パク・チョンヒ、チョン・ドファンと、強圧的な軍事政権が続き、その間、言論の自由は事実上封殺されていた。もちろん、彼らは、アメリカの傀儡であり、日本の歴代自民党政権とも縁が深い。ロナルド・レーガン−チョン・ドファン−中曽根康弘は、事実上の「お仲間」だし、リチャード・ニクソン−パク・チョンヒ−佐藤栄作もしかり。要は、「反共」で、彼らの利害は一致しており、韓国と日本は、「北東アジア」における、共産主義に対する防波堤であったわけだ。韓国では、民主化への闘争は、「パルゲンイ」の一言でかたずけられ、ひとたび、「パルゲンイ」と認定されるや、連座制によって、親兄弟や言うに及ばず、親族まで排斥される状況が現実に存在し、済州島(チェジュ島)や全羅道(チョルラド)では、それぞれ、4・3事件(1948年)、光州民衆抗争(1980年)が起こり、合わせて万単位の死者を出している。日本の場合、共産主義者への弾圧は、戦前・戦中の特高警察までさかのぼるが、韓国ではつい最近まで、これで死者を出すような状況が現実にあったわけで、その「えげつなさ」は、特高警察に匹敵するか、或いは、それを上回る。
 
『シルミド』は、1971年8月に起こった実尾島(シルミド)事件をベースにした作品だが、以上のような韓国の「戦後史」を頭に入れて見れば、大変状況が良く分かる。もちろん、映画だから、史実をもとにしたフィクションであり、あくまでエンタメである。しかし、実尾島事件の顛末をかいつまんで書けば、「シルミド」とは、パク・チョンヒ政権下において組織された、北派工作部隊であり、実在していた特殊部隊で、実尾島という島で訓練が行われたことから、そのように呼ばれている。これは、1968年に起きた、北朝鮮特殊部隊による青瓦台襲撃事件を受け、その報復として組織されたもと言われている。金日成暗殺を目的としたが、朴政権が途中で平和統一路線に転換したため、「用無し」とされた。映画では、国家に見捨てられ闇に葬られそうになった部隊が、実尾島を脱出し、バスを乗っ取りソウルを目指したが、途中で韓国正規軍と交戦状態となり、手榴弾で自爆するという、実に痛ましい展開となる。史料公開が十分ではなく、未だ詳細は不明だが、ただ、言える事は、1980年の光州民衆抗争と合わせて、この実尾島事件も、政権と御用メディアによって、「パルゲンイ」の仕業とされたということである。
 
映画では、青瓦台襲撃に加わった北の工作員を父親に持つ主人公が、部隊の教官から「パルゲンイ」扱いされるシーンが出てくる。もちろん、この部分はフィクションで、実際にそういうことがあったわけではないが、南北分断の痛みは十分に伝わってくる。実際、韓国には、光州民衆抗争を扱った『光州5・18』や、4・3事件のドキュメンタリー『RED HUNT I』 『RED HUNT II』なども作られており、後者は日本でも市民団体によって自主上映された。これらの映画を見ることにより、韓国の「戦後」の民主化闘争のあらましをだいたい知ることが出来るが、この『シルミド』もそうだが、かなり凄惨な描写が出てくるので、そのような映像に耐えられない向きは避けたほうがよろしいかと思う。アメリカの『ハンバーガーヒル』 『プラトゥーン』 『フルメタルジャケット』なども、かなりのもんだが、「痛み」と「哀しみ」の表出において、この『シルミド』はまことに優れている。やや、センチに流れたところもな気にしもあらずだが、俳優が全員熱演しており、本当に彼らの演技は素晴らしい。何より、発声が本格的で、もうそっから日本の俳優はかなり後塵を拝する。脚本、映像ともに優れいている。ドラマ『復活』や『魔王』でスターダムにのし上がった、オム・テウンが出ている。
 
このような作品を作らせると、今や韓国は、日本より優れたものを生み出せる。なにより、俳優の「ボイス」が力強い。K−POPやドラマなどでもそうだが、80年代初めまで、大した娯楽もなかった韓国が、短期間の間に、これだけのものを作り出せるようになったのは、まさに驚異としか言いようがない。しかし、韓国の、「戦後」の民主化闘争史は、全てが墓標であると言っても過言ではない。韓国人と付き合うということは、こうしたことが心に刻印されている彼らに直接向き合うということに他ならない。
 
 
 

閉じる コメント(6)

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≫80年代初めまで、大した娯楽もなかった韓国が、短期間の間に、これだけのものを作り出せるようになったのは、まさに驚異としか言いようがない。

その一方で
≫韓国に戦後は存在しない。

全くその通りですね。韓国の方とお付き合いする上で心に留めておくべきことでしょうね。

2012/10/31(水) 午前 11:29 nit*ic*84

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「大した娯楽もなかった」というと語弊がありますけど、もちろん、ドラマや映画は作られていましたが、表現の幅が狭かったってのはあるでしょうね。誤解を恐れずに言えば、ベトナム戦争だって、日本の代わりに派兵したとも言えるわけで、日本人はその件で韓国を非難できる立場にはないはずです。改憲されれば、日本も同じ道を歩む可能性が高いってことですね。韓国・朝鮮と日本は、同じコインの裏表、もしくは合わせ鏡のような存在で、韓国・朝鮮を知ることは日本を知ることだと思います。

2012/10/31(水) 午後 0:50 och**obor*maru

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わたしが中学生ぐらいの頃の韓国(つまり70年代)は、まだまだ具時政権下で検閲があったと聞いています。またヘソ出しルックも禁止されていました(ヘソ出しで街を歩くと逮捕される・・・)

そんな印象から、『ああ、最近の韓国の大衆文化は自由で物凄くレベルが高くなったな・・・ファッションも音楽やドラマも』って思ってしまいます。

とうとう韓国に追いつかれてしまった・・・そんな感じです。だけど昔の韓国のことを思うと追い越されても嬉しい現象だととらえています。

2012/10/31(水) 午後 9:49 nit*ic*84

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5人集まったら逮捕される、みたいなのもありました。もちろん、あれだけのものを生み出すには、血のにじむような努力をしていますから、負の側面もあるでしょうし、韓国社会も急激に市場経済が浸透して、格差が拡大し、自殺率も高くなるなど、弊害も出ています。その意味では、日本も通ってきた道を、韓国も通ってきているということでしょう。日本では、映画はもう60年代から斜陽産業でした。今日本で優れているのは、マンガ、アニメ、ゲームソフトでしょうかね。マンガやアニメは、小説なんかでも問わない、普遍的なテーマに果敢に挑戦していて、それがグローバルに通じる理由でしょう。ところが、ドラマときたら、ほとんどがマンガの実写化だったりします。映画もかなりの部分そうです。やはり、日本が映画の分野で、優れたものを生み出したのは、50年代〜70年代初めくらいでしょうね。今も、単発で、良いものは出ますけどね。それと、アイドルじゃなくって、バンドなどのアーチスト系は、日本はまだまだ層が厚いと思いますよ。

2012/11/1(木) 午前 0:36 och**obor*maru

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わっ!誤変換!
具時政権下→軍事政権下・・・よく意味が通じましたね。お詫びします。
日本のアニメは「斜陽」です・・・ボソッ・・・

2012/11/1(木) 午前 10:00 nit*ic*84

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大体、言ってることは解りますし、誤変換なのは明らかだから。アニメの制作現場が悲惨な状況なのは確かですね。ま、日本は明治以降、バブル期の経済戦争まで、散々戦ってきましたから、もう疲れたんでしょう。「日本人よ、もう戦うのはやめよう」と、言いたい。

2012/11/1(木) 午後 9:33 och**obor*maru


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